考えれば分かること。
草刈りをしながらダンジョンを進む。
この字面だけ見ると「は?」って感じだけど、結構大真面目である。
記録では銀級に入って十分後、一気に全滅したって話しで、現在はダンジョンにダイブして大体、八分かな。
記録の通りなら、そろそろモンスターが見えても良いはずなんだけど。
「これ、配信の向こうで見てる人からすると、どんな絵面なんだろね?」
「娘二人と母一人、呑気に草刈り……?」
「ほのぼのスローライフかな?」
銅級の一層ならとっくにゴブリンが山ほど襲って来てるはずの時間が過ぎても、未だに影すら見せてくれない銀級一層のモンスター。
使った魔力を回復する為にポーションをチビチビ飲みながら斧を振り回して草を切り裂き、地道に歩を進めてく。
ちなみに一番進捗が良いのはナイトだ。低い位置から首をブンブンしてグレートソードをブン回してる。凄い楽しそうなので見てて楽しい。
と、そこで……、
--ガゴァンッ……!
「あ?」
振り抜いた斧が下草を切り裂き、そして何かにぶつかって弾かれた。
完全に気が抜けてた私は、手から吹っ飛んで行くゴスドラを無様に見送るだけしか出来ず…………、
そして、そこで
「------戦闘準備ぃぃぃいいッッ!」
「グルァァアアアアアッッ!」
不用意にも武器を手放してしまったアホな私。しかし何時だってそんな私を支えてくれた騎士様が居る。
私が突然上げた怒号に一瞬反応出来ないお母さんやニクスと違って、ナイトはノータイムで
「居たッ! モンスター居た! コイツら、穴掘って
私が切り飛ばした草が舞い散る向こうから覗く
下草の更に下。掘られた穴から顔を出していた鈍色のウサギへとゴスドラを叩き付けた私は、その衝撃で得物を手放してしまったのだ。
気も抜けてたし、多分右手の義指も弱点だったと思う。早速グリップ力の問題が露呈した形になる。
そのウサギは顔しか見えないがかなり大きく、間違いなくコイツが「謎の大型モンスター」なんだろう。顔面だけで1メートル近くあり、目は真っ黒。耳はロップイヤーの様に寝ているが、しかしネザーランドの様に立てる事も出来そうだ。
この耳が立ってたなら、きっと下草からはみ出て気付けただろうに。
「コイツら、既にポップしてたんだ! 穴に隠れて見えなかっただけ!」
すぐさま私達に飛び掛かろうと巨大な巣穴から飛び出すウサギに、ナイトが咥えたグレートソードを叩き付けて迎撃する。
その間に、私は吹っ飛んだゴスドラは諦めてインベントリから予備を出す。まさか、初戦で予備が必要になるとは迂闊すぎるぞ私……!
と言うか、少し考えれば穴掘って隠れてるとか思いつくじゃん! 銅竜をステゴロで倒せたからって緩んでるのか
「ゆ、優ちゃん! 周りがっ……!」
周りがとか言われても!? 目の前の敵から視線反らせませんよお母さん!?
慌て過ぎて私の本名口走っちゃってる事から、結構マジにヤバい事が起きてるのは分かるんだけども、今それどころじゃ……--
「--チィッ!? このっ、くそぉらあッ!」
ナイトに迎撃されつつも、ウサギらしい脚力で強引に押し込んだ鈍色毛玉が私に向かって突っ込んで来た。
予備ゴスドラを引いてヘッドを盾に、腰を落として突撃を受け止める。
ヘッドスライディングの様な
「クソッタレぇ……!」
どんどん自分の口が悪くなって行くのを自覚しながら、引いたゴスドラを掴んでる右手を離してジャケットのポケットに伸ばす。
「
取り出した黄色いビー玉の様なアイテム、パラライズボールを
パラライズボールは魔力を込めてから投げると、込めた魔力に応じた麻痺効果を相手に与えるらしい戦闘補助アイテム。ちなみに銅級五層のレオから確定で三つドロップするし、六層と七層でも低確率ドロップしてくれる。
バチィッと炸裂音が響いたのを確認する間もなく、私は急いでお母さん達の方を確認する。パーティ最大戦力である私とナイトがコイツにかかりきりはマズイ。
お母さんが声を上げたトラブルが命に関わる物ならばすぐに私かナイトが対応する必要がある。
「なっ、はぁ!? …………ぁあああ! コレかぁぁ!」
そして振り返って確認した私の目に飛び込んで来たのは、草むらから無数に飛び出して見える
これがきっと、銀級の調査隊が全滅した理由。
そう、もう私達はとっくに囲まれてたんだ。
スタート地点からここまで草刈りして来た場所には無いが、しかしそれ以外の草がある場所からは
更に振り返り、たった今ナイトが仕留めたウサギをもう一度良く観察する。
体長2メートル、全長6メートル程か。クソでっかいウサギだ。立ち上がったら4〜5メートルは有りそうな巨大兎。
色は前述の通りに鈍色で、目は黒く、毛並みの艶と先程の激突、そして草刈りついでに殴ってしまった時の手応えから察するに金属製の肉体、……ないし毛並みを持ってるモンスターなんだろう。
体型はずんぐりむっくりしてて、見た目だけならモッフモフのウサギなんだけど…………。
「……な、何体居るのさ」
本当に、もうほんっっっとうに『夥しい』としか言えない数の耳が、耳の群れが草むらから生えている。
百? 千? 分からない。もはや、数える気にすらならない。
ただ、少なくとも目に目に映る草むら全てから、数キロ先の茂みからも鈍色が見えてる事だけは認識出来た。
「--た、待避! 初期地まで待避するよッ! 拓けた場所じゃないと分が悪い!」
銀級一層。そこは、銅級の全階層が丸っと全てチュートリアルに思える様な、そんな過酷な場所だった。
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