恥ずかしくないの?



「はぁ、はぁ…………!」


「まぁ、頑張った方じゃない? もう帰る?」


「ばか、言うな……!」


 ダンジョンにダイブして、初アタックをスタートさせたハッピーヘッドは、頬が腫れて唇から血を流し、骨にもヒビが入ったのか腕を抑えて足を引き摺りながらも奮闘してる。


 鼻から上はベネチアンマスク風のガジェットが頑丈なお陰で無事だし、武器も剛性バッチリの仮ミスリル製ナイフだ。


 しかしそれを持ってるのがズブの素人であるハッピーヘッドなので、まぁ結果は順当か。


 だけど美味しい経験値でレベルを上げるつもりなら、これくらいの苦境は丁度良いとさえ言える。


 ダンダンファイヤー的にはピカピカの新人を育てるってコンセプトだから今もうアウト臭いけど、それは私の責任じゃないしな。


「ところで、ハッピーヘッドって名前なんだっけ」


「だからっ、だれが幸せな頭だこのやろう……」


「ざんねん私はアマですぅ〜! 野郎じゃありませぇ〜ん!」


「……くっそムカつくっ!」


 ゴブリンの出現が一段落したつかの間。息を整えたハッピーヘッドは洞窟の壁に背を預けて休憩を始めた。


 一応、周囲をチラチラと視線を飛ばして警戒はしてるみたいだ。私の存在に頼るつもりが無いそのスタンスは褒めても良い。


 なんだコイツ、意外とやるじゃん。


「………………はぁ。れんだ。滝谷蓮たきや れん


「……あー、そう言えばそんな名前だった」


 顔合わせの時を薄らと思い出した私は、まだゴブリンも来そうに無いから雑談に付き合う。少し喋ってるくらいの方が精神的にも良いからね。


 …………あ、でも顔隠してるのに名前の公表は不味まずかったかな? それともDMが気を使ってリアルタイム編集してくれたかな?


「考えてみると、滝谷って名前だと恐れ多くも副社長タッキーさんと同じあだ名になるの?」


「……………………ちっ、--だよ」


「はぇ?」


「だから、あだ名はレンきゅんだよ」


「…………えっ、自分の口からレンきゅんとか言って恥ずかしくないの?」


「お前ぶっ飛ばすぞッ!?」


「へっへーん、ヤれるもんならヤってみなぁ〜」


 私が煽り散らすと、勝てないと分かってるハッピーヘッド改めて滝谷は拳をギチギチと握り締めながら震えてた。マジ切れなの?


「おまっ、くそッ……! 絶対レベル上げてぶん殴ってやるっ……」


「まぁ期待せずに待ってるよ。…………さて、そろそろお代・・わり・・来るけど、どうする?」


 私の知覚範囲にゴブリンが入って来たのでサービスで教えてやると、意味を理解した滝谷は壁から背を離して周囲をキョロキョロする。まだそこまで知覚は出来ないよね。


「居ねぇじゃねぇか!」


「馬鹿なの? レベル11の私と同じ範囲を探れるつもりなの?」


「くそっ、殺ってやるよッ……! どっちから来る!?」


「両方。……まぁ、私の方から来るやつは私が殺るよ。そろそろ装備も試したいし」


「礼は言わねぇからな」


「何それ気持ち悪い。要らないよあなたからのお礼とか」


「…………クッソ、ほんと可愛くねぇっ」


 引き摺る足をそのままに、腕の痛みにも耐えてナイフを構えて洞窟の奥を見据える滝谷。しかし私は可愛いからなこの野郎。今のセリフ絶対忘れんなよ?


 さて、どうやって人間を知覚して襲って来てるのか未だによく分かってないモンスターが私の背後から飛び掛って来るので、私はトリプルに魔力を込めてシールドを張って裏拳を返す。


「イギィッ!?」


「経験値的にも、弱い者いじめは趣味じゃないけどさ。……私、ナーくんを殺したお前らだけは未だにムカついてるからな」


 滝谷の方も死なない様に意識を配りながらであるが、私も戦闘を開始する。


 シールド付き裏拳で吹き飛ばしたゴブリンにそのままボルトを放ってトドメを刺し、顔の横に構えた手に蒼炎を焚いてインベントリを操作する。


 炎が集まってから散るようなエフェクトを残してトマホークを二本取り出した私は、それを後続のゴブリンに向かってぶん投げた。


「んー、ガトリングエッジさんのトマホーク良いなぁ。これは後で製品買っとこ」


 三匹仕留めたけど、ゴブリンはまだまだ出て来るようだ。


 私は二本の指を敵に向かって伸ばし、手で銃の形を作って指先に魔力を通す。その魔力に反応したトリプルが魔法陣を起動して問題無くボルトを発射し、洞窟の通路からワラワラと湧いてくるゴブリンに向かって魔法の弾丸を乱射してく。


「ん。トリプルは良好だね」


 回復魔法の方も試したいけど、ゴブリン相手では怪我なんて出来ないので、そこは滝谷がボコられる事に期待しよう。現在も複数のゴブリンと正面から殴り合ってるあいつは意外とガッツがある。


「次は、ダンジョン用の銃だっけ」


 インベントリから二挺の銃を取り出し、そのままゴブリンに向かって発砲する。


 片方はボルトを用いた魔法銃の試作で、もう片方は普通の炸薬式だ。弾頭をなるべく安く作る為の試作と言う事らしく、試作なのは弾薬の方だ。持たされた拳銃は既製品である。


 もちろん、銃をインベントリに入れてるだけでも銃刀法に引っ掛かるんだけど、そこは笹木さんや研究所のお歴々れきれきが特別な許可証を発行してくれてるので大丈夫。


 外で発砲したらヤバいけど、ダンジョンの中は治外法権なので問題無い。


 銃砲刀剣類所持等取締法。この法律って意外とややこしくて、銃の所持だけじゃなくて発砲したって事実だけでも罪状が付く。発射罪って言うんだっけな?


 まぁ、その他諸々あるので外だと不味いけど、インベントリを使った運搬だけならば可能って言う許可証を貰ってるのだ。


「ほへぇ、これが銃を撃つ感覚なんだね。ちょっと面白いかも」


 意外と軽い音がなる火器を弾きながら、私はゴブリンの掃討を続けた。滝谷も割りと粘ってて偉い。全然数減らせて無いけど。


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