下校。


「ごめん羽ちゃん、これどういう状況?」


「え、優子ちゃんみてなかったの?」


「うん、ごめんね。色んなとこから連絡来てて、返事してたの」


「そっかー! あのね、ナイトくんがね--……」


 うん。聞いた上で分からなかった。


 なんだろうこの、子供特有のハイテンションが大前提にある意味不明な行動。


 本人たちはテンションを共有してるからそれが正しいと認識してて、だから前提が抜け落ちた私に対する説明も虫食い過ぎて何も伝わらない。


「いや、みんな、給食の準備は? お昼休みになっちゃうよ?」


「「「「「あっ……」」」」」


 私もアイズギアで連絡のやり取り忙しくてボケっと片手間だったけど、準備はゆっくり進めてたよ?


「みんな、お昼抜きで良いの?」


「やだー!」


「だめー!」


「おなかへったー!」


「わうん!」


 そう言うとみんなが一斉に給食の準備を始める。


 まぁ言うて五分くらいのロスだから大した事ないけどね。


 ◇


「おねーちゃんっ! いっしょにかえろっ!」


「マーちゃん、飛び付いたら危ないよ」


 学校で過ごす一日が恙無く終わり、教室で友達と別れた私は、可愛い妹と共に下校する。


「マーちゃん、お姉ちゃんちょっと寄り道しなきゃ行けないんだけど、一緒に来る?」


「うんっ!」


 元気いっぱいに返事をする真緒の手を引いて校門を抜けると、そこにはまだ懲りないマスゴミが構えていた。


「…………次は殺すって言ったんだけどな」


 頭の中で、平和な日常からダンジョンの中にスイッチが変わる。インベントリの情報をテレビで吐き出せなかった弊害が思ったよりも大きく、私は結局人を殺さないとダメなのかと落胆する。


 だって、言葉が通じないなら、もうコイツらはモンスターだ。モンスターは殺さなきゃ…………。


 ああ、だから、もう殺そう。


 そう決めて、私は蒼炎に殺意を焚べようとする。


 だけどその瞬間、ナイトが蒼炎の操作を奪って姿を表した。


「…………ガァァァアアアアアッッ!」


 吹き出した蒼炎が収束して現れるナイトの姿は、登校時よりもふた周りも大きく、そしてその大きさのまま校門前のマスゴミに咆哮を浴びせ、前足を一閃してマスゴミを薙ぎ払う。


「なっ、ナイト……?」


「グルルルァァアアアアッッッッ…………!」


 更にナイトは口から蒼炎を吐き出してマスゴミを攻撃、ギリギリ死なない程度の全身火傷(致命傷)を負わせて行く。


 カメラやマイク、レコーダーにスマホはもちろん、服も髪も燃やし尽くし、マスゴミの全身を程よく炙って瀕死にしたナイトは、とても満足気な顔で振り返った。


 まるで「僕が殺る。だから大丈夫」と、そういうように。


 ナイトは幽霊だ。もはや日本の法律で見ても誰の所有でもない、超常現象そのものだ。


 仮に今瀕死になったゴミが死んで、私が訴えられたとして、日本の法律に『幽霊を使った殺人教唆』を罰する法は無い、……はず。


 さすがにそんな物調べて無いから断言出来ないけど、死者を罰する法が無いのは間違いない。


 確か覚醒者が使うスキルについてはもう法整備されてたはずだけど、今使われた蒼炎は私の操作じゃない。


 大分グレーだけど、もしかしたら黒かもだけど、それでもナイトは法律からすらも私を守ろうとしてる。


「…………ナイト」


 本当に、本当に私の騎士様は、とっても過保護である。


 私はナイトの意を汲んで、全身火傷で死にかけて呻いてるマスゴミの集団に近寄って、赤く爛れたその身体を踏み付けた。


「手加減したナイトの優しさに感謝しろ」


 全身に負った火傷を踏み躙られて激痛に叫ぶバカを一瞥した私は、踵を返して真緒とナイトのそばまで戻る。


 予想に反して怖がってない真緒を内心不思議に思いながらも、私は登校時と同じくグレイパーを起動して帰り支度。


「さて、今度こそ帰ろうか」


「うんっ」


「バウッ!」


 体が大きくなったせいで鳴き声に迫力が宿ったナイトの返事も聞いて、私たちは走り出した。


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