大ファン。



「……ナイト」


「ナーちゃんっ……」


「わん!」


 そこに、蒼く燃えるナイトが居た。


「ナーぐんッッッ…………!」


「ナイトぉぉおおお!」


「ナーちゃんっ……!」


「わふっ!? わんわんわんッ!?」


 ベッドの上、私のちょうど膝の上に、私を文字通りに誇り高き忠義の騎士もふもふが居た。


 私もお父さんもお母さんも、薄らと向こうが透けて見える以外はいつもと変わらない様子のナイトを、わんわんと泣きながら抱き締めた。


 突然三人に飛びつかれたナイトは慌てた様子でわんわん吠え、でも嬉しそうに尻尾を振る、あの日の前と変わらないナイトだった。


 帰って来れた。


 この暖かい場所に、ナイトと一緒に帰って来れた。


 ナイトが諦めなかったから。ナイトだけが折れなかったから、私はここに、ナイトと一緒に帰って来れた。


「ありがどうっ……! ないどっ、ありがどうっ…………!」


「わふっ! わう?」


 泣きじゃくる私に、ナイトはやっぱり心配そうに舌を出して、私の涙を舐めた。


 ずっとそうしてくれていた。あの地獄で、変わらず私の騎士であり続けてくれた。


 ありがとう。ありがとう私の騎士様ナイト


「ナイトッ! お前はっ……!」


「ナーちゃんっ、ナーちゃぁんッ!」


「わうわう!」


 皆で泣いた。皆でナイトを褒めて、皆でナイトに感謝した。


 多分、そのまま三十分くらい泣いていた。落ち着くまでそれだけ時間がかかって、でも私なんかはまだグズグズと泣いていた。


 お父さんもお母さんも、もう二度と離さないと私を抱き締め続け、そしてお父さんはずっとナイトを褒め続けた。


「ナイト、そんな姿になってまで……! よく、よく優子を守り通してくれたっ!」


「わうんっ!」


「お前が、命懸けでっ、命を失ったあとさえも優子を守ってくれたのに、お前たちを助けに行けなかった不甲斐ない俺を、どうか、どうか許してくれっ……!」


「わんわん!」


「ナイト、お前は俺の自慢の息子だっ! 何よりも、誰よりも立派で、最高の息子でッ…………」


 ナイトはあの地獄で、あのダンジョンで過ごした影響なのかとても頭が良くなってるみたいで、お父さんの言葉が全て分かってるみたいだった。


 まるで「もう良いよー!」と照れるように、鼻をすすりながらナイトを撫でるお父さんの手を前足でペシペシ叩いてる。


「……………………いや、あの、そろそろ、よろしいですか?」


 そうしていると、かなり長い時間待たせっぱなしにしていたお医者さんが申し訳なさそうに聞いてきた。


 確かに今の私たちに割って入るのは、だいぶ空気が読めない行動であると言える。けど、お医者さんはこの部屋の隅で私たちを邪魔しないように、三十分も待っていたのだから、コレはコチラが悪いとも言える。


 なので私たちは素直に謝り、お医者さんの用事を優先することにした。


「いやはや、僕もね、やっぱり見ましたから、何回も。浅田さんの三ヶ月を辿る動画は。だから目の前で本物の青い炎を見れて、さらに本物のナイト君にも会えて、正直今、叫びながら院内を駆け巡りたい衝動が凄いんですよ。気を抜いたら今すぐここを出て院内爆走しそうなくらいに感動してます。でもね、だからこそ、状況が分かってない浅田優子さんへの現状説明は大事だと思うのです。ついさっきまで、浅田さんはダンジョンの呼称や迷宮事変も知らなかったんですから」


 なんでも、お医者さんは私とナイトの大ファンらしく、説明の合間に看護師さんへ「ねぇ君、色紙とか持ってない? 後でサイン欲しいんだけど、適当な物ないかな?」とか聞いてる。


 そもそも、大ファンって、なに?


 そんな疑問にもお医者さんはしっかりと答えてくれた。


「浅田さんをはじめ…………、いやご家族の前で苗字だと紛らわしいですね。優子さんと呼んでも?」


「あ、はい。大丈夫です」


「よっし! ご本人から名前で呼ぶ許可を貰ったっ……!」


「……あ、あの?」


「あ、ごめんない。説明を続けますね」


 お医者さんによると、私を初めとしたダンジョンに入った人間は一人の例外もなく、先程見た動画サイト、ダンジョンムービーにアカウントが作られる。勝手に・・・


 そしてダンジョンの中にいる間は常に、リアルタイムのライブ放送がされるそうだ。勝手に。


 …………え、つまり私の三ヶ月って無許可で垂れ流しだったってこと? 勝手に?


「…………どうしようナイト、私死にたい」


「わんっ!? わんわんわん!」


 ナイトに相談したら「ダメダメダメ!」と怒られた。たぶんそんな感じで怒ってると思う。


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