最初は草原。
短く、しかし長い闇を超えて、降り立つの場所は草原だった。
「ほう、銀級の一層は草原なんだね」
それは青く、だけど太陽は見えず、なのに煌々と光が降り注ぐ拓けた場所。
まぁダンジョン内の謎光源は今更なので、太陽が無い青い空とかもはや不思議ですら無いね。
ダンジョンに於ける地平線が何キロ先なのかは分からないが、というか地球のように地面が球形なのかも知らないが、とにかく視界の届く限りが草原なのが銀級ダンジョン一層であるらしい。
生い茂る草もどんな植生か分からないけど、草の丈は私の胸くらいで結構深い。何が潜んでるか分からないことも含め、かなり危険性の高いダンジョンだろう事が伺える。
私達が降りた初期地点も例外無く茂ってるので、今この瞬間も危険なナニカが潜んでる可能性も否定出来ない。
「……ダンジョン入りして五分は安全ってルールが銀級にも適用されるのか分からないし、とりあえず
「燃やすのね?」
「うん」
-
スカートから蒼炎を吹き出して、円形に広げて行く。一気に高火力で植物を蒸発させるつもりで魔力を練り、家族以外の全周囲百メートル程を消し飛ばす。
生草を焼いて煙すらも発生させない高温で焼け野原を作り上げ、それを確認してから魔力を収める。
「…………厄介だねぇ」
「おねーちゃん、どうしたの?」
魔力を含有した物質は、魔力含有量に劣る干渉に耐性を持つ。それは人やモンスターに限らず、ただの草でさえそうだ。
つまり、
「今ので魔力を結構持ってかれた。収支マイナスだし、草の処理が必須の階層だったらこれ、かなりキツいよ」
今のだけで、体感三割程の魔力を使わざるを得なかった。思ったよりも草からの抵抗が大きかった気がする。
煙るとマズいと思って高火力を出したのがマイナスの要因なんだけども、必要だと判断した出力でマイナスな事には変わりない。
「それに、モンスターの予想も出来ない」
蒼炎で周囲を焼いた感じでは、モンスターを潰した手応えなかった。それを元に考えると、断定は危ないがとりあえず、銀級でも五分ルールは適用されてる物として考える。
だけど、なら五分後に出てくるモンスターは何処にいる? こんな全周大パノラマな草原エリアで、数キロ先でも索敵出来そうな場所で、どこからモンスターがやってくる?
聞いた話しでは能力無しの肉体派レオみたいなモンスターだと聞いた。なら、少なくとも大型だと思う。ネットの噂でも大型だったって意見が大半だった。
草の中に隠れられる程に背が小さなモンスターなのか? それがネットで大型モンスターだったと言われる?
「……困ったな。中に入れば多少の情報は手に入ると思ったのに」
当時、銀級へのアタックプロジェクトはたった十分で終わったらしい。
そんなに早く終わるとは思っておらず、そしてまさか瞬殺されての全滅だとも思わず、DM以外の外部メディアに記録を残す準備もままならない間に全てが終わったそうだ。
だから情報が無い。今はもうアカウントごと消えてしまったDM配信を視聴した人の記憶にしか情報が残っておらず、ネットでは銀級の情報が錯綜してる。
此処が草原であるって情報もあったけど、ガセネタも多くて判断が出来なかった。
しかし、正しい情報もきっと、実際に中に入ってしまえば分かるだろうとタカをくくってたんだけど…………。
「なにも、居ないねぇ〜」
「うーん、見渡す限りの草だよね。まさに大草原不可避」
きっと今、配信のコメントには『w』が大量に打ち込まれてる事だろう。
本当にそれくらい、ギッチギチに草が生えてるのだ。二センチ先の様子が分からないレベルで生い茂ってる。
現在、世界でもモンスターポップの現象を見たものは居ない。モンスターはダンジョンの
だけど、もしかしてこのエリアならモンスターポップの瞬間を見ることが叶うのだろうか。
「…………ヘビとか?」
「ああ、そだね。ヘビなら大型でも草に隠れられそうだね」
もう何も分かんない。マジで一層からこんな精神削りそうなエリアだとは思わなかった。
「取り敢えず、モンスターに遭遇するまで進もうか。悩んでても仕方ないし」
「
「…………これ、草刈り装備用意してくるべきだった?」
これ、ホントに下見くらいはした方が良かったね。
私達は
魔力の干渉抵抗は魔力含有量に左右される。だからスキルを使うとそのまま消費しちゃうけど、最初から魔力を含有してる物質を使えば消費せずに草刈りが出来る。
私達の武器は銅竜の鱗を使った仮ミスリルだし、銀級とは言え流石に一層の草程度には負けないだろう。
ナイトも含めて四人全員で武器を振り回せる距離をあけつつ、でも何か会った時にはすぐカバー出来る位置を意識しつつ作業を始める。
「…………え、地味」
「おねーちゃん、これってダンジョンなんだよね?」
「私もちょっと自信なくなって来た」
こうして私達は、何とも緩い銀級攻略を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます