六層。



枯死の吹雪コルドゥラっ……!」


「怪獣大戦争か…………」


 ダンジョンアタック開始から何十日も使って、ようやっと来ることが出来た六層。そこはまぁ、やっぱり地獄だったよね。


 ダンジョンの中で地獄じゃない場所なんてほぼ存在しないんだけど、銀級六層は今のところ私の中で最高さいていの地獄である。


 五層の遺跡の中に普通にあった階段を降りて、来た六層。


 階層のルールによると六層はまだ森林のはず。そう思って階段を降り切った先の「箱」から出ると、そこでは『クソデカいゴリラ』と『ビビるサイズのカブトムシ』が喧嘩してた。


 とりあえず速攻で階段がある箱に避難した。相変わらず降ってきたはずの『上』が存在しない謎の箱であるが、破壊不能オブジェクトなのはもう分かってる。あんな怪獣大戦争に巻き込まれて死にたくないから此処に避難だ。


「で、なにあれ?」


 とりあえず破壊不能オブジェクトの中に隠れながらニクスがコルドゥラをぶっぱなしたけど、まだ死んでない様だ。もしかして数時間とか耐える程のタフネスなの?


 最悪なのが、一瞬だけチラッと見えた限りでは、ゴリラもカブトムシも結構な数が居て、大体みんな争ってた事だ。


 ゴリラは目算で5メートルは余裕で超えてて、カブトムシもそんなゴリラの胸くらいまで有るし、体の総質量で言えばカブトの方が大きいくらいだ。


「いやいやいや、あんなのどうしろと」


「ランク4が使えないと六層来れないわけよねぇ」


「え、待って、じゃぁ同じ枠にある武技でも何とかなるの!?」


 とりあえず寒いので、インベントリからコプト革製のマントを取り出して羽織る。


 箱の中から見る外は、至る所で大怪獣バトルが発生してる吹雪だった。アカン、地獄度が上がってしまった。


「…………一応、他のランク4スクロールも買ってきたけどさ」


「おねーちゃん、ニクスはもうむり……」


 六層到着後の初手で魔力を使い切ったニクスを箱の中で休ませる。インベントリからコットを出して底に寝かせて、毛布もかける。


 早速コルドゥラで仕留めきれないモンスターのオンパレードだとは思わなかったけど、最悪の場合は私もスクロールでランク4をぶっぱなすしかない。お母さんでも良いけど、ドレインで魔力を回復出来る私が居るんだからそれで良い。わざわざダウンするメンバー増やすこと無いでしょ。


「しっかし、カブトもゴリラも死なないなぁ……」


 でも、これ、逆にチャンスなのでは?


「えーと、生配信をご覧の皆さん。見て下さい、地獄です」


 私は箱の中から外を見ながら、久し振りに配信配信へ声をかけた。


「政府の誰か、この配信を今見てたらリアクションくれませんかね。ヒートゲージを映し続けてるチャンネルで返事くれたら多分相互にお話し出来ると思うんですけど」


 これだけ強そうなモンスターがわんさか居る階層だ。此処で政府の支援を貰ってランク4を連打して殲滅出来れば、ヒートゲージも一気に減らせると思うんだ。


 そして、本来はヒートゲージを下げる役目は政府の仕事だ。それを私達が肩代わりしてるに過ぎない。


 ならば今、政府の資金力でスクロールを連打出来るなら、政府が負担すべきでは? って思うのだ。配信でそこまでは言わないけど。


 私はいつでもリアクションがあっても気付けるように、視界の端にずっと小さく浮かべてある、ヒートゲージを映しっぱなしのタブを選んで音量を上げる。

 

 普段は邪魔だから音量ゼロにしてあるんだよね。音声は腕輪から鳴る仕様だしね。


 お母さん達も自分のアイズギアを同様の操作をして、インベントリから取り出したイヤホンを接続した。

 

 政府からの返事を配信に乗せるのも微妙だからね。まぁ向こうもDM配信を利用してるんだから、見ようと思えば別窓でいくらでも見れるんだけどさ。


「…………おねーちゃん、何体か倒せたみたい。図鑑に五種類くらいモンスター増えたよ」


「お、良かった良かっ…………、五種類? え、この階層そんなにモンスター居るの!?」


 銅級の四層で襲って来るモンスターも種類が多いけど、あそこって蛇とフクロウ以外のモンスターって全部『寄生虫に操られた準モンスター』みたいな扱いなんだよね。寄生虫モンスターの名前はミゴワーム。


 だからモンスター多目の銅級四層でも、種類だけで言うと三種類なのだ。ちなみに九層でも三種類出る。そんな中で五種類は、かなり多い部類だろう。


 それとも、もしかしてコレから先はもっと増えるのだろうか?


「とりあえず、あのゴリラとカブトの名前は?」


「えーとね、ゴリラさんがガムリアルで、カブトムシさんがレガートだって」


「なんかご大層な響きだなぁ」


 他には黒いキツネのアサシンテール。普通サイズのカバっぽいモンスターのポポ。人間サイズで高速ダッシュしてくる巨大ヤスデ、ストリオ。今のところはこれで全部らしい。


 他にも、まだ死んで無くて図鑑に乗ってない奴も居るかもしれない。


 図鑑にモンスターが乗るにはいくつか条件があり、まず一つが討伐。モンスターを倒せば問答無用に図鑑に乗る。

 

 あとはそのモンスターの部位破壊的なドロップを入手しても乗る。その場合は対象を目視してる必要が有るけども。私以外に誰もレオを倒せてないのに、何故人類がレオの名前を知ってたのかって言うとコレが理由だ。


 戦闘の余波で砕けた爪なんかを拾って帰った人が図鑑に増えたレオの名前を公表したのが最初らしい。実はこれ、最近調べて初めて知った。


 まぁ良いや。とにかく今は六層の攻略か。皆殺しにすれば全部の名前を知れるんだし。


「さて、とりあえず政府からの返答があるまで、凍っていくモンスター達を見守りながらお茶でもしようか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る