経験の種類。
「よし、もう充分ゆっくり休んだよね」
「そうね。お母さんも、もう大丈夫よ。フラムちゃん、ありがとね」
「おかーさんげんきになったー!」
おほぉ〜いお茶500mlをゆっくり飲み切って、私がスティッカーズを二ケースほどムシャムシャする頃に、お母さんが復活した。
お母さん曰く、「歳を取るとね、身に付けた常識が壊れるだけで歩けなくなるものよ」って。
いやいや、お母さんまだピッチピチだよ。そんな親戚のおばちゃんみたいなこと言わないでよ。
「とは言っても、あとはもうこれ一つ教えたら終わりなんだけどね」
「その、レベルの秘密についてね?」
「うん。まぁそんな大した事じゃないんだけど……」
「おねーちゃん。ニクスは、もうじゅーぶん『たいしたこと』だとおもうなぁ……」
「ニクスちゃんの言う通りね。フラムちゃん、情報の爆弾だって自覚してね」
ササッと話して今日は終わろうかと思ってると、お母さんとニクスに呆れられた。いやいや待って欲しい。
「え、いや、私が他に抱えてる情報爆弾に比べたら、コレは本当に大した事じゃないんだよ? 五層以降で手に入るドロップとか、爆弾ばっかりだよ?」
「…………言われてみれば、フラムちゃんが平気な顔して出してるこのお薬も、結構な爆弾だったわね?」
お母さんがポーションの空瓶を持ってそんな事を言う。うん、その通りなのである。
五層以降でしか手に入らず、現代医学では治せない類の怪我や病気すら治せる可能性が見えてるポーション類は、何をどう考えても爆弾だ。
ただポーションも、結局は重い怪我や病気に悩む人と、その家族。あとは医療関係者が騒ぐだろうってだけなので、これも言うほどの爆弾じゃない。他と比べたら爆竹程度だ。
私のインベントリに眠ってる銅竜素材。これは世界中の人々に関係しちゃう特級の核爆弾なので、コレの公表には本当に悩んでる所だ。
世間に新種の金属、合金を大量に増やし、尚且つ現在だってクリーンエネルギーとして賑わってる魔力発電に更なる躍進を約束する素材でもあり、魔法の存在を確定的に肯定する素材でもある。
うん、爆弾過ぎる。手に負えない。
本当なら特注の武器は銅竜素材で作りたいところなんだけど、本当にコレを表に出して良いのか、未だに悩んでる。その内、笹木さんに相談しよう。そうしよう。
一緒に胃に穴を開けようよ笹木さん(にちゃぁ……)。
「で、もうパパッと行くけどさ。レベルを上げる為に必要な経験値って概念だけど、実はコレ、一種類じゃ無いんだよね」
「………………? えっと?」
理解し切れないお母さんが、心底悩むように眉根がシワシワになってる。ああお母さんの綺麗な顔が台無しだよ…………。
「えーとね……? 私が言い張ってるコレ、ダンジョンから付与される経験値って概念は、レベルアップの為だけに使われる要素じゃなくて、ステータスアップの為の素材でも有るの」
詳しく説明すると、ダンジョンから得られる経験値は『レベルアップの為の経験値』では無く、『膂力アップの為の経験値』や『魔力アップの為の経験値』等々、ステータスの五項目に対応した経験値が貰える。
ああ、断言してるけど結局は私の推測に過ぎない。けど、私は確信してる。だからこうだと言い張る。
「簡単に言うとね、経験値を『ポイント』って呼び方をするとして、膂力ポイント、魔力ポイント、敏捷ポイント、技量ポイント、耐久ポイント……、この五種類の経験値が存在すると仮定して、これらを総合して一定量に届いたらレベルアップって形になって現れる。それで、レベルアップした時に貯まってた経験値に対応したステータスが、貯まってた経験値分だけ上昇する仕組みなんだと思う」
そして、
「それで、私はこの経験値に『密度』が有ると思ってる。例えば100ポイント稼いだらレベルアップ出来ると仮定してね? 私の三ヶ月みたいなギッチギチに経験が詰まった漆黒の100ポイントと、モンスターを囲んで安全に袋叩きして得た薄灰色の100ポイント。…………どっちの方が強くなれると思う?」
これが、私と世間の乖離。
私は端末なんて無くて、帰還出来なくて、諦めた時点で『死』が確定する環境で戦ってた。
対して今の世の中は、危なくなると帰還するのは大前提として、可能な限り複数人で安全を確保しながら、作業的にモンスターを討伐している。
この二つを比べて、どちらの経験値の方が
「ああ、ちなみにだけど」
経験値が五項目って言うのはあくまで仮定だ。他にもステータスに表示されてない『連携』とか『集中力』とか、そう言うのにも経験値が発生してる可能性はある。
「だから、世間のアタッカーさん達はもしかすると、『連携』の経験値ばっかりが貯まってステータスが伸びないのかも知れない。ステータスには『知性』の項目なんて無いのに、私は見て通りに歳相応の知性じゃ無くなっちゃったし。多分マスクデータは有るんだと思う」
むしろ私の知性こそがその実証だと思ってる。
「要は、ステータス八段階評価はあくまで『そのレベルではどのくらい強いか』って評価だから、どれだけレベルを上げても、レベル毎の平均値を超えないなら評価も上がらないんだよ。レベル上げて行けば能力値は上がってくけど、ステータスに表示されてる評価は『そのレベルでの評価』だからね。『今は弱くても仕方ない』とか、そう言う仕組みじゃない」
もちろん、まだ仮定の話しばっかりだ。
「私が感覚的にでもまだ把握出来てないから、戦闘以外の事でも経験値が発生してるのか否かは分からない。私の三ヶ月が丸々評価されてるのか、それとも戦闘だけを評価されてるのか…………」
でも、私は確信してる。
「ダンジョンでは、苦労と困難の密度でステータスの上昇幅が増減する」
これを意識して攻略して行かないと、いつまで経っても人類はダンジョンに対して後手に回る。
「………………フラムちゃん、これで
「えっ? あぁ、うん。序の口?」
「……フラムちゃん。お家に帰ったらちょっと家族会議を開きましょうね」
「はーい」
私が口にした推測を理解して困惑してるお母さんと、そもそも良く分かってないニクス。
「えーと…………。おねーちゃん、どーいうことなの?」
分かろうと頑張ってたけど、結局分からなかったニクスが私に聞く。ちゃんと質問出来てニクスちゃんは偉いなぁ〜。
「ものすっごく簡単に言うとね?」
「うんっ」
「ダンジョンでは真剣に頑張ってレベル上げると強くなって、不真面目にテキトーなレベル上げをすると強くなれないの」
「そうなの?」
「そうなの。ほら、おねーちゃんは三ヶ月で凄く大変な思いをしたでしょ? だからとっても強いの」
「そっかぁ! おねーちゃんすごーい!」
可愛いのできゅっと抱き締める。私の妹は世界一可愛い…………。
「じゃぁ、ニクスもたくさんがんばるねっ! おねーちゃんみたいにつよくなるぅー!」
語りたい事は語り終えて、ダンジョンに慣れるって目的も達成してる今回のダンジョンアタック。
妹が可愛くてメンタルがふにゃふにゃになったし、丁度いいから今日はここまでだ。
「よし、じゃぁ今日は帰ろっか」
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