本当の攻略。



 ----ズンッ……!


 音を立て、化け物が地に伏せる。


 一時間か、十時間か、それとも一日か。少なくとも一分とかでは無い。


 脳のキャパを戦闘にきすぎて、どれくらいの時間を殴り合ってたか分からない。


 キャミソールはとっくに破れてほぼ全裸。パンツしか履いてない出で立ちで、左の頬骨が砕けてるのか、腫れ上がった肉で視界が悪い。


 右の脛と、左右二本ずつくらいの肋が折れてる。見れば、右手の親指も無くなってる。


 酷い有様だ。


 けど、


「…………勝った」


 そう、勝った。銅竜に勝った。


 私は、確かに、今日ここで、あの日諦めた私を払拭出来た。


 目の前には、息絶えた銅竜。


 私だ。私が一人で、素手で、殺して見せた敵がそこにたおれてる。


「----シャおらぁぁァアアアアアアアアッッッ!」


 快闊かいかつを叫ぶ。やってやったぞと、この世に刻み付けるが如く大気を震わす。


 死んでる様に見えるけど、実は…………、みたいな事も無い。ちゃんとインベントリに新しい銅竜の素材が追加されてる。


 銅竜の鱗30枚は、もしかして確定ドロップなのかな? それと、今回は骨じゃなくて、皮と翼膜と爪がドロップしてる。もしかしたら紅玉とか、逆鱗とか天鱗とかもドロップするのかな……?


 まぁ良いや。戦果の確認を続けよう。ステータスは…………、


 蒼乃フラム・レベル9。

 膂力B

 魔力S

 敏捷A

 技量S

 耐久B


 おお、全部綺麗に一段階上がったね。良き良き。


 特に魔力がSなのは良いぞ。私の最大火力だし、継戦能力にも直結するし、同レベル帯だと干渉力がピカイチって事だもんね。


「…………ああ、ダメだ。リラックスしたら痛くなって来た」


 ステータスを見てると、砕けた頬や折れた骨達がギチギチと痛み始める。勝利に浮かれて忘れてたけど、今の私は割りと重症だった。


「……指、一本無くなっちゃったけど、ポーションで治るかな?」


 欠けてしまった右手の親指を見る。


 まぁ、現代の医学とかなら上等な義指ぎしくらい作れそうだし、無いなら無いで別に良いか。


 それに、銅級ダンジョンでドロップするポーションは下級品だろうし、これで治らなかったら銀級に行って中級品のポーション探せば良いんだ。多分それで治るでしょ。


 そんな事を考えながら、インベントリからポーションを出してゴクゴク…………。


 ポーションの効果で全身からジュワァ……! って感覚が広がって傷が癒えてく。ほんの数分待てば骨くらいは繋がるだろう。


 今更だけど、銅級だと八層と九層でポーションがドロップする。どのモンスター倒しても2%くらいの確率で出るレアドロだった。結構貴重品である。


「さて…………」


 戦いが終わり、銅竜が息絶え、そしてフィールドに帰還用の魔法陣が光の柱を生み出すボス部屋で振り返り、家族の様子を伺う。


 ナイトがゆっくりと、そして大量に使ってくれたポーションのお陰で二人は元気になってた。


 手を振ると、二人も優しい顔で手を振り返してくれる。えへへ……。


「ん〜……! 本当は駆け寄って抱き着いてスリスリしたいけど! それは帰ってからのお楽しみとして…………」


 お仕事の時間です。


 そう、色々と副次的な理由やら目的があったとはいえ、銅竜の討伐は今回、政府からの依頼なのです。


 ドロップは手に入ったけど、それはそれとして今回は銅級の死骸が一匹まるまる手に入ったので、解体して戦利品を水増ししよう。


 流石に時間的な余裕が無くなってきたから、何時でも銀級に行けるようにしないとね。銅竜丸のまま一頭あれば多少は我慢してくれるでしょ。


「分かってて聞くけど、ドラゴンの解体した事ある人、手を挙げてー!」


「………………私の目の前に今、世界唯一のドラゴンキラーさんが居るんだけどね? その人が未経験なら、地球上の誰にも無理よ?」


「そりゃそうだ」


 私の分かりきった質問に、お母さんが的確なツッコミをくれる。


 銅竜の亡骸をぺたぺた触る私の元まで歩いて来たお母さんは、多分銅竜のブレスで全損したらしい服を新しい物に着替えてた。傷はもう大丈夫そうで、ナイトの治療は上手くいったみたいだ。


「それよりフラムちゃん、服着なさい」


「あ、忘れてた」


 そして側まで来たお母さんに、ジャージを羽織らされる。そうだった、私は今、キャミソール全損で、パンツオンリーのほぼすっぽんぽんさんだった。


 DMが誇るリアルタイム謎の光先輩機能が無かったら、今頃DMの強制生配信で私のヌードがワールドワイドにデビューしてたはずだ。


 私は急いで、いそいそと着替える。


「ところで、クーちゃんは?」


「向こうでナイトちゃんと一緒にダラっとしてるわよ」


「あらホント。…………クーちゃぁーん! 解体手伝ってぇ〜!」


「んみゃっ!? は、はーい! 手伝う〜!」


 こうして、名実共に「銅級ダンジョン攻略者」となった私は、政府からご依頼の銅竜素材を入手したのだった。


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