明けない夜は走って越えろ。
「おはようフラムちゃん。朝のご飯は用意してあるわよ」
「ふぇぁ……、あり、ありがと……?」
「おねーちゃん、食べさせてあげぅね!」
朝起きると、なんか家族がめっちゃ優しいかった。何事?
二人は夕方頃、先に寝かせてあった。その後深夜くらいに起きた二人と交代して眠り、今は…………、朝の五時か。
ダンジョンの中で六時間近い睡眠を取れるのは大きいな。体の調子がとても良い。
「ん、絶好調!」
「そう。なによりだわ……」
「あ、ちょっ、強制配信されてるからあんまり撫でちゃふにゃぁあ……♡」
お母さんに頭を優しく撫でられてふにゃふにゃになっちゃう。最強のダンジョンアタッカーっぽい威厳とか、秒で消し飛んだなコレは。
「おねーちゃん、はい♪︎ あ〜ん……♡」
「……あーんっ」
--ぱくっ。
美味しい! 妹にあーんって食べさせて貰えるだけで世界一美味しい!
温めただけのレトルトシチューが、何よりも美味しい。これが幸せの味か……。
隠し味は愛情って言うけど、マジだよね。マーちゃんの……、クーちゃんの愛情が染み渡ったシチュー美味しいよぉ!
ダンジョンの九層って言う地獄に居るのも忘れそうになるほど楽しい。幸せでニコニコしちゃう。
え、なんだこれ。なんか突然幸せ過ぎるな。どうしたんだ? 昨日までが地獄過ぎた反動なの? でも残念。今日は地獄の総仕上げだからもっと地獄だよ。
「わん!」
「あ、ナイトもお疲れ様。すぐ休む?」
「ぁぉん!」
「先ご飯ね、りょーかい」
不寝番の警らから戻ったナイトにもシチューとパンを差し出して、皆で食べる。
寄ってくる蜘蛛は蒼炎の塊を投げ付けて吹っ飛ばす。ダンジョンでは食事の時間なんて無理やり確保するのだ。
「ナーくんが近場を制圧してるはずなんだけどねぇ。こんなにすぐ寄ってくるなんて、ポップ速度早くない? 気のせい?」
まぁ、モンスターポップの速度なんて私は知らないのだけど。
ご飯をパクパク食べ終わったら、また今日のレベリングが始まる。
「ふぅ、ごちそーさま。…………私が知らなかっただけなのかな、それとも一年で伸びたのかな。レトルトも凄く美味しいね?」
「そうねぇ。ウチではあんまりレトルトは出さないものね。でも、フラムちゃんが寝てた一年の間も、企業努力はあったと思うわよ?」
「でもでも、おかーさんのご飯が一番美味しいよっ」
「それはそう」
「ぉんッ!」
「ふふふ、ありがとうね。ダンジョンでも振る舞えれば良いんだけど……」
別に、インベントリを活用出来る私達なら材料や機材を持ち込めば、ダンジョンの中でも本格料理だって作れる。
そうじゃなくても、家で大量に作ってインベントリに保存しておけば良い。そうすれば、すぐに出来たて料理が食べれる。
「ダンジョンで料理するのは流石に危ないよ。それに、キャンプするならキャンプを楽しも? せっかくなんだし」
こんな地獄だ。怖がって傷付いて、ただ過ぎ去るなんて逆に癪だ。
ダンジョンを舐めたりしない。けど、ダンジョンをダンジョンとして警戒した上で、私達はダンジョンキャンプを楽しめるくらいの強さが欲しい。
じゃないと、こんなに怪我して傷付いて、心や人としての在り方までグチャクチャにされて、その結果得るのが強さだけなんて、とんでもない大損だ。
私にとってダンジョンとは復讐対象だ。
けど、ただ復讐するだけじゃない。私が奪われた物と同じだけをダンジョンから徴収しないと、まったく割に合わない。
だから楽しむ。無くした物を取り戻す為に、ダンジョンキャンプくらいは楽しまなきゃ損だろう。
「という訳で、ダンジョン内では基本的にキャンプ飯です! お料理するとしてもキャンプ飯です!」
このクソアトラクションを遊び尽くして虐め尽くす事で私の復讐は完成する!
私のこの身と魂に刻まれた怨念は、明けない夜の様に深く広い暗雲だけども。
夜が明けないって言うならさ、星の反対まで走って行けば良いだけの話しなんだよ。
ああ、でも、もし銀級や金級にてナイトの蘇生方法なんてものが見つかったら、まぁ、うん。全力ビンタ五千兆回くらいで許してあげようかな。それできっと私の
「あ、後片付けは私がやるよ。魔力も私が一番だし、インベントリ容量も私がトップでしょ」
「そう言えば、ナイトにもインベントリが有るのよね?」
「あー、そういや、そうだね。…………ナイト?」
「わう?」
ナイトにお願いすると、キャンプグッズを全部インベントリにしまってくれた。ナイトのスキルは守護霊であり、蒼炎はあくまで私のスキル。
インベントリはスキルを経由して出し入れをするスキルなので、ナイトのインベントリを使うとどうなるかと言うと…………、
「うわっ、『すっ……』て消えた!」
「テントもコットも、幽霊みたいに消えたわねぇ」
「ナーちゃんスゴーイ!」
「わう!」
お片付けが終わり、朝の
…………いや、麗らかだったかな? ちょいちょい蜘蛛が襲って来たけど、麗らかとは?
まぁ良いか。
「よーし! 少し蜘蛛相手にウォーミングアップしたら、とうとう銅竜に殴り込むよっ!」
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