冒険者ギルド。



「まおちゃん、またねぇ〜!」


「ばいばーい!」


 飛び級の提案がされたとは言え、即座に私達の通う学校が変わる訳でも無い。


 校長先生にはコチラの望みを伝え、後は戦法の返答待ちとなった今日。私は真緒と下校するために妹の教室まで足を運んだ。


 もちろん、真緒が学校で浮いてると聞いたから現場を押さえてやろうと思っての行動でもあったのだが、どうやら「浮いてる」の意味合いが少し違った。


 誰も彼もが真緒の事を大好きであり、今ならスキルと魔法の存在もあって軽くアイドル的な人気を博していた。


 つまるところ、真緒は控えめに言ってもクラスの人気者であり、大人気過ぎて少し距離が出来てしまってる感じだった。


 男子は男子で真緒とお近付きになろうとすると「お? 抜け駆けか?」と視線でバトルが始まり、女子も女子で真緒を自分のグループに引き込もうと牽制し合う。


 本当にここは小学一年生の教室かと疑問を抱いてしまう程には、水面下の戦いは熾烈を極めてる状況だった。


 その結果、確かに真緒は「浮いて」たし、気軽に友達を作れそうな状況でも無かった。想像とは真逆だったけど。


 もちろん私の知名度も健在で、教室に真緒を迎えに来ると教室の喧騒はピタッと止まって、皆がカチンコチンに固まって私を見るのだ。そして一拍の後に大歓声。わたしゃアイドルかな?


 まぁアイドルと一緒にテレビにも出たし、似たような物か。


「おねーちゃん、今日は寄り道するのー?」


「ん? あぁいや、今日はお父さんに呼ばれてるからそっちに行くよ。マーちゃんは一回帰りたい? 特に何も無いなら直で行くけど」


 下駄箱で靴に履き替えたところで真緒に聞かれた私は、帰りの予定を伝える。今日はお父さんが設立する冒険者ギルドのが準備出来たらしいので、その下見に行くのだ。


 普通ならお父さんの仕事における職場が用意出来たからって私達も下見する必要なんて無いのだけど、冒険者ギルドは私達も利用するので事情が異なる。


 と言うか、私達の為に設立される会社だしね。


「と、言うわけで今日もお願いね、ナーくん」


 校舎から出て正門前でナイトを召喚する。最近はお父さんの犬耳に対抗して何故か私に犬耳を生やしたがるナイトのお陰で、ナイトを呼び出してる時以外は犬耳と尻尾がデフォルト装備になってる私。


 頭上でピコピコと動く犬耳がしゅるんっと抜けて、霊体のナイトが青い炎を纏って顕現する。


 霊体であり体をスキルで構成するナイトは体の大きさも自由自在だ。アムール虎よりも一回り大きいサイズで現れたナイトはドッグライドも装備した状態で、すぐに騎乗可能となってる。


「あ、蒼乃フラムさん! 是非お話し──……」


「うるさいの、めっ!」


 ナイトに乗って校門を出ようとすると、人死ひとじにまで出してるにも関わらず一切めげないマスコミがカメラとマイクを向けて来る。いやホントめげないよね。そこだけはちょっと尊敬するよ。


 そしていつもの様に燃やそうとすると、私より先に真緒が白雪を使って撮影陣を凍らせた。


 見たところ、漫画みたいにガッチリと凍ってはいるけど、どちらかと言えば停滞のデバフが主体で凍死させるような氷では無さそうだ。しかし、機材も含めて人員がカッチカチに凍ってるのでどうしようもない。


「……マーちゃん? 今の、スキルだけじゃないよね?」


「うんっ! 氷結放射ホワイトブラストっていう魔法だよ。おばーちゃんに教えて貰ったの!」


 待って欲しい。私それ知らない。


 真緒の言うおばーちゃんとは、サナの町にいる魔法特化お婆さんの事であり、彼女は魔法のセンスが高い真緒を殊更ことさら気に入っていて、そんな彼女の事を真緒も気に入ってる。


 なんなら、姉や母と言う立場にありながら、同時に始めた魔法修行で真緒に水をあけられた私達を鼻で笑ってるくらいだ。ちくしょうが。


「あ、もしかして魔女さんがマーちゃんに作ったオリジナル魔法の一つ?」


 真緒はランク4の魔法を独力で成功させた事で本当に気に入られていて、未だその理論やメカニズムがよく分かってない魔法陣を真緒専用に作ってもらって居た。この魔法はその一つだろう。


「うんっ!」


 聞けば、元々は一瞬で対象を凍り付かせる冷気と水気を放射して相手の行動を阻害するだけの足止め用魔法らしいのだが、真緒の白雪を練り込んで使うと術式と魔力属性が相乗効果を起こして飛躍的に威力が上がるのだとか。


 それを見越して、必要ない効果を削ぎ落として白雪の魔力で発動する前提で組み直した魔法陣であり、真緒以外も魔法陣を構築すれば使えるのだが、白雪無しで使うと消費魔力と効果が見合わないゴミ魔法と化すらしい。


「え、何それ私も欲しい」


 専用魔法とかロマン過ぎるじゃん。私も蒼炎解放ブルーブラストとか欲しい。


「まおもね、おばーちゃんにお願いしたんだけど、『あいつには要らんじゃろ』って」


「いや要るよ!? 何言ってるの!?」


「魔力使いほーだいだから、魔法でこうりつ? 上げなくても良いだろってゆってた」


 真緒も私の専用魔法をお願いしてくれたらしいのだけど、魔女さんにダメだしされたそうだ。そんな馬鹿な事あるか。


 魔法っていうのは、水で例えると分かりやすい。


 例えば、両手を使って水を掬う。それをえいやーっと遠くに投げるのがスキルである。魔力をただ放出するだけ。当然ながら効率は最低レベルである。


 スキルがそれでも強いのは、両手で掬ったそれが水じゃなくて硫酸とかだから、浴びた相手がダメージを受けるのだ。


 で、魔法とは術式で作られた水鉄砲みたいな物で、当然ながら同じ水量でも効率良く遠くに飛ばせるし、そこそこの威力がある。


 これがエアポンプ式水鉄砲やウォーターカッターなど、ランクが上がっていく毎に同じ水量でも威力に差が出てくる。これが魔法である。


 魔女さんは私の蒼が魔力を無限に回収出来る能力を持ってるから、必要なら津波のように乱暴に使えば術式要らんだろって言いたいんだ。でもそう言う事じゃ無いじゃん?


 例えば、真緒が魔法によってウォーターカッターみたいな威力を出せば数リットルで済む敵に対し、私は学校のプール並の水量を用意してダムを決壊せた時みたいな荒い運用が求められる。


 当たり前に効率が悪いし、私だって魔力を無限に用意出来るだけで瞬間的に用意出来る魔力量は無限じゃないのだ。


「ちくしょう、今度サナの町に行ったら文句言ってやる!」


 そんなこんな、雑談を重ねていたら目的地に着いていた。ナイトタクシーは快適な乗り心地だったよ。


「ナーくん、ありがとね」


「わぅ!」


 辿り着いたのは台東区にある大きなビル。立地的には渋谷区と葛飾区の中間辺りにあるので、東京に発生した両ダンジョンに対して公平な位置なのでバランスが良い気がする。


「おねーちゃん、ここ?」


「そうそう。このビル全部がそうらしいよ」


 大通りに面してる大き目な雑居ビルで、既に改装も終わってるように見える。真っ白い外観で清潔感のあるオフィスビルみたいに生まれ変わってるその場所は、一階だけが雑多な印象を受けるチグハグな雰囲気だが、これは狙ってそうしてるんだろう。


 すぐ側には専用の大きな駐車場もあり、この辺の条件はかなりシビアに絞り込んだのだろうと伺える。


 一階は大きく開いた扉があり、施設としては既に稼働しているのか、入ってみるとエアーカーテンが屋内と外気を遮断していた。


「…………いざかや?」


「まぁ、そうだね。居酒屋って言うか酒場だね」


 内装はファンタジー作品に出て来る酒場然としていて、本当にアニメの冒険者ギルドみたいになってる。


 丸テーブルが並んでいて、カウンターがあり、恐らく依頼などを張り出すらしい掲示板みたいな物もある。我が父ながら狙い過ぎな気もするけど、一周まわって今の世の中だとウケが良いのかも知れない。


「おぉ優子、真緒、来たのか」


「お父さん」


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