蜘蛛糸。
「ふふーん、どうっ!? おとーさんっ!」
「めちゃくちゃ可愛いぞ! 世界一可愛い!」
買い物終わって、夕方。
早速と買って来たジャージとジャケットを私とお母さんが手直しして、真緒が喜んで袖を通す。
そんな真緒をお父さんが褒めれば、何故か真緒が怒り出した。
「もう! おとーさんのばかー! カッコイイ服きてるんだから、カッコイイでしょ!」
それもそうか。
真緒が着てるジャージは黒を基調に白のライン柄が入った、耐熱性ポリカーボネート入りのジャージであり、その上にはジュラルミンプレートが縫い付けられた鎧の如き黒ジャケットだ。
どう見ても可愛いとは程遠い服である。
これを可愛いと褒められるのはつまり、何着てても可愛いと言われる訳で、要は良く見てないって事だ。
そして『何着ても可愛いんだから仕方ない』は男性の怠慢だ。女性は『どう可愛いと思ったのか』が知りたい生き物なのだから。
「それに、せかいいちかわいいのは、おねーちゃんだもんっ!」
「マーちゃんしゅきっ!」
そんな事を考えてたら不意打ちで胸がきゅんってしたので妹を抱き締める。真緒が可愛くて辛いっ……!
にへへーっと笑う真緒をなでなでして可愛がる。ジャケットのジュラルミンプレートとかゴツゴツして痛いけど、気にしない。
「まったくー! おとーさんはぜんぜんわかってない!」
「いやいや、お姉ちゃんもマーちゃんが世界一可愛いと思うよ。私はお父さんと同意見だよ」
「ちがうもん! せかいいちかわいいのはおねーちゃんなの!」
「ちがうよ。マーちゃんだよ」
「ちなみに、世界一カッコイイのは誰だ?」
「「え、ナイトだよ?」」
褒め合う私と真緒に、お父さんが何か言ってきたので即答した。その声も真緒と被って笑いそうになる。
お父さんは「お父さんが世界一カッコイイよ!」と言われたかったのかも知れないけど、ごめんねお父さん。私の騎士様はいつだってナイトなんだよ。
「………………ぐぅっ、流石にナイトは勝てないぞっ」
「もう、別に良いじゃん。お父さんはお母さんの世界一カッコイイ人なんだから、欲張らないでよ」
「あら? 私の世界一カッコイイ相手もナーちゃんよ?」
「あるぇぇえええ!? え、待って!? 妻にさえ裏切られたらお父さん泣いちゃうぞ!?」
現在、私用のジャージとジャケットをリサイズしてくれてるお母さんが笑いながらそう言った。お父さんは本当に涙目になってる。
「ふふふっ、だってお父さんは私の世界一可愛い人だもの。残念ながら二冠は出来なかったのよ」
「あちゃー、なるほどねぇ。じゃぁ、私と真緒は?」
「んー? 優ちゃんとマーちゃんは、『世界一大事な人』と『世界一守りたい人』に決まってるでしょ? カッコイイとか可愛いとか、そういうのじゃ無いのよ」
お母さんが優しい顔でそう言うと、私は背中がムズムズして、にへって笑っちゃう。お母さん大好き。
私は照れ隠しするべく、防具のリサイズを手伝う。
中にポリカーボネートのプレートやらチップやらが仕込まれたジャージと、外にジュラルミンプレートを縫い付けられたジャケットだ。その手直しは結構難しい。
と言うか、無計画にやると台無しになるだろう品物だ。
ステータスによって器用さが上がってる私も、縫い物が出来るお母さんも、別にこれが専門と言う訳でもない。なので手直しは苦労すると思ったし、なんなら帰りにどこか専門店にでも寄って依頼すべきかと思った。
でも、私がなんの気なしに『ゆるぼ。成人向け防具のジャージとジャケットを子供サイズに直すやり方』って文を
呟きには商品その物の画像も載せてたので、かなり的確なアドバイスなんかもあって、家で問題無く直せる目処が立ったのだ。
その手のガチ勢が「ハサミを入れちゃダメな場所」とかを的確にアドバイスしてくれたので、買った製品を破綻させずに手直し出来てる。
他にも、私が持ってるだろう大量のドロップ品から使えそうな物を勝手にピックアップしてくれるガチ勢も居た。予想で書き込まれたそれらは、確かに私のインベントリに眠ってた。
中でも『蜘蛛糸液』ってアイテムは良い。素人でも簡単に扱えるし、服飾系企業もヨダレを垂らして欲しがるアイテムだ。まさに
要は蜘蛛系モンスターの蜘蛛糸素材なのだけど、蜘蛛の糸って物は最初は液状で、それが空気に触れる事で固化して糸になる。その原液がお腹にはいってるんだけど、『蜘蛛糸液』はモンスターのソレで、固化する前の素材だった。
ドロップ品だと瓶詰めでインベントリに入ってて、その瓶の中に縫い糸を入れて浸してから、糸を端から引き出して空気に晒すと『馬鹿みたいに頑丈な縫い糸』が完成する。
一般的な縫い糸の規格で、蜘蛛糸化したソレで乗用車が吊るせる程の強度になる。
もちろん、元にした糸の品質にもよるが、どっちにしても初心者用の装備に使う物として見ると破格だ。
更に、蜘蛛系のモンスターが極低確率でドロップする指輪装備が私のインベントリに入ってたんだけど、それを装備するとめっちゃ縫い物が上手くなる。
正確には、糸の扱いに無条件で補正が入るって言う物で、『厨二的な糸使いキャラ』を目指すダンジョンアタッカーさんも、手縫いで仕事してるデザイナーさんも、こぞって欲しがる指輪だった。
それが三つもインベントリにあったので、お母さんと二人でぬいぬいしてた。
「はい。優ちゃんの分も出来たわよ。この指輪、便利ねぇ?」
「流石はレアドロップだよね。今のところ、ダンジョンで武器ドロップは宝箱しか無いらしいんだけど、こう言うちょっとした効果が着いてるアクセサリーならモンスターからドロップするらしいんだよ」
ちなみに、私はペイッターでフォロワーに教えてもらうまで知らなかったし、自分のインベントリに入ってる事も知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます