飛び級の提案。



 やるべきタスクは殆ど全部終わらせた。


 番組の出演権も処理して、後はお偉いさんから打診されて貸し借り関係無く私が参加するかどうかってところで、研究所からのお使いもコツコツと処理して今は研究に力を入れてるはずだ。また何か必要になったらお声が掛かるかも知れないけど、今はもう大丈夫。


 お母さんとお父さんのデートに割り込んだ日から二ヶ月程が過ぎて、やっとまた学校に行けるようになった。


 そんな記念すべき日の学校初日、私は校長室に呼ばれていた。お昼休みの事である。


「飛び級、ですか?」


「そう、飛び級。どうかな?」


 頭がキラリと眩しい我が校の長、校長先生から打診されたのは、飛び級して中学、ないし高校へ行かないかとの提案だった。


 校長室のふっかふかの革張りソファに深く座りながら、私はアイズギアを操作してすぐに情報を仕入れる。記憶違いでなければ、この提案はかなりの特例措置に当たると思ったから。


「…………あの、それは許されるのですか?」


「ふむ、流石は高レベルと言った所かな。この提案の異常性についてはしっかりと理解してるんだね」


「まぁ、今この瞬間も調べながらですけど」


 飛び級。それは簡単に言うと学年を飛ばして進級、ないし進学をする制度であり、海外ではまま聞く制度でもある。が、実は日本でもしっかりと利用されてる。


 しかし、実のところ日本で行われる飛び級制度は基本的に大学より上からであり、最低でも高校からとされている。中学以下の義務教育下では原則、生徒を平等に扱うべきと定めてあり、どれだけ成績が優秀であろうとも飛び級を認めない場合が殆どだ。


 いや、殆どと言うか全部と言っても良い。少なくとも自分は例外なんて聞いた事ないし、調べた限りではネットにも無かった。


 強いて言うなら、制度の穴を利用して実質的な飛び級を学校内部で実現させるくらいだろうか。


 義務教育では基本、年齢によって就学出来る学年の最高が決まってるのだけど、そこで行われる授業について規制が無い。だから飛び級に足る学力を持つ生徒に対して高等教育に相当する授業内容を与えることで、実質的な飛び級は可能なのだ。


「つまり、一人だけ高等教育を?」


「ああいや、そうじゃない。そうじゃないよ」


 私もそう言った裏技で飛び級するのかと思えば、問えば違うと返される。


「授業内容だけ飛ばすんじゃなく、本当に中学や高校に通ってみないかって言う提案だよ、コレは。と言うかそう言った打診が我が校にも来てね」


 つまり、お国が動いてると?


「えぇと、位置的に考えると、打診があったのは付近の区立ですね? 渋谷学園と、鹿山学園辺りですかね?」


「あぁ、本当に賢いね。話の裏まですぐに理解してくれて助かるよ。ただ、ウチの区だけじゃなく、区外の学校も候補に入ってるよ」


「…………私立は大変ですねぇ」


 教師って職業は基本的に二種類存在する。一つは税金で運営される公立学校に勤める公務員の教師。もう一つは私立などに就職する形で勤めてるサラリーマンタイプの教師だ。


 この小学校は私立であり、オーナーが居る。生徒や保護者はお客様であり、より良いサービスを提供して客を奪い合う客商売でもある。


 そして今回の提案を打診して来た学校とは公立、つまり国がお金を出してる学校で、つまり私に関する利権が私の見えない所で動いてるのだろう。


 飛び級に関しては先の通り、普通は小学生の飛び級なんて認められない。だけど国が特例として何かしらの圧力を掛けたなら、公立に限り無茶が出来るのだと推測出来る。


 校長先生はオーナーや国からそう言った理由で私にこの話をするよう言われたんだろうね。


 代々木公園に徒歩で行ける渋谷周辺に住んでる私は、当然ながら渋谷の学校に通ってる。引っ越した先も渋谷区内である。


 渋谷には小学校が多くあり、しかし中学と高校はそんなに無い。だから区内からの打診と言われれば、どの学校から言われてるのかは大体予想出来る。


 でも区外からも言われてるのなら、大分面倒だと言うのが私が抱いた素直な感想だ。


「実際のところ、どうです? 強制なんですか?」


「んー、まぁ、かなり強い圧力が掛かってるとは言っておくよ」


 校長先生も苦笑いだ。そりゃ小学生一人が通う学校の如何いかんで圧力なんて掛けられたら笑っちゃうよね。


「もちろん、浅田さんの意見が一番強く通るはずだから、嫌なら嫌って言っちゃって良いからね。子供の所在で大人が暗闘して、子供に迷惑掛けるなんて実に馬鹿らしい」


「明らかに私をさっさと『学生』から『大人』にして使いやすくしようって魂胆が透けて見えてますよね」


「全くねぇ、情けない限りだよ」


 ちなみに、この提案は真緒にも行くらしい。しかも、私と真緒がこの提案を受けるなら、別々の学校が好ましいと言われてるそうだ。


「何かしらの派閥のパワーカードにする気満々じゃないですか」


 あれでしょう? 公立学校のそれぞれが誰かしらの駒として使われてる感じでしょ? それで、一つの学校が私と真緒のどっちも抱えるとパワーバランスが悪くなるから、別々の方が良いって事?


 いやぁ、実に胸糞悪い話だなぁ。銀級の問題が解決したから喫緊のトラブルも無いと無茶をしてきてる感が拭えない。実に不愉快だ。


 一般人のマスゴミなら燃やしても揉み消して貰えたけど、この問題に対して暴力で解決は多分出来ない。だって殴り込む先に居るトップが国なのだ。一般人を燃やして国に握り潰させるのと、国を殴って国に揉み消されるのじゃ全然話が違う。


 銀級がブレイクする前なら私の機嫌は絶対に損ねちゃダメだったけど、その心配が無くなった今なら問題ないって事かな?


 今なら私の機嫌を多少損ねてダンジョン関連の進捗が遅れても、次に喫緊のトラブルが発生する頃には誰かしら他のアタッカーが台頭してるだろうって算段なのかな。


 私がレベリングのやり方を広めたし、攻略情報も同じだ。真緒だって効率的なレベリングを開発しちゃったし、今なら私達が居なくてもなんとかなるって考えなんだろう。


「………………ムカつくなぁ。本気で亡命してやろうかな」


「流石にそれは止めて欲しいけどね。私も日本に住んでるから、やっぱり浅田さん一家が日本に居るのは安心出来る」


「じゃぁ国内の銅級を片っ端から踏破しましょうかね。国中に銀級が湧いて大変な事になりますよ」


「それ殆どテロじゃないかい?」


 何を仰るやら。ダンジョンの踏破は合法でしょう? 仮にこの先、何かしらの規制が掛かるとしても、今はなんの罪にも問われないんだから。


 ………………うん。最悪はマジでこの方法を使って国を脅してやろうかな。


「まぁ、取り敢えず持ち帰って良いですかね? 両親とも相談したいし、真緒とも意見を擦り合わせたいので」


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