内覧。
「なぁ優子、どう思う?」
「何が?」
「この内装」
お父さんに聞かれ、少し思案する。この質問は何を求めての事だろうか。
「お父さんはどう思ってるの?」
「正直、やり過ぎたかなと」
「ああ、自覚はあるんだ……」
冒険者ギルドの一階はファンタジー作品の酒場さながらであり、ともすれば映画のセットにすら見える。明らかに
「まぁでも、こっちの方がウケが良いんじゃない? 皆もダンジョンなんて非現実が現実になったからはしゃいでる面はあるんだし」
世界にダンジョンが生まれ、自分が
私はダンジョンが生まれたことで地獄を見たし、迂遠ながら家族も巻き込んでしまった。いや迂遠じゃないか。全員が直にダンジョン入りしてるんだし。
だけど世間一般では基本的にダンジョンとは娯楽なのなのだ。現実に現れた非現実。
「どんな形で運営するの?」
「一階は飲食関係の許可を得て大衆居酒屋の
確かに、居酒屋の店員を募集する形ならすぐ集まるだろう。特殊な形態になると予想されるギルド職員の募集よりも遥かに楽だと私でも分かる。
「それで、地下は倉庫として使う。ダンジョン製品の保管を担う人員を確保して、あとは地上二階以降を普通の事務スタッフを集めて回すつもりだ」
「ふーん……」
「ちなみに、あそこに見えるクエストボードは飾りだ。基本はスマホや通信端末で依頼なんかを処理出来るようにする」
「ハイテク」
それファンタジーって言うかSFにあるタイプのやつじゃない?
携帯端末で仕事を請け負ってそのまま宇宙船で仕事に行く感じのやつ。
「いやさ、実際ファンタジー作品に出てくるクエストボードって、あれはその周辺の依頼に限ったものだろ? 交通と通信のレベルで遠くの依頼なんて貼り出せないんだから」
「まぁ、物語によっては魔法で通信してたりするけど」
「それでも惑星全土から依頼が来る訳じゃ無いだろ? 地球だとネット経由でいくらでも依頼が来るんだぞ? クエストボード程度じゃ管理しきれんだろ」
「それもそうだね……」
アメリカや中国だけでも凄まじい人口と企業が存在するのだ。そこから仕事を受けるだけでも、この酒場にみっちり依頼書を詰めたって足りないかも知れない。
だったら最初から電子情報として管理した方が楽だしい早いし確実か。
「なるほどねぇ。で、進捗はどのくらいなの?」
「言うて五割かな」
これは、思ったより進んでないと思うべきか、もう五割も終わってると見るべきか。
「スムーズに進んでそれ?」
「いや、俺もダンジョンに潜るつもりだから、代表レベルの仕事が出来る奴を探して引き継ぎをしないと話にならないだけだ。つまり全然スムーズじゃない」
なるほど? 雇われ店長的な存在を探してる段階なのか。五層を越えられる人材はまだ貴重だし、お父さんの考えてるプランではお父さん自身も遊ばせておく余裕が無いのかも知れない。
「そう言えば、何組か五層の突破に成功してたよね? あの人達はスカウトするの?」
最近テレビでよく見るアタッカーが居る。浅田家だけの偉業だった五層越えを成し遂げたとして、三組ほどのパーティが現在とてもホットなのである。
一組は「スキルなど要らん!」とばかりに筋肉を全面に押し出して攻略を続ける『筋肉旅団』なるアタッカーズ・パーティ。
一組はお母さんにライバル意識を持ってるらしい槍使いをリーダーとした『アンダーランス』って名前のパーティ。
最後の一組は、体の小さな女子大学生の五人組で活動をする『リトルフラワー』さん達。
「一応連絡はしたけどな、筋肉と槍使いは保留。リトルフラワーの五人は二つ返事で加入を約束してくれたが」
「ありゃ、他の二組は良い顔されてない感じなの?」
「槍使いは彩に対抗する気持ちが拭えないんだろうな。筋肉は良く分からん。変な条件付けられたし」
「条件?」
「ああ、なんか『お前も筋肉にならないか?』とだけ返信が来たんだ。意味が分からなくて保留にしてる」
相手が保留にしてるんじゃなくてお父さんが保留にしてるのかーい!
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