魔法、発動。



「にふふぅ〜♪︎ おねーちゃんかぁいい〜♪︎」


「ちょ、あの、あんまり弄らないでね……? くすぐったい……」


 ナイトの憑依能力が発覚してから、既に数日。


 家族にはもう伝えてあって、そしてお母さんにもニクスにも大人気となってる。お母さんは「娘の獣耳……、いいわっ……!」とちょっと見た事ない顔を見せてくれたし、「おねーちゃんのふわふわー!」とニクスも喜んでる。


 私の獣耳や尻尾が撫でられると、本来そのパーツの持ち主であるナイトも喜ぶ。私の中で「うれしい!」って気持ちが尻尾ブンブン丸なのだ。


 憑依中は、犬部位を触られると私にも感覚がある。だからニクスに尻尾を揉み揉みされるとくすぐったい。


 私の蒼炎+守護霊で実体化してるナイトのパーツだから、実際の所はもふもふの毛並みは無いんだけど、それはそれとしてマシュマロみたいなふわふわ感は残ってるから、便宜上これらは「もふもふ」にカテゴリーする事でお母さんとは合意してある。


「ほらニクス、お姉ちゃんはスローターしなきゃだし……」


「いいの! スローターはニクスがやるもんっ」


 そんな私は本日、四層でスローターだ。ニクスは魔法の練習ローテなので、私を見守りながら魔法の練習をするのが正しいのだけど、後ろから私に抱き着いて耳と尻尾をもふもふしてるニクスが離してくれない。


「魔法の練習はどうするの」


「同時にやるもんっ」


 私が窘めると、ニクスはそう言って魔法を起動し始めた。


 森の木々を避ける様に顔を出しつつあるモンスター達目掛け、後ろから私にしがみついたまま、ランク1のボルトを何個も何個も準備する。


「即席ランク4魔法! ボルトシャワー!」


「なるほど。ランク1を四つ同時に使えれば実質ランク4って? 確かに練習には良いかもね。…………私もやろ」


 魔法陣の緻密さで圧倒的な差があるから、ランク1を四つ並べたとてランク4と同じ難易度にはならない。四本の線で一つの陣を精密に描くのと、全く同じ魔法陣を四つ並列するのでは、当たり前だけど難度が違う。


 それでも良い練習なのは間違いない。なんなら、五つか六つくらい並べて魔法陣構築……、カッコつけて詠唱とでも呼ぼうかな? 詠唱の精度を上げるのは普通にアリだ。


 ニクス命名の並列ボルト、ボルトシャワーなる魔法を真似して重ねて、森に弾丸をバラ蒔いていく。今の私ならランク1の詠唱に五秒くらいだから、魔法陣を五個並べたら一秒に一発撃てる計算だ。


 もちろん、慣れてる魔法と普段使わない魔法では差があるけど、それも含めて練習って事だろう。


「シールドも一緒に練習しようかな。…………そう言えば、ニクスはなんのランク4を練習してるんだっけ?」


「んぇ? コルドゥラって名前の魔法だよ」


 魔法ガチ勢おばちゃんに言われた課題はランク4の発動。と言うか特定の教本に書かれてる魔法の発動。だから発動する魔法の種類は私達が選んで良いのだ。


 ニクスが言うコルドゥラって魔法は確か、大規模な嵐を呼ぶ魔法だったかな。


 ああ、そうか。コルドゥラを白雪で発動すると吹雪になるのか。しかも停滞のデバフ付き? は? 強くない?


「進捗はどのくらい?」


「んー、じゃぁ今やってみるねっ?」


 完成度どのくらいか聞けば、なんと見せてくれるらしい。


 私達の練習方法だとローテーションがネックで他の人の練習を参考にしずらいんだよね。スローターを疎かにしちゃだめだし、役割それぞれ違うし。


 今だって手抜きで魔法乱射してるだけなの、あんまり良くないんだ本当は。もっと本気で「エリア内に同種族の肉片一つすら残さねぇぞ、根絶やしにしてやる」ってくらいの勢いで殺戮しないとヒートゲージがね、下がらないの。


 だけど、まぁ、たまには良いでしょ。ここんところはヒートゲージもミクロ単位で下げられてるみたいだし。


「じゃぁ行くよ、見ててねっ」


 ニクスが私にしがみついたまま目を瞑って、大規模な詠唱に入った。


 魔力は基本的に視認出来ないから、第六感みたいな感覚で知覚する。その感覚で見れば、ニクスの額から少し浮いた所に魔法陣がゆっくりと構築され始めた。


 陣の四方から線が伸びて、緻密なレースにも見える繊細な模様を描いていく。ゆっくり、ゆっくりと。


 手順をほんの一つ間違えただけで失敗するから慎重に進む詠唱は、生半可な難易度ではない事が良くわかる。


 私達の気配に釣られて襲って来るモンスターを、木々の隙間にボルトを乱射して殺しながらニクスを見守る。


 途中、ナイトが「しゃらくせぇ!」って感じで憑依をといてグレートソードブンブン丸し始めたから防衛が更に楽になって、片手間でモンスターを殺しながらニクスを見守る。


 そうして、十分、二十分と過ぎて、そろそろ三十分が経とうとする頃に、私は違和感を感じた。


 ………………いや? あれ、なんか成功しそうじゃない?


 どこかでミスって「今はこれくらい!」ってなるのを予想してたのに、三十分も経ってまだニクスは詠唱を続けてるのだ。知覚する魔法陣も、もう九割型完成してるように見えるし。


 失敗した時点で魔法陣は瓦解するから、こうやって残ってるのは成功中の証明だ。


「…………え、うわっ、ちょ--」


 魔法陣が完成しそうで、何故か慌ててしまう私。しかしニクスは気にせず詠唱をする。




「……………………出来た。発動、枯死の吹雪コルドゥラッッ!」




 そして更に十分使って、ランク4魔法は発動した。


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