判明したカラクリ。



 カーバンクルが使う速攻魔法のカラクリが判明した。


「アレはね、この額にある宝石に魔法を保存してあるのさ。カーバンクルが特別器用で魔法陣を一瞬で書き上げてる訳じゃぁ無いんだよ」


「なるほどぉ〜」


 宿の女将さんが自分の額を親指で指しながら教えてくれたのは、宝石の中に魔法陣を記録してるって事だった。ちなみに女将さんはケモ度が高いタイプの獣人さんで、アルビノっぽい美人さんだ。そしてお手々にはぷにぷにの肉球が見えてるから、カーバンクルはウサギ系統じゃ無いらしい事が分かった。


 ウサギに肉球は無いからね。カーバンクルはウサギじゃない。


 いや、違う。いま重要なのはカーバンクルがどんな獣かじゃない。魔法の事だ。


「つまり、カーバンクルは額の宝石に魔法陣の手順まで保存してあるから、一瞬で再生・・出来るんですね」


「そうさね。かく言う私達サナの民も、同じように魔法を使えるからねぇ」


 サナの町の獣人さん達はサナの民と言うらしい。サナ族? 獣人サナが居る町だからサナの町なのか。ふむふむ。


 酒場のカウンターに座って軽食を食べながら、女将さんを独占して質問を続ける。お店は客足が落ち着いてるので許して欲しい。他にも従業員居るし。


「じゃぁ、サナの民やカーバンクルじゃないと魔法の即時使用は出来ないんですか?」


「いんや? そんなの、魔導具を作れば良いだろう?」


「ほむ、魔導具ですかな?」


 女将さんが言うには、要は魔法陣を一瞬で完成させれば良いだけなんだから、それを補助する道具を作れば良いという。言われてみれば全くもってその通りや。


「でもどうやって作れば?」


「簡単さね。魔力を通す素材を紐状にして、それで魔法陣を描けば良いのさ」


 ………………たしかに!?


 いやめっちゃ簡単だコレ! 紐状の素材で魔法陣を描いたら、紐の端を持ってそこに魔力を流し込めば、勝手に魔力で一筆書きしてくれる!


 そうか、サナ族やカーバンクルの宝石も、内部で似た様な処理をしてるのか。たしかにコレなら一瞬で魔法が使えるわ。


「長く使うなら鉄を使いな。使い捨てで良いなら木材や紙で大丈夫だよ」


「…………ああ、なるほど。紙に糸で魔法陣を描いて、押し花みたいにすれば『スクロール』みたいなのが作れるのか」


「ちなみに、素材が脆いと魔法の発動に耐えられなくて燃えちゃうからねぇ。紙や木材だと使い捨てになっちまうのはそれが理由さ」


 ちなみに、サナの町にはスクロール売ってないのか聞いたところ、サナ族が魔法を即時発動出来ちゃう種族なので作ってないそうだ。たしかにそりゃ要らないよね。


「その手の道具を作れる人って町に居ませんか?」


「鍛冶師の爺さんにでも頼めば、作ってくれるんじゃ無いかい?」


 おお、鍛冶師とか居るのかこの町。ていうかもしかして装備も買える? 地上で作ってもらうのと此処で作ってもらうの、どっちが良いかな。


「どうしようお母さん、今から行く?」


「…………おねーちゃん。ニクスもう疲れたぁ」


「まぁ、ニクスちゃんはフラムちゃんとデートしてたものね。先に休んでる?」


「うん〜……」


 いっぱいはしゃいで、ご飯も食べて、リラックスしたらお目々がしょぼしょぼして来たニクス。可愛いのでそのまま寝かせてあげよう。後でお部屋に寝かせてあげるからね。


「鉄を素材に出来るなら、武器にも魔法が刻めるんじゃ無いかしら? それなら早くお願いした方が良さそうよね。依頼して翌日出来てるって訳でも無いでしょうし」


「それもそっか。じゃぁニクスをお部屋に寝かせたら、今から行こ? 武器にクロウの魔法陣刻んで貰えれば、これからの攻略がずっと楽になるよ」


「シールドを刻んだ腕輪とかも必要よね。ニクスは白雪で防壁作れるけど、お母さんの紫電は防御が苦手だもの……」


「ああ、うん。防御大事だね」


 女将さんから鍛冶師の居場所を簡単に聞き、それからニクスをお部屋に寝かせて出発。


「もしかしてサナの町って、…………住める? DDさえ有れば生活出来るよね、此処」


「かも知れないわね。お父さんも連れてきて、此処に住む?」


「いや、でも、そうすると私生活が24時間全部強制配信されちゃうよ」


「そうなのよねぇ。配信止められたら良いのに……」


「まぁ、そうしたら生活してるだけでDD稼げるから、完全に不労所得で生活出来るって見方も出来るよね」


「お母さん、私生活を売り払ってまで暮らしたいとは思わないわよ」


 そんな雑談を挟みつつ、町を歩いて目的の鍛冶屋へ。


「へいらっしゃい! ご注文はなんでい? 包丁か、鍋かぁ?」


「武器で」


「あい武器一丁!」


 二階建てくらいのお店で、ハンマーが二つ交差するような看板が入口かかった鍛冶屋に入ると、中にはめっちゃ威勢の良いケモ耳お姉さんが居た。ケモ度低いタイプだ。女将さんはアルビノだったけど、このお姉さんは褐色の毛並みに褐色肌の『如何にも鍛冶師』って感じのキャラである。


 肩脱ぎのツナギにねじり鉢巻きと、なんかもうイメージがコッテコテだ。


「とまぁ挨拶は良いとして、中へ入ってくんな。要件を聞こうじゃぁねぇの」


「あ、今の挨拶だったんだ。えと、お願いします」


 どうやら最初のやり取りは挨拶だったらしい。掴みはバッチリと言わんばかりに奥へと招かたれ。ああ、「入ってくんな」は「入って来い」って意味だね。江戸っ子的な喋り方だ。


 さてさて、ダンジョン内部のNPCが作る武器は、地上と比べてどうなのか。気になるところだね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る