ダイレクトメッセージ。


 今のナイトは食べ物を口にして味を感じることは出来るんだけど、飲み込んで消化する事は出来ない。なのでナイトは口に入れて味わった食べ物を蒼炎で燃やし尽くして、『食べて飲み込んだ事にする』食事ごっこを編み出した。


 この食事ごっこの利点は、本来犬が食べれないはずの食べ物も、気にせず楽しめることだ。塩辛い物も玉ねぎもチョコレートもニンニクも、幽霊のナイトに影響を及ぼさない。


 入院中、お母さんが買って来てくれた私のお見舞い品からチョコレートをちょろまかして「えっ、チョコレートうっまッ!?」てハジケまくってたの忘れないからね。


 今まで食べちゃダメだと言われてたチョコレートを食べたらめちゃくちゃ美味しかった。そしてこれからは気にせず食べれる。そんなお得感にはしゃぐナイトは可愛かった。そう、絶対に忘れない。


「お、返信きた」


『真田大正@映画見てね☆:返信ありがとう! 豪徳寺さんからも連絡が行くと思うんだけど、ちょっとジョニーズをメインにしたとある番組を立ち上げることになってね。そのお手伝いを頼みたいんだ』


『蒼乃フラム:お偉いさんからの連絡も来ました。大正さんと話しを詰めて番組に出るように指示を受けてるので、その通りにします。ただ、レギュラー出演は無理ですよ?』


『真田大正@映画見てね☆:ありがとう! 事情は少し聞いたから大丈夫。豪徳寺さんの指定する番組に何回か出るだけなんだよね? もちろんフラムさんが望んでくれたらその場でレギュラー確定だけど』


『蒼乃フラム:一年ぶりに学校へ復学出来たばかりですし、変わった日本の常識にもまだ慣れきってません。こんな状態でレギュラー出演は無理ですね。お誘い頂き嬉しく思いますが、御遠慮させていただきます』


 私は知っているぞ。大正さんが勧誘してくる理由は、もちろん私が数字を取りやすいってのもあるんだろうけど、一番は私とセットでついてくるナイトの存在だろう。


 ペイッターでシュポッ、シュポッとメッセージを投げあってお仕事の確認をする。


 日本に限らず、世界のあらゆる国々はダンジョンとDMの存在に踊らされ続けた。その対策としてダンジョンアタッカーが定着しつつあるのだけど、自動で勝手に動画配信がセットになるダンジョンアタッカーは、ちょっとしたアイドル業みたいな側面も持っているらしい。


 要は、カッコよくて頼りになるお兄さんお姉さんが、ライブ配信や投稿動画で華麗にモンスターを倒す娯楽映像作品は、確かな需要が発生しているんだ。


 そこでジョニーズ事務所は考えた。『ダンジョンアタッカーがアイドルになれるなら、アイドルがダンジョンアタッカーになっても良いよね?』。


 そんな理由で立ち上がる新番組、『ダン×ダン! ファイヤー!』。これはジョニーズの先輩アイドル達や現役のダンジョンアタッカーに教えを受けて、ジョニーズジュニアの中から比較的歳が上のメンバーを集めてパーティを組ませ、立派なダンジョンアタッカーに育て上げる内容の番組となっている。


 そのスターティングメンバーのゲストとして私を使いたい。それがお偉いさんとジョニーズ事務所の考えで、私は出演権の約束があるので断れない。


 まぁ別に断るつもりも無いんだけど。


『蒼乃フラム:でも、私は非公認なのでダンジョンアタックには参加出来ませんよ?』


『真田大正@映画見てね☆:いや、非公認でもダンジョンアタック自体は出来るよ。非公認だと武器が買えないだけだから。ダンジョンはパスポートが要らない異国扱いで、今のところ犯罪者の国外逃亡を防ぐ以外の理由では禁止出来ないんだ』


『蒼乃フラム:いや、武器が無いだけでも普通に困りますよ? クリアしたからって私は別に、銅級ダンジョンを舐めたりしません。蒼炎だけを過信してダンジョンアタックとか嫌ですよ?』



『真田大正@映画見てね☆:もちろん、君を丸腰でダンジョンに放り込むなんて事はしないよ。武器の購入が出来ないなら、局かジョニーズ事務所の方で武器を用意すれば良いだろう? フラムちゃんは大戦斧を使うだろ? ちゃんと用意させとくよ』



 ふむふむ、なるほど。


 ダンジョンアタッカーは資格が必要なく、代わりに登録が必要な職業だ。


 それは法律に引っかかる武器を購入する時に、書類や申請に関わる問題をクリアするためだ。その為、普通のダンジョンアタッカーはどうしても個人の登録が必要不可欠になる。武器無しでダンジョンに潜るなんて自殺行為だから。


 でも、武器をテレビの方で用意してくれるなら、確かに私は登録無しでダンジョンアタックに参加出来る。


「なるほどねぇ」


『真田大正@映画見てね☆:そんなわけで、一度顔を合わせて話したいんだけど、予定とか聞いても良いかな? こっちは今出演が決まってるメンバーと番組ディレクターを連れてくから。フラムさんも必要ならご両親も誘って是非、ご飯でも食べながら話そう』


『蒼乃フラム:了解しました。両親と相談します。一応予定は次の日曜日でお願いしようと思います』


 次の日曜日が二十五日か。とりあえず五日後かな。


 私はすぐメッセージアプリLIKEライクを立ち上げて家族用のグループにチャットを飛ばす。


 蒼乃フラム:ねぇねぇお父さん、お母さん

 蒼乃フラム:テレビ局とジョニーズの大正さんから連絡が来たんだけど

 蒼乃フラム:出て欲しい番組の相談がしたいから、お食事でもどうかって

 お母さん:あら、お母さんたちもジョニーズの人とご飯食べれるの?

 蒼乃フラム:うん

 蒼乃フラム:大正さんがね、みんなで是非って

 蒼乃フラム:お父さんはお仕事かな?

 お母さん:そうねぇ。お父さんは今忙しいと思うわ

 お母さん:優ちゃんがテレビに出るのは良いけど

 お母さん:優ちゃんの負担にはならないのよね?

 蒼乃フラム:それは大丈夫だよ

 蒼乃フラム:べしゃりステージに出る時にお偉いさんと約束したから

 蒼乃フラム:三回はテレビに出るって

 蒼乃フラム:嘘つきはダメでしょ?

 お母さん:優ちゃんの負担にならないなら良いのよ

 お母さん:それはすぐの話しなの?

 蒼乃フラム:一応、次の日曜日が良いですって返事したよ

 蒼乃フラム:お母さんたち、日曜日で大丈夫? 事後確認でごめんね?

 お母さん:日曜日ならお父さんもお休みだから、多分大丈夫よ

 お母さん:それにお父さんがお仕事でも、お母さんは行けるもの

 お母さん:まさかお母さんもジョニーズの人に会えるなんてね

 お母さん:いっぱいおめかししなきゃ

 蒼乃フラム:お母さんはおめかししなくても綺麗だよ!

 蒼乃フラム:お母さんのお洋服新しく買うなら、DMのお金おろす?

 お母さん:もうバカねぇ。娘にお小遣い貰わないと服も買えないお母さんじゃないわよ?

 お母さん:ちゃんとお父さんにおねだりするから、優ちゃんは気にしなくて大丈夫

 蒼乃フラム:わかったー!


 とりあえず日曜日で大丈夫そうだ。


 視界に写る画面を全部閉じた私は、友達の相手を任せていたナイトを見る。


「わっふん! わっふん!」


「すげー!」


「ナイトくんかっこいー! かわいー!」


 見ると、ナイトがシャチホコみたいなポーズ(多分シャチホコに成りたいんだろうけど完全に上を向いたアザラシのポーズ)でビシッと決めながら蒼炎を噴き上げて、周りの子供たちがその姿を誉めそやす光景が目に入ってきた。


 …………なに、この、…………なに?


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