白の真価。



「おりゃぁ〜!」


 今日の真緒はいつもと違う。おねーちゃんとお揃いの大戦斧じゃなくて、ナックルナイフって言う武器を両手に持って戦ってる。


 銅級ダンジョン二層の洞窟で、ゴブリンとすれ違いざまに首筋を斬った。


「…………すげぇ」


「血が、出ないね」


 真緒が魔力を通した武器でモンスターを斬ると、傷口が凍って血が出ない。返り血で汚れると休憩時間に着替えとか必要になるから、汚れなくて良いなら真緒も嬉しい。


「もぅ! 見てるだけじゃだめなのー!」


「あ、あぁ。そうだよね、余りにも華麗に戦うから見蕩れちゃった……」


「流れるように仕留めるよねぇ。まるでアニメの世界だわ」


「いや、ダンジョンが出来てる時点でもう世界はアニメチックだろ」


「それもそうか」


 ハニーなんとかさん達のレベルを上げる為に、真緒はそのお手伝いをする。でも、真緒はおねーちゃんが手伝ってくれたからレベルも上がったけど、真緒が手伝う時はどうすれば良いのかな?


 分からないままに剣を振ってると、多分これじゃダメだってことは真緒にも分かった。


「……おねーちゃんなら、どうしたかなぁ」


 真緒が手伝って貰った時の事を思い出す。


 たしか、簡単に倒せるモンスターでも、簡単に倒せないようにしてた。沢山集めて、わざと大変にして、いっぱい困った。


 困った分だけ、強くなれる。ダンジョンはそう言う場所だって、おねーちゃんは言ってた。


「………………あっ! そうだっ」


 良い事を思い付いた。真緒はもしかしたら、天才なのかも知れない。


 ◇


 番組とは、基本的に映像を記録として残したものを編集して放映する。生配信であるならば、その進行には気を使い、スケジュール通りに終わるよう苦心する必要もある。


 つまりどう言う事かと言えば、使って良い時間が有限だと言う事だ。


 ダンダンファイヤーはDM生配信なんてかせが有るからライブ一択だが、だからこそ番組の進行をつつが無く終わらせるためには予定時間を守るべきである。


 私はハッピーセットをダンジョン内である程度鍛えてから地上に返り、程なくして真緒も進行の通りに地上に帰ってきた。時間を守れて偉いなぁ。


「結果発表〜!」


 ダンジョンを出た時点でDM配信は終わるので、地上では生配信用の設備が動いて私達をカメラに映す。そうして地上に残ってた司会役が進行し、メンバーがどれだけ成長したのかを確かめる最後のイベントに移った。


 ちなみに私は真緒の生配信を見ないようにしてたので、結果は知らない。


 こっちは滝谷がレベル3、残りがレベル2まで育ったから、まぁ及第点かなって思ってるけど。


 しかし、そんな事を思ってると度肝を抜かされた。


「たった数時間でレベル4!? えっ、待ってソレどうやったの!?」


「えへへぇ〜」


 まるで「頑張ったでしょぉ〜♡」とでも言うように照れる真緒が無限に可愛いが、今はそれどころじゃない。明らかに有り得ない速度のレベリングを達成してる。


 何やら真緒が連れていったグループの皆さんが、心做しか精悍な顔付きになってるのに目が死んでるけど、それも真緒のレベリングと何か関係してるのだろうか?


「これはやはり、驚くべき成果ですよね? フラムさんはどう思います?」


「いや当たり前でしょう? 数時間でレベル4って、経験値の質にもよりますけど殆どチートみたいな上昇値ですよ。一応確認しますけど、最初からあの方々がレベル3とかだったってオチじゃないですよね?」


「それはもちろん」


 司会役の方は番組を繋ぐのに両方の状況をDMで見ていたはずだけど、彼らから見たらこの異常な数値も納得の物なのだろうか。誰も必要以上に驚いてない。


 この現場でレベル4に驚いてるのは、私と滝谷達だけである。


「ニクスちゃん、何したの? お姉ちゃんに教えてくれる?」


「うんっ! あのね────……」


 真緒がやった高効率レベリングの実態。


 それは、レベリングプレイヤーに対して真緒が白雪を使ってデバフを掛けるレベリングだった。


 ダンジョンでのレベリング。それは体験した時間が濃厚な程に、凄惨な程に、苦しい程に効率が上がる採点方式。


 だから真緒は、白雪の速度デバフを味方に掛けることでゴブリン相手に超絶苦戦する環境を作り続けたのだ。


 相手が例え一体だとしても、体が思うように動かずゴブリンにボコられながらも辛勝する。そんな環境をずっと維持して、複数のゴブリンを相手にしても単独のゴブリンを相手にしても同じ難易度にし続けた。


 それこそ、ゴブリンを相手に銅竜戦並の過酷さだって演出できてしまう。


「…………え、画期的じゃね?」


「おい嘘だろ俺レベル3なのに負けた!?」


「いやレベルの総数じゃなくて上がり幅を比べる勝負だからどっちにしろお前は負けだよ」


 何やら憤慨してる滝谷に冷静なツッコミを入れつつ、私は妹が凄まじい功績を収めた事に感動する。


「え、いや凄くない!? つまりこれ、ニクスが居たらクソ雑魚モンスターを相手にいくらでも経験値が回収出来るって事じゃない!?」


「おねーちゃん、ダメっぽいよ」


 ニクスがゴブリン相手にもう試してたらしい。凄まじく苦戦する程の重デバフを自分に掛けて戦ってみたが、感覚的に経験値が入ってくる気配が無かったそうだ。


 ふむ。やっぱレベル差があると経験がゼロになるとか、そう言うの有るっぽいな。まだ検証が少ないので断言は出来ないけど、真緒のデバフを受けた状態ならゴブリンが相手でも知覚出来る程度の経験値は手に入りそうな感じがする。


 それでも全く経験値を感じられなかったなら、やはり制限があると見て良いだろう。


「まぁでも、ニクス式レベリングが破格の効率ってことは間違い無いけどね」


 冒険者ギルドを設立する時、真緒のレベリングを受けられるって言ったら参加者が溢れかえるだろうなぁ。


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