最終準備。
「はい、ご依頼の品です」
「いやぁ、すまないね。有るだけ欲しいと言ったのはコッチの癖に、全部買い取れないとは……」
「ありったけ持って来ましたからね」
千代田区霞ヶ関。総務省・国土交通省、国家公安委員会警察庁。
依頼を完遂したので訪れた笹木さんの勤め先だ。
「お高いお茶菓子ですねコレ。王国ホテルの至高クッキーですよね」
「日本を託す相手にお出しする物ですからね」
警察庁の最上階に近い場所にある応接室で、私は笹木さんからおもてなしを受ける。一箱で一万円を超えるお高いクッキーを出されてもしゃもしゃ食べながら、高貴な香りが漂う紅茶を頂いてる。
引渡しが警察の本拠地みたいな場所になったのは、単純にセキュリティの問題だそうだ。もう銅竜素材の事はジワジワと国外に漏れていて、下手な場所で取り引きすると危ないそうだ。
流石に私って言う核弾頭みたいな奴を敵に回したく無いだろうけど、取り引き相手はそうじゃない。狙撃でもされたら大変なのだ。
浅田家は女性陣が全員覚醒したし、その上でお父さんが完全にウィークポイントだけど余り気にしてない。
だって、殺れるモンならやってみろって話だし。
もし外国の何処かがお父さんを連れ去ったとする。ナイトが匂いを辿って絶対に追いかけ回して、私が国ごと終わらせてくる。今ならそれが出来る。
誘拐じゃなく、殺害された場合。簡単だ、怪しい国を全部滅ぼす。確実に復讐する。無実の国? 無辜の民? 知らない。お父さんの仇討ちする方が億倍大事に決まってる。
今なら私に勝てる存在は居ないし、私を止められる兵器も存在しない。
仮に、私を止められる存在が居るならば、ソイツが銅竜取ってくれば良いので最初からそんな問題など起きない。
つまり、家族が害される段階だと逆説的に私が最強の生物兵器なんだ。
マジで、やれるもんならやってみろ。根本から終わらせてやる。
まぁそんな訳で、外国のスパイ的な人とかを警戒して警察庁で取り引きだった。
応接室の隣にある、秘匿性の高い倉庫へインベントリから銅竜の鱗を吐き出し、他にも骨素材や皮素材なんかも、その場で値段交渉をして買える分を買ってもらう。
最終的に600兆円くらいの取り引きになってて乾いた笑いが出た。良く予算組めたよなってと思う。
だけど、それだけのお金があっても、銅竜を丸のまま持って来たお陰で政府も全買いは無理だったみたいだ。
まぁ、うん。そうだよね。政府はドロップを基準に依頼してたのに、私たちは覚醒者三人なので全員がインベントリを使えて、全員で銅竜を解体して収納すれば全て持って帰れた。これが政府の誤算だった。
「まぁ、でも、この素材を更に国外へ高値で売り付けたりして早急に追加予算を組むから、また頼むね」
堂々と転売宣言されるのは若干アレな気持ちがあるけど、正直外国の政府を相手に取り引きするなんて面倒だし、今はコレで良いかなって思う。
「銀級の後で宜しければ」
流石にそもそも、銀級のリミットも近いからね。もうね、無理だよ。スケジュールはもうギッチギチだ。
もう少し時間があるなら、私もお母さんも真緒も、全員レベル10まで上げてから行きたいけど。
タイムリミットが一ヶ月を切ってしまった。残りのレベリングは銀級で行うしか無いだろう。
「じゃぁ二日後、銀級アタックを始めます」
「…………日本を、お願いします」
応接室で笹木さんに頭を下げられ、日本の未来を託された。
でも、ごめんなさい。私は正直、日本なんてどうでも良いんです。私が守りたいのは家族だけ。
でもそんなセリフを口にする必要も無い。だって結果的に家族のついでに日本も助かるから。結果が同じなら、あえて相手の希望を踏みつけにすることも無い。
その後、私は笹木さんの案内と運転でまた別の場所まで行き、そこに用意してあった物資をインベントリに詰め込んで行く。
カロリーメイクやスティッカーズを初めとした携行食に、レトルトを中心とした様々な食料、水、ちょっとした調味料にアルファ米。
キャンプグッズも新品で選り取りみどり。着替えもダンジョンアタッカー向けの丈夫な下着とかが大量にあって、生理用品も数ヶ月は切らさない程に置いてある。
うん、これだけ有れば大丈夫でしょ。帰って二人にも分けよう。
「じゃぁ、また何かあったらご連絡下さい」
「ええ。………………銀級攻略、頑張って下さい」
渡す物は渡して、受け取るものを受け取ったら、車で家まで送って貰った。
何回も感謝と激励を繰り返す笹木さんは、子供に命を懸けさせてる不甲斐なさを我慢してる顔だ。
しかし、かける言葉は無い。私が何を言っても逆効果だ。嫌味にしかならないだろう。
もしかしたら、お母さんが口にした「八歳の子供に縋らないと滅びる国なら滅びれば良い」ってあの言葉が、今更ながらに刺さってるのかも知れない。
あの時のお母さんの叫びは、私の心にも響いたから。
笹木さんが見るのは、私の右手。
そう、銅級でドロップするポーションでは親指を治せなかった。今も親指が欠損したままだ。
八歳の私が、国の依頼を受けて肉体欠損。そりゃ、良心を持ってる人なら
私としては、どうせ銀級でもっと強いポーションがドロップすると思ってるから気にしてないんだけどさ。と言うか、自爆して倒した銅竜を相手に、似たような条件でリベンジマッチして指一本で済んだとか充分な戦果でしょ。お釣りが来るよ。
いっちゃえば私の親指一本で600兆稼いだんだよ? なんて高級な親指なんだ……。
それに一応、魔力を現代科学工学にリバースエンジニアリングするのが得意なDDスクリプトさんに義指制作の依頼もしてる。当面の繋ぎとしては問題無い。
だから、あえて声をかけず、私は一切気にしてないと態度で示しながら家に帰った。振り向かず、いつも通りに。
玄関から家の中に入ると、外から笹木さんが車に乗って帰った音が聞こえて、その内気にしなくなると良いなって思う。
「あら、優ちゃんおかえりなさい。注文してた防具一式届いたわよ?」
「あ、えっ!? もう届いたの!? 依頼したの昨日だよ!?」
そうして家族の愛がたっぷり詰まった家に帰れば、リビングでお母さんが出迎えてくれて、テーブルの上にデカデカと置かれたダンボールを示してそう言った。
「優ちゃんのお仕事は最優先だもの。こんな物じゃ無いかしら? それと、若干のグレードアップをした武器も一緒に来てるわね」
「大丈夫なの? 私達の装備作って過労死とか嫌だよ?」
私達の武器防具は無茶なパワーレベリングを行った結果、既にボロボロのズタズタだ。多分一番お金も技術が使われてる私のゴスドラも例外じゃない。
銅竜戦にも使ってたら、十中八九壊れてたと思う。でもそんな有様でも最後まで素晴らしい斬れ味を維持出来たので不満は無い。
今回の銅竜素材集めで余った分も渡して有るので、研究も実験もジャンジャン行って欲しい。合金の比率とか、まだ向上出来る部分はあるはずだから。
…………とか思って任せてたら、早速武器がアップデートして届いたらしい。マジかよ仕事早すぎるよ皆。
「どうする? 武器慣らしに行く?」
「重心も形状もほぼ変えてないそうだから、使い心地は変わらないはずらしいわ。銀級に行くまではゆっくりして良いんじゃないかしら?」
「それもそっか。どうせ銀級で死ぬほど使い込めるし」
着々と、準備が終わる。もう少しで、私達の銀級アタックが始まる。
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