殺し合い。
「しね」
「ガァァァアアアアアッッッ!」
互いに鳴き声をあげ、竜と獣がその距離を喰らい尽くす。
優子は右手で持った大戦斧に炎を纏わせながら、左手を突き出し蒼炎を噴射する。
竜の顔目掛けて放たれた火炎放射はその視界を塗り潰し、優子の存在を竜の目から一瞬で隠す。
直後、見え無くとも関係など無いと竜が巨大な腕を振り抜き、優子が居るはずの場所を薙ぎ払う。
「ルァウッ!?」
「しね」
しかし竜は空振り、優子の声が股下から聞こえる。既にそこまで肉薄していた。
すぐさま飛び退く竜は、だがその前に優子の大戦斧が足を掠める。
信じられない程の金属音が轟くが、それでも優子の攻撃はしっかりと銅の竜の鱗を斬り裂き、竜の短い悲鳴が
優子は止まらず、振り抜いた大戦斧から蒼炎を吹き出して追撃、与えた微かな傷口を焼こうとするが、足元に優子が居ると理解した竜はわざと足を崩し、勢いよく座るようにその場へと体を落として優子を潰そうとする。
気が付いた優子は、あえてその場に留まった。
「ころす」
これまでの戦闘で刃こぼれ一つ無かった大業物を地面から垂直に、頭を下にして立てた。
「ッッッ……!? ガァァァァアアアアアァァァルアァァァァアアアアアアッッッ……!?」
絶叫。
自らの全体重をかけたプレス攻撃は、優子が仕掛けた大戦斧の石突が自らの尻へと深くぶっ刺さる結果を招いた。
さらに。
「ころす」
「ギュルァァァァアアアアアッッッ…………!?」
大炎上。
優子は大戦斧のヘッドをつっかえ棒代わりにし、地面と竜の尻の間に出来た僅かな空間に小さな体を忍ばせながら、全身から蒼炎を最大火力でぶっ放す。斧にも纏わせて刺さった尻穴の中まで燃やす。
外からも中からも、一気に焼いて殺す。
「グルァアッッ……!」
「ぃぎっ……!?」
このまま殺す。
そのつもりだった優子は、しかし夥しいとまで表現出来る竜の体力を甘く見ていた。
激情に怒り狂う銅竜はすぐに起き上がり、蒼い炎を吹き出す優子を過剰なまでの力で蹴り飛ばした。
大戦斧は銅竜の尻に刺さったまま、深く刺さり過ぎた為に取り返すことが出来ず、斧を防御に使えなかった優子は、地上であれば一撃でビルを崩壊させられそうな蹴りに対して、生身で耐える以外の選択肢が無かった。
「ぁっぐ、ぃあッ……」
この広い空間の中央で行われていた戦闘で、銅竜に蹴られた優子は余りの膂力によってぶっ飛ばされ、
「…………ぃぐっ、ぁえ」
常人であれば耐えるどころか跡形もなく弾け飛ぶような衝撃で叩き付けられた優子は、空気が肺から残らず吐き出され、掠れる意識でただ喘ぐしかない。
ガードした両腕はぐしゃぐしゃに折れている。
背骨も無事か怪しく、肋骨は数本確実に逝っていた。
無事だと分かるのは、両の脚くらいか。優子はそれを理解して、しかし全部無視して構わず立ち上がった。
「…………あ」
ふと、優子は背中に違和感を感じて確かめる。
「……なー、く」
周囲に飛び散った、僅かばかり見える
「ナー、くん」
背中に背負った拙い手製の革袋。その中に収められた最愛の亡骸が、叩き付けられた衝撃で弾け飛んでいた。
血の詰まった風船が潰れて割れるように、優子の
思考が濁る。心が腐る。
--火が燃える。
「…………なぃ」
連れて帰りたかった。家族の元へ、大事な家族を連れて帰りたかった。
「……………………さないっ」
振り返って見た壁には、バラバラになった腐った肉と血と骨がべっとりと張り付き、辺りに散乱している。
これではもう、その身をしっかりと弔ってあげることも出来ない。
「……るさなぃッ!」
火が燃える。火が燃える。火が燃える。
閉じた心が丸ごと燃える。憎悪と殺意が燃え盛る。
「絶対に許さないッッッ……!」
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