私だけ?
お医者様の説明は続く。
「ダンジョンムービー、巷ではDMと略されてる動画配信サイトですが、このDMはダンジョンに踏み入った人間のアカウントが勝手に作られ、勝手に生放送され、その人がダンジョンから出ると、そのきっちり一時間後に見事な編集が成された動画が勝手にアップロードされるのです。そして、アカウント所持者がダンジョンの
誰がどうやって運営してるのかも分からず、どうやって撮影してるのかも分からない動画が配信され、人が死んだらアカウントが消える。
ドラマや映画に出て来そうなネット系人材、いわゆる『ハッカー』と呼ばれる悪い意味でのインターネット専門のプロフェッショナルが、世界各国の凄腕が集って総力を上げてDMにハッキングを試みて、そしてほんの一欠片すら情報を得られずに失敗したらしい。
この時点で異常に過ぎるけど、もっと異常なのがお医者さんが言った通りに人が死んだらアカウントが消える事実。
これ、人が死んだらアカウントが消えるんじゃなくて、本当に人が死んだ瞬間にアカウントが削除されるらしい。
誰が、どこで、どうやって死んだとしても、絶対に誰にも見られてない様な状況でその人が死んでも、その死亡時刻と全く同じ時間にアカウントが消える。
少しの時間差も無くそんな事が出来る運営なんて、少なくもと人間の仕業じゃないのは確かだ。
「そんな訳でして、迷宮事変から一年、人類はダンジョンとDMが超常的な存在、いわゆる神に類する何かの仕業だと断定してるんですよ」
神が相手だと聞いて、私は戸惑った。
そんな馬鹿げた話しが信じられないとか、まるでフィクションだとか、そんな考えを持つ前にまず、一つだけ思ったのだ。
-そんな相手、どうやって殺せばいいんだろう。
信用とか現実とか、そんな些細なことより、どうやったらナイトを殺したソレに復讐出来るのか、それが分からなくて戸惑ってしまった。
今は目の前にナイトが居る。
蒼く燃える可愛いナイトが確かにここに居る。
だけど、ナイトが殺された事実は変わらない。
私の怨みは些かも衰えない。
あの日、洞窟で目覚めた私が見たナイトの姿は、未だに私の記憶にこびり付いてる。
幽霊になったナイトが蒼炎を使って触れるようになったとしても、ナイトが死んで幽霊になってしまった現実だけは何があっても動かない。
揺るがない。
だから私の復讐は、終わってなんかいない。
銅竜を前に生存と帰還を諦めた私だけど、だからこそ残った復讐だけは絶対に忘れない。
無かったことにはしない。
それだけは、絶対に無い。
「さて、ここまでがこの一年を語る上での、
前提が長かった。そっか、まだ本題ですら無いのか。
ダンジョンが産まれた迷宮事変。それは私が落ちたダンジョンだけじゃなくて、世界中の至る所に、大量にダンジョンが産まれた大災害。
迷宮事変でダンジョンが産まれたその瞬間から、ダンジョンはナイトを殺した小人の化け物、ゴブリンと呼称される怪物を世界に解き放った。
世界中で軍隊が動き、適当な銃で撃っても簡単には殺せないような化け物をなんとか抑え、世界の滅びを防いだ人類。
そして人類はダンジョンを危険視して、可能な限りダンジョンを管理し、可能であればダンジョンを
「…………え、ていうか、銃が効かないんですか?」
「ええ。詳しい原理については後でまた説明しますが、いま簡単に教えますと、ダンジョン由来の生物は銃で撃つより生身で殴った方がダメージになるんですよ。…………その事に人類が気が付いたの、ゴブリンがダンジョンに帰った後なんですけどね」
あまりにも意味不明過ぎる独自法則で動くダンジョンと、それに由来する化け物、モンスター。
ダンジョンを管理するためにはそれらの調査が急務であり、平たくいえば人の身でダンジョンに踏み入って調べる必要がある。
「……まぁ、そんなことしなくても、ダンジョンのルールはDMに全部書いてあったんですけどね。そんな事にすら人類はなかなか気付かなかった。いえ、気が付いていた者の声が政府に届き、政治に反映されるのが遅すぎたんですね。ネットの与太話を事実だとするには、現代人の腰は重いですから」
情報が足りないままのダンジョンアタックは、大量の死者を出した。
ダンジョンのルールが細かく判明した今でさえ、ダンジョンへの侵攻は上手く行ってないそうだ。
「迷宮事変から一年、優子さんが銅級ダンジョンを制覇してから九ヶ月もの時間が過ぎましたが、未だに世界でダンジョン攻略を成し遂げた人間は優子さん、あなただけなんです」
お医者さんが言う。
「………………は?」
なんだって? 私だけ?
「そ、そんな馬鹿な……」
「寝ていた優子さんには信じられないかも知れませんが、事実なんですよ……」
父を見た。頷かれた。
母も見る。頷かれた。
看護師さんも見る。頷かれる。
ナイトを見る。「わぅ?」っと首を傾げる。はい可愛い。
「取り敢えず、納得出来る様に説明を続けますね?」
お医者さん。お手数をお掛けします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます