ハッピーヘッドとアナグラで。
「……こ、ここが」
「そう、ダンジョンだよ。初めてって事は、今やっとレベル1になったかな? ステータス見てみ」
「お、おぅ……」
いざダンジョンへ入ったら随分と大人しくなったハッピーヘッドに、私は実感を促すために端末を見ろと言う。
その間にインベントリから必要な物をいくつか出して用意をする。
「全部、Gだ」
「あははっ、そりゃそうでしょ」
当たり前の事を不満そうに言うハッピーヘッドが面白くて笑ってしまう。私に笑われた事でさらに不機嫌になるハッピーヘッドに、私は武器を手渡す。
「はい。流石に丸腰じゃダメでしょ。貸してあげるから使いなよ」
「はっ、え……、良いのかよ」
「ダンジョンの中は治外法権。銃刀法もダンジョン法案も関係無いからね。ダンジョン内で武器の融通は誰に対しても合法なんだよ。これくらいは、ダンジョン潜るなら調べなよ? 無知の対価は命で支払うことになるよ」
私が渡したのは研究所で渡された試作品のナイフとラウンドシールド。どちらも仮ミスリルを使ってて剛性は抜群だけど、これといった機能は付いてない。
「もうしばらくしたらゴブリンが遊びに来るから、それもって戦ってみなよ。死にそうになったら助けてあげるから」
「…………ぉう」
いやに大人しくなったハッピーヘッドに先頭を行かせ、私は後ろから着いて行く。
これから本当の殺し合いが始まると自覚したらしいハッピーヘッドは、だからこそ浮き足立って実感が無いのだろう。フラフラとした足取りで洞窟を進む。
「…………な、なんか気を付ける事とか、有るかよ?」
「ありゃ、聞く気あるの?」
「……なんだよ。ねぇなら良いよ」
「いやいや、アドバイス聞く気が有るなら、いくらでもあるよ」
どんな変化なのか、しおらしくなったハッピーヘッドが面白くてくすくす笑ってしまう。それが気に入らなかったのかそっぽを向く彼に、私は後ろからたった一つの大事なことをまず教える。
これさえ出来れば、生き残れるから。
「まず、家族が好きなら家族の事を思い浮かべて。家族が好きじゃないなら他の人でも良いよ。気を許せる人なら誰でも」
「……はぁ? 突然なんだよ」
「良いから良いから」
初期地点で動かずに五分。動き始めた場合はすぐにでもゴブリンが湧き始める。もうそろそろご対面するだろう。
「アナタがこれからバケモンと殺し合う時、その人の事を忘れないで。次の瞬間に死ぬかもって時でも、その人と会えなくなる事を悲しんで、絶対に嫌だと抗って」
私がダンジョンで生き残れた一番の理由。
それは、蒼炎に覚醒するくらいナイトの事が好きだったからだし、人間性を捨てても会いたいと思えるくらいに家族が好きだったからだ。
「アナタが今から殺し合うバケモノは全部、残らず、アナタが大事な人と再会する未来を踏み躙る敵。絶対的な敵。どんな手を使ってでも殺して踏み越えないと大事な人と会えなくなる敵」
だから。
「アナタは何をしても良い。どんな手を使っても良い。どれだけ汚くても、目を覆うほどに凄惨な手段でも、それが地上に帰る為に必要ならそれは何よりも優先される正義だよ」
それを強く思う。体に刻み込む。それだけで生存率がグッと上がる。
「自覚して。今から殺し合いをするけど、そこには『生き残る』事以外に大事な物なんて何も無いから」
「…………わかった」
口で言うだけじゃ伝わらないだろう事だけど、私の実感を伴った声はハッピーヘッドの胸に刻まれた。
「要は、アレだな。俺がまた遊びてぇ友達と比べたら、モンスターなんてゴミクズって事だよな?」
「その通り! いやマジでその通り!」
「ゴキブリ食ってでもまた会いたい奴が居るなら、死ぬ気で死ぬなって事だよな」
「そう! なんだよ分かってんじゃん!」
思ったよりも理解してたので、もう私からは何も言わない。
「…………そっか、そうだよな。生きてりゃ良いんだ。死ななきゃ全部セーフなんだ」
完全にその通り。それが、ダンジョンに於ける絶対法則だ。
相手がどれだけ強くても、死ななきゃそれでオールオッケー。泥水をガロン単位で飲んでも生き残れば正義なんだ。
なんだよ。ハッピーヘッドの癖に分かってるじゃん。
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