パパレベリング。



 家族全員で来た銀級ダンジョン。


 また隠しダンジョン騒動で学校は長期間休む事になるから、それも踏まえて笹木さんには連絡を入れておいた。


 私の知らない間に、ぼちぼち銀級の攻略に向かう人達が居るみたいで少しだけ人が居た。銅級はリス地がランダムだったけど、銀級は固定なのだろうか? 人が戦ってる場所に出て来てしまった。


 五層を超えたダンジョンアタッカー達が徒党を組んで一層の兎狩りをしているのである。


「おぉ〜、頑張ってるねぇ」


「俺もちょっとならして来ようかね」


 レベリングは過酷であればあるほど効率が上がる。そして津波のようにモンスターが出て来る銀級の一層は質の良いレベリングを行うには丁度良い場所らしい。


 私が攻略情報を配信にアップしてる事も理由の一つだろう。思ったよりも人が居て賑やかだ。


 初期リス地点にはモンスターが居ない仕組みを利用して、ダイブ直後に土嚢とかで築陣し、そこをベースに無限防衛戦をしてるようだ。


 あれなら疲れて交代しても、ろくに休む時間も得られずにまた交代して戦う事になるだろう。初めて来た時の私達ですらアレだったんだから、スキルの無い普通のアタッカーさん達は相当辛いはず。


 だけどその辛さこそが質の良い経験値となるので、きっと彼らは強くなるだろう。


 多分、ここでガッツリと高品質レベリングを行ってから銅級に戻り、階層を更新していくつもりなんじゃ無いかな。あわよくばこっちで五層に行けたら武器の更新とかも出来るだろうし。


「お父さん、行っちゃったね。私達はどうする?」


「リスナーさんにサービスでもしようかしら?」


「リスナーめっちゃ喜ぶよそれ。なんか私達の配信、お母さんにオギャりたい層が結構多いし」


「ねぇおねーちゃん、おぎゃるってなに?」


「ニクスは知らなくて大丈夫な事だよ。大人が使うちょっとえっちめな言葉だから」


「そなの? 分かった! じゃぁ気にしないでおくね!」


 お父さんが研究所謹製のナックルダスターメリケンサックを腕にハメて防衛戦に参加しちゃったので、私達はそれを眺めながらお茶をする事にした。


 私達が参加すると防衛戦に居るアタッカーさん達の経験値を奪ってしまうから、大人しくしてるのだ。お父さんも少し離れて武者修行を始めたので、私達が邪魔するのは良くない。


「そう言えばフラムちゃん、この階層の草って魔力が豊富なのよね? だったらフラムちゃんの魔力を回復するドレイン用のアイテムとして確保しとくと良いんじゃないかしら?」


「おぉ、それも良いね。インベントリから出してすぐ燃やせば、蒼炎で魔力を回復出来るもんね」


 その代わり、下手な火力で燃やすと匂いが酷いのだ。煙すら出ない程の火力で一気に消し飛ばさないと回復と同時に鼻が潰れるデバフを受けてしまう。


「というかおねーちゃん? 研究所の人達にお願いすれば良いんじゃないの。吸収する用の魔力を貯めとくアイテム作りとか」


「…………おぉ、ホントや。魔石とか銅竜素材とか使って魔力タンクを作れば良いのか。そうすれば草なんて要らねぇ!」


 いや要るかもだけど。でも自分で魔力を詰め込んだタンクから蒼炎で回収するって案は良さげだ。


 蒼炎で回収するんだから魔力の出力は考えなくても良い。入力だけ出来れば魔力タンクになる。


「優……、じゃなくてフラム。なんか追加出来る縛りは無いか? あんまり鍛錬にならないんだが」


「腕でも縛る?」


 途中、お父さんがヌルゲーから帰ってきた。お父さんの紅犬は自身の強化だけに効果を絞ると燃費が凄いらしく、長時間戦っても苦戦しそうに無いという。


 なんか贅沢な悩みだけど、質の良い経験値を得られるかどうかは結構死活問題だから協力する。グレイパーをお父さんに使用して身動きを制限させてもらった。


「ありがとうフラム」


 利き腕完全封印にプラスして足も可動域が減るようなグレイパーの縛り方が、丁度良いハンデになったらしい。ぎこちない動きでお父さんは再び兎狩りに戻って行った。


 そう言えば、私達のチャンネルってお父さんの参戦はどんな風に捉えられてるんだろう。気になってコメントを拾ってみると、思ったよりも好意的な意見が多かった。


 と言うか女性視聴者が急に増えた。お父さん人気だなぁ。


「…………私もやって来ようかな」


「フラムちゃんは今更この階層で戦ってもレベル上がらないんじゃないかしら?」


「ハンデを大量に付ければその限りでも無いよ」


 取り敢えず蒼炎は禁止。あと武器も禁止しようか。五層へ向かう前に武芸百般流の動きを再確認しておこう。


 錆び付いた動きを見せたら怒られるかもしれないし。


「じゃぁニクスもやる! 魔法の練習するね!」


 結局、配信は私達の戦いをバックにお母さんがソロで喋る良く分からない形になった。それでも視聴者が喜んでくれるのだから、もはや何が良いのか悪いのか判断出来ない。


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