仮ミスリル。



 銀級ダンジョン、アタック当日。


 私達は葛飾区水元公園の銀級ダンジョン管理区までやって来た。


 調べたら東京都で二番目に大きな公園らしく、ダンジョンに利用されてる面積を比べると極小さな施設に収まってる。


 仕組みは銅級と変わらず、鳥籠みたいな蓋がしてあるダンジョンを柵で囲い、その周辺にロビーがあり、ロビー周りに中が見えない分厚い壁。


 今更だけど、この壁ってアタッカーの出入りを制限する為の物じゃなくて、ダンジョンブレイク時にモンスターを抑え込むのが目的だ。


 アタッカーの制限なんて、今はライセンス無くても入れるんだし必要無いから。


 壁の素材は常に更新されてて、ダンジョン内部から持ち出された魔石やらゴーレム石材やらを砕いてセメントにして、多少の魔力を持たせてある。じゃないとゴブリンがワンパンでぶっ壊すし。


 銀級は一層からレオレベルのモンスターが出て来るとの事だから、正直なところ焼け石に水だ。レオをゴブリン程度の魔石が持つ魔力を練りこんだ壁で抑え込めるとは思ってない。


「行こっか」


「そうね」


「まお、じゃなくてニクス頑張るよ!」


「おんっ!」


 三人と一頭で管理区の入口に行って入場手続き。今はまだみんな私服だ。更衣室で着替える予定。


 自衛隊っぽいお兄さんに手続きして貰ったら、ライセンスをフラッパーゲートにピッとかざしてロビーに入場。


「…………思ったより人が居るね?」


「そうね? でも、アタッカーには見えないわ?」


「かんこー、かなぁ?」


 言った通りに、銀級ロビーには思ったより人が居る。銅級の五層で詰まってる人類だとここには殆ど用事が無いはずなんだけど。


 見れば、お母さんの言う通りにアタッカーにも見えない私服の人ばかりで、誰もダンジョンへのアタックをする様に見えない。真緒の、ニクスの言う通りに観光客にしか見えない。なんなら外国人も多く、本当に観光地に見えて来る。


「………………ああ、本当に観光地なのか」


「どういう事かしら?」


「いや、ほら、ここって世界で唯一の銀級ダンジョンじゃない?」


「ああ、そう言う…………」


 世界でも未だ、銅級ダンジョンを攻略したのは私達だけ。ならば、銀級ダンジョンが有るのも日本のここだけなんだ。観光に来る理由としては充分。


 それを思えば、むしろ人が少ない程だろう。


 流石に、命の危険がある場所に観光したいって人は少数だったのかな。ダンジョンブレイクも間近の危険区域だし。


 この公園周辺に住む人達だって、私を信用してない人や、万が一を考えてる人はとっくに避難してるくらいだもの。


 疑問も解消出来たところで、私達は更衣室担当の受け付けに行って場所を一時間借りた。現在利用者は私達を含めて二組で、利用率はスッカスカだった。


 というか私達以外にも一組居るんだね? って思ったら、その辺の一般人が普通に借りてるだけだった。


 更衣室を借りる途中、ロビー内にマスコミ関係者が居たらしくて私達に駆け寄ろうとしたが、すぐさまナイトが顕現してガチめの一吠えをすると逃げていった。


 うん。そりゃね、学校の前で焼いた人達、何人か死んだらしいし。マジで殺される可能性が有るならいくらマスコミでも逃げるよね。


 ちなみに、その人死ひとじにに対して私は何も思う所はない。ダンジョンの外に居た野良のゴブリンを殺したくらいの気持ちだ。


 だって殺すって宣言したのに来たんだから、死んでも良いよね?


 法的な措置がどうなったのか詳しくは知らないけど、笹木さんからチラッと聞いたのは、


 大勢の大人が八歳の女児を取り囲もうとして、ゴブリンに取り囲まれたトラウマなどの恐怖によってスキル暴発したと思われる。

 こうならない為に本人は世間に呼び掛けていたにも関わらず、マスコミ関係者が彼女のトラウマを故意に刺激した結果起きた事故であり、彼女の過失では無い。

 これは心身共に傷付いた被害者をイタズラに突き回したマスコミ側の過失である。その上彼女は未成年であり、その責任が問えるかと言えば否である。


 --とかなんとか、そんな感じで処理されたらしい。


 それで通るの? まぁ通ったなら良いか。


 実際、私と真緒しか居ない時に何人もカメラ持って突撃して来たら、普通なら怖いし、そのせいでスキルが暴発してもおかしくない。私は殺意を持って故意に蒼炎を使ったけどね。


 そも、あの時、人死が出た時に能力を行使したのはナイトだ。日本には幽霊を罰する法律は無い。


 ……………………うん、まぁ、銀級終わったらちゃんと学校に通って、道徳の授業を真面目に受けなきゃなって思う。


 まぁ良いや。気を取り直して、更衣室へ移動。


 バカを追い払ってくれたナイトのお鼻にちゅっとお礼のキスをしつつ中に入って、装備に着替えて武器の確認だ。


「良くもまぁ、この短期間でこんなに装備品アップグレード出来るよね」


「お国が立てたプロジェクトで、優子ちゃん専属でお仕事してるんだもの。量産品作ってる企業プロジェクトじゃないのよ?」


「それでも早くない?」


 私が大量に確保して来た銅竜素材。やっぱり一番使い易いのは金属質の鱗であり、アレは殆ど銅の同位体なのに銅とはまた違った反応が有るとか無いとか、私にはよく分からないけど凄く凄い金属なんだそうだ。小並感。


 ……いや私ちゃんと小学生だったわ。小学生並み感想で何もおかしくないわ。小並感の使い方ちょっとおかしいや。凄く凄いで大丈夫。


 元来、銅という金属は素晴らしく優秀な素材であり、人類が最も古くから使用してる金属類の一つである。


 合金素材としても類を見ない優秀さで、金属としてのバランスが凄まじく、あらゆる性質に富んでいる。そんな銅の上位互換たる銅竜の鱗は、やはり合金として使うと様々な姿を見せてくれる。…………らしい。全部受け売りだよ。


 現在、銅竜を使った素材として主流なのが、銅が最も化ける・・・合金の一つであるジュラルミンだ。


 アルミニウムを元に銅やマグネシウムなどを混ぜた硬度の高い金属であり、人類の工学技術を飛躍的に進化させた神の鉄。


 現在使われてる航空機にはほぼ全てジュラルミンが使われていて、軽さと硬さを持った最高峰の素材でもある。


 そんなジュラルミンに使われる銅素材を銅竜に置き換えると、既存のジュラルミンの三倍以上に硬化して、靱性も通常より高く、尚且つ軽さは据え置きっていうスーパーメタルが生まれたそうだ。


 この金属を研究者は、ファンタジーにちなんで暫定的に「仮ミスリル」と呼んでる。


 この仮ミスリルは、当然ながら私たちの装備にもふんだんに使われてて、武器も防具も剛性に於ける信頼性はかなり高くなってる。


「んー、お着替え完了」


 そんな、プチアップグレードした新装備のお披露目だ。

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