ちょっとだけ。
映画の真似をして両手撃ちなんてするんじゃなかった。
弾切れの後にリロードしようとしたら、当たり前だけど両手が塞がっててリロード出来なかった。
私はすごすごと片方をインベントリに戻してリロードする羽目になる。超恥ずかしい。このマヌケな絵面が世界に配信されてんだよ? 死にてぇ……。
ボルト内蔵の方は魔力さえあれば無限に撃てるから弾切れしないが、そも魔法陣が正常に動けば耐久性は別途調べられる。
だけど実弾を使用してる方の拳銃は弾が出ればそれで良いという訳でもなく、実戦中に弾詰まりを起こさないかとか、フレームの発熱がどうとか、色々と気にするべき点がある。
既製品なので銃の強度としては既に実証済みなのだけど、新弾薬の実射にどれだけ耐えられるのかもテストする必要がある。
実弾の方も耐久性は別途調べられると思うのだけど、やはり試作品が銃本体か否かで変わるのだろうか? まぁ私は頼まれた通りに試すだけだ。
教わった通りにマガジンを抜いてインベントリへと放り込んだら、新しいマガジンをグリップに叩き込んでスライドを戻す。
八歳児のお手々にはちょっと大きいけど、有り余る膂力で誤魔化しながら使うしか無い。
「おまっ、それ銃か!? そんなん有るならそっち貸せよ!」
「ありゃ、まだ結構元気じゃん? まぁちゃんと返事するけど、これ試射を頼まれた正式なお仕事だから、名前すらうろ覚えだった人に渡せる訳無いじゃん? DMが強制配信しちゃってるけど、コレって一応機密だからね?」
「目の前で使って機密もクソもねぇだろ!」
「いやいや、弾頭の配合とかの機密データはこの場に無いし」
実物は放っておくとダンジョンに飲まれるし。
「そも、渡したところであなた銃使えるの? 私もこれ試射の為に使い方を専門家に
比較的簡単に扱える武器の筆頭では有るけどさ。それでも素人にハイって渡してすぐ使えるなら苦労はしないんだよ。
「対モンスター弾薬が安価に作れるようになったら、その分ダンジョンブレイクに対して大きく備える事が出来るし、これ結構重要なお仕事だからね?」
「……くそっ、分かったよもう! 俺はナイフで頑張ってりゃ良いんだろ!」
もう1マガジン撃ち尽くしたところで振り返れば、滝谷がゴブリンの顔面にナイフを突き立てたところだった。おーおー、頑張れハッピーヘッド。
私の方から来てたゴブリンは片付けたので、あとは滝谷が終わるまで観察だ。
顔面に刺したナイフを引き抜きながら、素早くしゃがんで地面を転がって回避行動を取る滝谷。
別にゴブリンの攻撃が迫ってる訳じゃ無かったけど、まだ背撃に対して「む、殺気!」とか察知出来ない練度だろうからむしろ偉い。
どうせ察知出来ないなら、殴られてから回避するんじゃなく、殴られる前に回避してダメージを減らしつつ位置取りに気を付ける。立ち回りとしては
場合によっては大きく隙を晒す行動にもなり得るけど、でもそれは殴られてよろめいても同じこと。なら避けちゃった方がメリットが大きい。
「ふーん、やるじゃん」
私はニヨニヨしながら転げ回る滝谷を見守った。
あっちは八体来てたらしく、滝谷が三体殺せてて今は五体残ってる。でも体力的にも限界かな? 片脚がもうろくに動かせない感じだし、あれで五体は厳しいだろう。
けど助けない。まだ温い。今助けると経験値が美味しくない。
ダンジョンで得られる経験値は採点式。努力の総量に対して加点されるので、滝谷が頑張る余地を私が潰してしまうと滝谷のレベルが上がらない。
「がんばれー」
「気が抜ける声止めろやぁッ!」
「まだ元気じゃん。…………多分そろそろレベルアップすると思うから、とことん殺りなよ。辛い分だけ強くなるからさ」
て言うかコイツ、ほんとに元気じゃん。なんで番組止めてるの? やっぱりクソガキだから?
月島さんが「予定が決まってる」って言ってたから、スケジュールの再調整は凄い大変なはずなんだけど。
「…………あ、暇してた奴が」
五対一、と言っても常に滝谷が五体のゴブリンを相手にする訳じゃない。
多対一って言うのは基本的に、三か四くらいが限界なんだ。あまり多過ぎると、同時に攻撃とかする時にお互いが邪魔になるから。
滝谷の周りには洞窟いっぱいに空間があるけど、『滝谷に攻撃を加えられる空間』ってのは滝谷の周辺ごく僅かにしか無い。
その空間を数人で埋めてしまったら、それ以上の人数は後方待機するしか無いんだ。
そうしてゴブリンは一匹暇してた訳なんだけど、その暇してたゴブリンが「……あ、あっちにも獲物居るじゃん!」みたいな感じで私を見付けて走って来た。
「何抜かれてるのディフェンスしょぼいよぉ〜」
「サッカーじゃねぇんだぞ!?」
「
まぁ、そんな私は鉄壁のゴールキーパーなんですけどね。
私を見て嬉しそうに走って来たゴブリンが目の前に来て、その枯れ木のような腕で拳を振りかぶった瞬間に股を思いっ切り蹴り上げた。
行って来ますも言えずに空へと旅立ったゴブリンに、私は
頭上で洞窟の天蓋にぶつかってグチャッて音を奏でた旅人は、追い付いて来た蒼炎で大炎上。
そのまま
私に一匹取られてゴブリンからの圧が減った滝谷は、今がチャンスだと決めにかかり、取っ組み合いしてたゴブリンに渾身の頭突きを見舞ってから背後の敵にも裏拳の要領でナイフを叩き込む。
しかし、ナイフを握ってた腕も痛めたのかその衝撃で手が滑り、ゴブリンの腹にナイフを刺したまま手を離してしまった。
「しまっ--」
武器を手放した失態に一瞬気がそれ、また別の
洞窟の壁に叩き付けられた滝谷はカハッと息を漏らし、そのまま気絶してしまう。
ナイフを刺されてたゴブリンはそんな滝谷を見て勝ちを確信したのか、自分に突き立てられたナイフを引き抜いて握り、ゆっくりと滝谷に近付いていく。
「はぁ、やっぱゴブリンって頭悪いんだよね。私が居るのに勝ち確ムーヴ必要だったのそれ?」
そんなゴブリンを私は蒼炎で燃やし尽くす。滝谷が何十分と殴りあってたゴブリンも、私に掛かれば一秒も要らない。
まだ敵が他にも居るんだから、さっさとトドメを刺して然るべきなのに、悠長に歩いてたら普通に殺すよね。まぁどっちにしろ殺したんだけどさ。
「結構頑張ったじゃん。ちょっとだけ見直したよ。……ちょっとだけね」
私をゴキブリ食いのブス女と罵った事については絶対許さないけどな。
私はこんなちょっとした事でコロッと態度を変えちゃうチョロインじゃ無いので、そんな望まぬラブコメのフラグはキッチリとへし折りながら残ったゴブリンも蹴り殺した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます