寄り道。



 --カランカラ-ン……。


 レッドプライスを疑う商材が所狭しと並ぶ雑多な店内を抜け、辿り着いたのはその地の名所と名高い、とある種類の喫茶店・・・。その老舗。


 お父さんが私のために用意してくれた銀行口座へギッチリ詰まったお金を使って、大量の買い物を済ませた私と真緒は、ちょっとした観光気分もあってその店にやって来た。


「お帰りなさいませ、お嬢さっ--……!?」


 そこは東京、秋葉原。


 私は学校帰りの寄り道に、ナイトに乗ってオタクの聖地たるここ、元電気街までやって来たのだ。


 目的は、これから何かと必要になると思ったパソコンやカメラ等、動画配信に使う為の機材の購入。


「………はっ!? し、失礼しました! 改めまして、お帰りなさいませお嬢様っ♪︎」


「おおー、すごい。本物のアキバメイドさんだ」


「ふりふりしててかわいいー!」


 大量のお金に物を言わせ、アイズギア本体を使った電子決済と蒼炎経由のインベントリ利用で品物を不思議空間にないないして、無事に買い物を終えた私たち。


 予定の寄り道はそこまでだったんだけど、東京住まいとは言えせっかく秋葉原まで来たのだから、それっぽい所にも寄ってみようと相談して、その結果がここ。


 秋葉原の名所、メイド喫茶!


 その中でもここは、メイド喫茶という日本独自の文化が発生した最初期から、ずっと秋葉原に軒を連ねる老舗中の老舗中、その一店舗。


 ドゥン・キホーテ秋葉原店の最上階にある内部テナントに存在するそのメイド喫茶、『ぱっとまーく♡』は、時代と共に色々と進化して来た秋葉原メイドの文化からはあえて逆行するような、昔ながらの、メイド喫茶が生まれたばかりの頃のサービスを提供している老舗メイド喫茶らしい。


 そんな濃ゆい情報をアイズギアから得た私たちは、せっせとドゥン・キホーテの店内を歩いて、せっせとエスカレーターを登り続け、そしてやっとこのお店に辿り着いた。


 そんな私たちを出迎えてくれたメイドさんだけど、私と、私が抱っこしてる小さなナイトを見た瞬間固まってしまった。


 ごめんね。有名人で。


 私と真緒だけなら、実は言うほど目立たない。だってパッと見はただの幼女二人だもん。


 だけどそこに『蒼く燃える犬』がセットになると、そんな存在は蒼乃フラム本人以外に有り得ないのだ。


 とは言え彼女もおもてなしのプロ。ほんの数秒後には再起動して、私たちをしっかりと案内してくれた。


「おねーちゃん見て、みんなふりふりしてるのっ!」


「ふふっ、可愛いね。でも真緒も可愛いからね?」


「おねーちゃんのほうが、まおよりかわいいもんっ!」


 可愛い。ただ可愛い。


 たぶん案内してくてるメイドさんも微笑ましく思っている事だろう。チラチラと振り返る顔は優しくニマニマしていた。


「ではお嬢様、こちらのお席へどうぞ♪︎」


「ありがとうございます。…………あ、ここって電子決済対応してますか?」


「可能でございますよ♪︎ LIKEpay、poypay、スピードペイ、IID、ICカード、クレジットカード等など、多種の決済方法に対応可能となっております」


「あ、スピードペイ対応なら大丈夫です。ありがとうございます」


 学校帰りなので大した現金は持ってないので、口座から直通で決済出来るスピードペイが使えるなら安心だ。


 しかし、私も真緒もメイド喫茶なんて生まれて初めて来たのだ。ここのルールなんて少しも分からないので、注文を決めるついでに、茶髪のツインテールが可愛いメイドのお姉さんに教えて貰う。


「ねぇねぇ、メイドのおねーさん。このメイドさんゲームってなぁに?」


「あっ、えっと、これはですねぇ……」


 メニューを見た真緒が早速メイドさんに質問し、メイドさんは一発目から際どい質問を貰って答えに窮する。


 なまじ可愛くひらがな多めに書かれたメニューは、幼い真緒にも読みやすい表示になっていた。


 うん、まぁそうなるよね。メイドさん、ごめんなさい。


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