つかの間、パッパと知る。



 銀級へのアタックを明後日に控えた今日は土曜日。私はダラダラしてる。


 いや、ダラダラは言い過ぎた。けど予定を入れてないのは間違い無い。今日明日は家でゆっくり過ごすって決めてるんだ。


 装備品は着々と届き、物資は三人で分け合って配分済み。もうやる事と言えば、キャンプの手際を磨くか、配達されてくる装備品を待つくらいだ。


 真緒はお友達と遊びに行って、お母さんも何か用事があるらしい。


「なぁ優子。お父さんがお仕事辞めたらどう思う?」


「ふぇ? え、別に構わないけど…………」


 そんな中、リビングでクッキーをモグモグしながらテレビを見つつ、アイズギアでペイッターに呟いたりと色々してる私。


 笹木さんから先日貰った王国ホテルのクッキーが美味しくて、辞められない止まらないモグモグタイム中に、後ろからお父さんにそんな事を言われる。ちなみにお父さんも本日はお休みだ。


 今は家に私とナイトとお父さんしか居ない。ナイトは現在幽霊モードで姿は見えないけど、多分その辺に居る。


 振り返りながら答えると、お父さんは意外そうな顔をする。でも、私としては大好きなお父さんとお母さんを養うくらい何でもないよ? それ、ダメって言ってるのお母さんだからね?


「て言うか、お父さんもどうせ、ただ辞めるだけじゃ無いでしょ?」


「まぁ、そうだが……」


 お父さんが私やお母さん達のヒモに成りたくて仕事を辞めるわけが無い。そんな事は分かりきってる。


 だから、お父さんは辞めて良いかを聞くんじゃなくて、その後どうするつもりかを教えてくれれば良いのだ。


「で、どうするの? アタッカーやる?」


「正直めっちゃやりたいけどな! 俺も娘を虐げたモンスター共を血祭りにあげたい…………!」


 ふむ。お父さんもやっぱり、ダンジョンでゴブリンを見たら覚醒するんだろうか? お母さんと真緒の様子を見ると、多分覚醒するとは思うんだけど…………。


 ネットでも色々言われてるし、どうしようかな。銀級が落ち着いた後ならお父さんもダンジョンに連れて行って良いんだけど…………。


「正直やりたい、って事は違うの? なにするの?」


「いやな、案が多いんだよ」


 お父さんの話しを聞くと、確かに色々とあった。


 まず第一候補はやっぱり私達と一緒にアタッカーをやること。むしろ後々に趣味としてでも始めたいと言ってるので、いつかは確定で始めるみたいだ。


 次に、私達をプロデュースして何かしらのブランドやグループを立ち上げてお仕事にする。


 これは私達をアイドルにしても良いし、私達をモチーフにした装備品を作ってシリーズとして売ったり、そうやってブランドにしたり、やり方は色々だ。


 もっと単純に、ダンジョン素材をお父さんが売り捌く形でも良い。今回は国に投げて他国へと流れてるけど、外交のお仕事をしてるお父さんだったらその辺ちゃんと捌いてくれるだろう。


「…………うん、私が抱えてる素材を適正に捌いてくれるって事なら、正直凄い助かるかな?」


「だろう? 本来なら、今のところ優子や彩、真緒しか取って来れない場所のものを売ってるのに、国が口を出して来て買い手市場になってるからな」


「まぁ、うん。そだね。買い手市場とは言っても、相応の値段は貰ってるけど」


「それだって、優子の機嫌を損ねたら大変だからって理由だろう? しかも他国に売る時に今度は国が売り手市場で捌くんだぞ?」


 確かにそこだけ聞くと、かなり酷いことをされてる様にも見える。


「そうは言うけど、600兆も貰ってるんだよ…………?」


「…………優子。まだそこはお子様なんだなぁ」


「えっ」


「優子。600兆も貰って、それでいくら税金で持っていかれると思う?」


 ……………………えっ!?


「はっ、えっ!? これ非課税じゃないの!?」


「残念。課税対象だ」


「そんなまさかっ!?」


 私はアイズギアを使ってすぐ調べる。ダンジョン産のアイテム売買は確か非課税…………、


「………………あっ、そっか」


「気付いたな? そう、今回の収入はダンジョン関係無いんだよ。だって優子は売買契約もなにもしてないんだから」


 そうだ。私は契約書にもサインしてない。子供だから逆にダメってことで契約書は無かったんだ。


 だから今回の事は、『何故か銅竜の素材が国の持ち物になってて、何故か蒼乃フラムは600兆を手に入れてた』だけなのだ。その二つに法的な接点が無い。わざと接点が無いようにしてあるんだから。


「え、いや、そんな…………」


 売買履歴も何も無いから、この600兆は『ダンジョン素材の売買で得たお金』じゃない事になってる。突然降って湧いた謎のお金なのだ。つまりバッチリ課税対象。


「…………えと、子供でも?」


「ああ、子供でもだな。優子お前、テレビの子役は納税してないとでも思ってるのか?」


「え、あっ、いや、アレはほら、一旦親の収入とかになってるんじゃないの?」


「法的に、例え身内だろうと、その本人が労働して得た収入を他のやつが受け取っちゃダメなんだよ。例えそれが未成年でも、受け取り人が親でもな? だから子役だったり未成年配信者キッズ・ストリーマーだったり、その本人が得た収入は原則、本人が受け取る」


 そして、収入を得たならば、未成年でも納税義務がしっかりと発生する。


「…………そ、そんな、夢の無いっ」


「夢でまつりが動きゃ良いんだがな。そうじゃねぇから税は持ってかれる。ちなみに4000万以上は45%持ってかれる計算だが、下手すると600兆貰った時点で贈与税も掛けられるかもな」


「鬼か!? え、そんなのほぼタダ働きじゃん!?」


「だから、そうならない為に俺が事務をやろうかって事だ。と言うか優子お前、DMからのDDダンジョン・ドル振り込みってアレも課税対象だからな? お前今年の確定申告、大変だぞ?」


「そんなっ!?」


 お父さんに頼めば、税金を抑えられる所はキッチリ抑えて利益を出せると言う。今回のことで言えば、契約の時点からお父さんを挟んでおけばこんな事にはならなかった。


「まぁ、あの笹木って人に連絡すりゃそこまで酷いことにはならないと思うけどな。優子の機嫌を損ねたくは無いだろうし」


「…………そっか」


「でも、最初から俺に預けてくれればもっとスムーズに所得分を確保出来るぞ。素材を外国に売る時だって、外交の伝手つても有るから、関税に関しても外から圧力かけて貰ったり、色々と手はある」


「お父さんがめっちゃカッコイイ!」


 はしゃぐ私を微笑ましそうに見るお父さんは、更に事の展望を語ってくれる。色々と面白い話が沢山出て来た。


「そも、ダンジョン非課税ってのも何時まで続くか分からんからな。今は非課税にしてダンジョン系の物流をブン回す方が国の発展に寄与して得だが、落ち着いてきたら多分、普通に課税されるぞ。一大市場になるのは目に見えてるしな」


「…………そっか。うん、そうだよね」


 こんな巨額が動いてるのに、ずっと非課税は有り得ないか。


 今が非課税なのは、織田信長の楽市楽座みたいな物だろう。最近学校行けないからセルフで勉強してるけど、日本史まで手を伸ばしたらちょっと面白かったよね。


 思わず「織田信長……」って呟いたら、お父さんが「よく出来ました」って頭撫でてくにゃぁぁ〜…………♪︎


 頭撫でられるとふにゃふにゃになっちゃう…………。


「まぁそうだな。楽市楽座的な効果を狙ってんだろう。当然、その効果と費用が釣り合わなくなったら課税はされる。当たり前だよな?」


 もっと言うと、お父さんはこのダンジョンコンサルタントみたいな仕事が今後流行ると確信してるみたいだった。


「というか、恐らく探せば既に何件かあると思うぞ。目端が利く奴ってのはいつも何処かに居るからな。まぁ俺がやるなら、看板娘が世界最強のダンジョンアタッカーな訳だが」


 要するに、アレだ。ファンタジー作品に出て来る「冒険者ギルド」みたいな仕事として、コンサルタントやマネージャー業が流行るんだと。


「…………なんかさ、ダンジョンって言うファンタジーが世界に根付いたのに、現実的で生臭い話だね」


「人が生きてればファンタジーも立派な現実さ。現実は何時いつでも血腥ちなまぐさいんだよ」


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