娘も生えた。



 ふと、目が覚める。そして此処ここ何処どこだと周囲を見る。


 どうやら私はベッドに寝かされてるらしく、記憶と現状の統合をはかった結果、此処は武芸百般道場の中だと思った。


 うーむ、清々しい程にボコられたな。


 私もちょっとくらい強いと思ってたんだけど、まるで歯が立たなかった。


 いや、それこそ道場丸ごと消し飛ばす様な蒼炎大噴火とかやれば勝てるかも知れないけど、武術を学びに来てそれって実質敗北みたいな物だし。


「…………はぁ、でも、良かった。大戦斧って使いこなすとあんなに強いんだね」


 武芸百般の名の通り、師範はあらゆる武器が使えるらしい。そして大戦斧もお手の物で、私はその洗練された技術を前にしてボッコボコにされた。


 流石にエッゼやゴスドラを持ち出すことは無く、硬い木造きづくりの模擬武器だったけど、斧のクビ・・を上手く使った技とかで武器を奪われたりした。あんな使い方も有るのかと、凄く参考になった。


 師範にも、「大きな武器は打ち下ろすか横薙ぎにするしか無い。そして二種しか攻撃が無いと分かってるなら、何も怖くない。だからこそ、大きな武器にこそ緻密ちみつ術理じゅつりが必要なのだ」と言われた。マジでそうだと思った。


 うん、上から振るか、横から振るかしか出来ない武器なんて、簡単に防げる。これはモンスターが相手でも、知性が高いモンスターにこれを逆手に取られた場合、私の命が危うくなる程の欠点だろう。


 それに、師範が教えてくれるのは蒼炎や魔法を組み込んだ武術であり、やっぱり地上じゃ教えてくれない物だった。


 地上に無かった物を今から武の一つとして洗練していくより、ダンジョンで既に洗練された物を学ぶ方が早いし効率が良い。当たり前のことだ。


 現在、ダンジョンでしか学べない武術。それがたった5000DDで学べるのだから、その価値は絶対にあっただろう。


 私の判断は、間違ってない。


「……おお、目が覚めたかね」


「あ、師範…………」


 私が思考を回しながらボケっと天井のシミを数えてると、お部屋に師範が入っ来てた。今日はもうオフなんだろうか、私服っぽい着流しみたいなのを着ててとても似合ってる。


 しかし、何故か師範はあちこち怪我をしてるようで、包帯とかを巻いていた。なんだ、私が寝た後に襲撃でもあったのか? 師範に怪我させられる襲撃者とかどれだけヤバいんだ。


 ちなみに私との稽古でついた傷じゃない。私は師範に一撃たりとも傷を付けられてない。不甲斐なし…………!


「えと、ご迷惑をお掛けしまして……」


「いやいや、気にしなくて良いとも。門下で無いとは言え、しかしお主は教え子となった。気を失ってたら寝床を貸すくらいのことはする」


 私が気を失ってから何時間寝てたのかはアイズギアを見ればすぐ分かるけど、気を失った後のことは何も分からない。師範が怪我してる事とか。


 介抱のお礼がてらその辺の事を師範へ聞くと、師範はコロコロ笑いながらビックリする事を言った。


「フラム。お主が気を失ったあとは蒼く燃える獣殿が相手をしてくれてな。とても有意義な時間だったとも」


 ナイトきゅんッ!?


 私はすぐナイトを呼び出した。ベッドの上でお座りさせる。うん、この構図は病院で私が目覚めた日以来か…………。なんかちょっと懐かしい。


「ナイト……? なんで?」


「…………くぅん」


「ああいや、別に構わないのだぞ。むしろ楽しい一時であったから、怒らないでやってくれないか」


 私も、なんでと聞きつつも理由は分かってる。私が無様に倒れて気を失ったから、私を守ろうとして出て来たんだろう。


 そんな、私を大事にしてくれるナイトが大好きで愛おしくて抱きしめてもきゅもきゅしたい気持ちでいっぱいだけど、でも今のナイトなら「訓練」だったってちゃんと分かるはずなのだ。


 いくら師範が大丈夫といったとて、これはちゃんと叱るべきだと思った私は、しかし次に師範が口にした言葉で思考が止まってお説教どころじゃなくなった。



「獣殿の名はナイトと申すのか? ナイト殿がフラムに憑依してサナの民が如き姿になったあとは格別に楽しかったのだ。出来ればまた頼みたいくらいだとも」



 …………………………なんて?



「えっ、…………え!? あの、え? わた、私って、獣人サナの民みたいになってたんですか!?」


「ん? なんだ、あれはフラムも知らない事なのか? ナイト殿が当たり前にやるから、普通の事なのかと……」


 つまり、なに? ナイトが私に憑依して、ケモ耳生えたってこと?


「……………………ナイト、今それ出来る?」


「くぅ? ゎんっ」


 お願いすると、ヒュボッと音がしてナイトは消える。その後、何だか私の頭とお尻、手と足と、あとほっぺたがムズムズしてきた。


 次の瞬間、


「…………お、おぉおぉ、おおおおおおおっ!?」


 私に犬耳が! 犬耳が生えたよ! 青く燃える犬耳が!


 尻尾も! 手足のもふもふと爪! あとほっぺたにももふもふ! なんだこれ、まって、今私どうなってるの!?


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