パッパとお昼。
「ところで、腹減ったな? 何か食いに行くか?」
「あ、もうお昼?」
二人で色々と話してると、あっという間に時間が過ぎてお昼だった。
「そうだ。焼肉でも行く? 前にお母さん達には奢ったけど、あの時お父さんだけ仲間はずれだったもんね。二人で珠々苑行く? 奢るよ?」
「優子ばかお前、圧倒的に稼ぎで負けてるからって別にな、父さんは娘に奢らせるほどヤワな稼ぎしてねぇぞ? 珠々苑くらい楽勝だっての」
「ホントに? 今の私、軽く30人前とかペロリだよ?」
「……………………よ、余裕だよっ」
顔色が悪くなったお父さんが面白くて、思わずクスッと笑ってしまう。
ちなみに30人前はちょっと優しく伝えた。レベル9になった私は、50人前でも割りとスルッと入る。
「他にも、私がお昼作るってのも……」
「おお! 娘の手料理は素直に食べたいな! いや珠々苑が辛いって訳じゃ無いけどな!? いやぁ娘の手料理食べたいなぁ〜!」
笑っちゃう。白々しさもあるけど、私の料理が食べたいって言うのも本音なんだろうね。
お父さんにはずっと我慢させてるし、今日はいっぱいお父さんに「ありがとう」を伝える日にしようか。
「何食べたい?」
「娘の手料理ならなん--」
「何でもいいって言ったら生米をそのまま出すから」
「--ハンバーグで」
ハンバーグになった。
「材料あるかなー?」
キッチンに行って冷蔵庫をガバァッ!
「挽肉がなぁい!」
「買いに行くか?」
「
「えっ、挽肉から作るのか?」
「ん? なんのためのミンサーなの?」
冷蔵庫の中にはブロックの豚肉があったので、戸棚からミンサーを引っ張り出してちょっと手入れ。からのお肉ドバー! ハンドルぐーるぐる!
お父さんもキッチンに入って、一緒にお料理。…………いや、お父さんはお料理苦手なので見てるだけだけど。
「…………優子、一年前はそこまで料理しなかっただろ? 出来るのか?」
「その頃からお手伝いはしてたもん。あとは上がった知性でなんとか……」
料理はレシピ通りに作れば子供でも出来る。問題は、子供だと道具を上手く使えず、堪え性も無く変なアレンジをするからダメなのだ。今の私なら何も問題無い。
ボウルを引っ張り出し、豚100%の挽肉を作ってそこに入れ、胡椒、塩、卵、ナツメグ、パン粉も入れて捏ね捏ね…………。
合間にアイズギアでレシピ検索。気を付けないと腕輪に挽肉がついて衛生的に良くないが、外すとコンタクトレンズがただのファッションになるので仕方ない。気をつけるしかない。
油が体温で変質する前にささっと捏ねて、そしたら整形してペタペタ叩いて空気を抜く。
大人だったら整形後に手のひらの間をペチペチ投げて空気を抜けるけど、私って八歳児だからね。手の大きさが足りぬ…………。
全部終わったらフライパンに入れて、油無しで火を入れる。
「油は引かなくて良いのか?」
「うん。油を入れるとタネからも油が流れ出るから、入れない方が旨味をお肉に残せるよ」
油や水分を入れると、お肉の油がつられて溶けだしちゃうのだ。それを利用して炒め物をする場合もあるけど、今回は逆にお肉へ油を残したいので、呼び水となりそうな油も水分も入れない。
「ソースは?」
「市販が良い? 作った方が良い?」
「作れるなら作ってみて欲しいが…………」
「じゃぁ作る〜」
お父さんって確か、ハンバーグはデミグラス派だよね。
なら、冷蔵庫からコーラを出してキッチンにドン!
「………………えっ、コーラ?」
「うん。コーラってね、デミグラスソース作る時に赤ワインの代わりになるんだって」
フライパンに溜まった油を少し拝借して、別のフライパンに入れたらコーラ、ケチャップ、醤油、味噌、ウスターソースを入れて油を煮詰める。
ネット検索したレシピだと砂糖もお好みで入れるらしいけど、コーラって既に砂糖の塊だからね。
「…………ん、まだ甘いかな。ケチャップを少し足そう」
味見しながらデミグラスソースに近付けて行き、その間にもハンバーグの様子も見る。私は素人なので、下手にフランベとかしない。アレはプロが目的を持ってやるから美味しくなるのだ。
火の通りが怪しかったら、少し蒼炎で表面を炙ってみる。軽く焦げ目がついてるハンバーグって美味しいよね。
「スキルまで使うのか」
「えへへ、世界で私だけのハンバーグだよ。蒼炎で焼いたハンバーグなんて、お父さん以外に食べたことないよきっと」
「まだ食べてないけどな」
「…………あっ、付け合せ忘れてた。どうしよ?」
「冷凍の野菜とかで良いんじゃないか?」
「……ソースは作って欲しいのに、付け合せは冷凍で良いの?」
「………………そう言われると確かになんか微妙な気がしてきた」
という訳で付け合せも作る。
どっちにしろ、ハンバーグは弱火でじっくり火を通すから時間かかるし。強火で焼くと表面焦げて中は生焼けとか有るからね。今回は豚100%だし、生焼けは絶対にダメなのです。
「…………ごそごそ、ジャガイモあるね。ベイクドポテトで良い?」
「俺は作れないから、特に口は出さんぞ? もう今の時点で美味しそうだし」
野菜室を漁ったらジャガイモがあったので、ついでに人参も出して皮を剥いて一口大にカット。それからミリンと砂糖、料理酒、蜂蜜で調味液を作って耐熱ボウルへ一緒に入れて、レンジでチン。人参グラッセだ。
ジャガイモは皮を良く洗って、芽が無いかを確認して、ダメそうなら芽を抉ってから蒼炎でじっくりと熱を入れる。レンジは人参で使ってるから、こっちは蒼炎で処理して時短を狙う。
「出来たー!」
「おおっ! 美味そう!」
全て仕上がったので、盛り付ける前に冷凍庫からご飯を出してレンジでチンしてる間に、お皿に盛り付け。
「一品料理でごめんね。サラダも用意できなかったや」
「そんな贅沢は言わんよ。娘の手料理ってだけで俺にとっては貴族料理さ」
「えへへ…………」
出来たお料理をダイニングに運んで、温めたご飯もお皿に盛って完成。
「食べよー!」
「おう!」
「…………くぅぅん」
さぁお昼だ! っと思ったら、とても寂しそうな声が聞こえて振り返る。そこには、哀愁漂うお顔で顕現し、床を見てるナイトが居た。
な、ナイトッ…………!
「ナーくん……」
ナイトの分を作るの忘れてた……! ご、ごめんねナイトっ、今すぐ用意するからねっ!
「いや、大丈夫だぞ優子。ナイトの分はお父さんのと半分こするからな」
私が慌ててると、クスクス笑うお父さんがナイトを抱っこして撫でながら言う。
「え、足りる?」
「娘の愛情がいっぱい詰まったハンバーグだぞ。足りないわけ無いだろ。心がいっぱいさ」
ご、ごめんねお父さん。ナイトも……。
「えと、私のも……」
「優子は育ち盛りなんだからちゃんと食べなさい。レベルも上がってて、それでも足りないくらいだろ?」
「……………………はい」
正直、一人前のハンバーグとかポテチ十枚分くらいだよね。足りない足りない。
みんなで頂きますって食べ始めて、お父さんが切り分けたハンバーグをナイトに食べさせて上げてる様子を見守る。二人とも美味しそうに食べてくれて凄く嬉しい。
ナイトも尻尾をパタパタさせて、お父さんの顔をぺろぺろしてる。
ぐ、ぐぬぅ、私のナイトがお父さんとイチャイチャしてる……!
ちょっとジェラシーを感じながら、でも幸せいっぱいの光景に胸がギュッと熱くなる。
今度こそ自分で銅竜を仕留めて、私はちゃんとここに帰って来れた。それが嬉しくて、ニコニコしちゃう。
「えへ、…………お父さん」
「ん、どうした?」
私が帰って来たかった場所。その景色を見て、ただ幸せだなぁって思うんだ。
「…………大好きだよ」
だからこそ、この光をずっと守るために。
銀級ダンジョンへのアタック、ちょっと本気出そうと思うんだ。
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