ナイト。
ムービーが終わっても、クレジットさえ涙で見えない。
「優ちゃん……!」
「優子ぉおっ!」
そんな動画の終わりと同時に、病室の扉が勢い良く開く。
そうして入って来た男性と女性の二人組は、多分お父さんとお母さんだ。
だけど、ナイトの愛を知った私は涙で前が見えなくて、二人の顔が良く見えなくて、でも声はあってるはずだから、多分お父さんとお母さんだ。
「お父ざんっ、ぉがあざっ…………!」
近くに居たお医者さんと、その後ろに居た看護師さんがサッとベッドから離れて、お父さんとお母さんの場所を空ける。このお医者さんは気遣い屋さんだ。
動画を最後まで見ろと言ったお医者さん。
そうやって私にナイトの最後と、限りない愛情を教えてくれたお医者さん。場所を空けてくれた事も含めて私はお医者さんに感謝した。殺そうとか思ってごめんなさい。本当にごめんなさい。
涙で前が見えない私は、駆け寄った二人に痛いほど抱き締められた。
「良かった……! 目が覚めて本当に良かった……!」
「優ちゃんっ、ごめんなさぃ……、お母さんたち、優ちゃんが辛い時になにもっ、なにも出来なくてっ……!」
帰って、来れたんだ。
三ヶ月のダンジョン生活と、九ヶ月の昏睡。
実に一年ぶりになる家族の温もりを感じて、私は帰って来れたと実感した。
「がえっで、ぎだよぉ……!」
ナイトが支えてくれたから、ナイトが助けてくれたから、ナイトがずっとそばに居てくれたから、ここに帰って来れたんだ。
「ないどッ……!」
今もそこに、私の傍に居てくれてるの?
ナイトは今も、そこに居るの?
私は確かめたくて、我慢出来なくて、この力を手に入れてから初めて、優しい気持ちだけを込めて蒼炎を使う。
私の全身から蒼が
「ちょっ、浅田さんっ!?」
病室に蒼炎が吹き荒れて、優しいお医者さんと看護師さんが慌ててる。
お父さんとお母さんもビックリして、だけど私を抱き締める腕は緩まなかった。
私の蒼炎は、私が燃やしたいモノだけを燃やしてくれる。だからこの蒼炎が、この病室全部に満たされたって、何も燃えないし誰も燃えない。
今私が燃やしたいのは、『そこナイトが居ない現実』だけだ。
だから、お願い。
そこに居るなら、そばに居るなら……。
「あ゛い゛た゛ぃ゛よ゛っ゛、ナ゛イ゛ト゛…………!」
私にもう一度、その姿を見せて…………!
願い、祈る私。
そして…………。
「--……………………あぉぉぉぉおおんッッ!」
その吠え声と共に、吹き荒れる蒼炎が収束する。
やり方は何となく分かってた。
あの時ナイトが私の蒼炎を使えたのは、私が蒼炎の制御を手放したから。
だから、私は病室に満ちた蒼の権利を、最愛の存在に半分明け渡す。ただ、それだけで良い。
「わふんっ!」
もしそこに居るなら、それで伝わると思った。
「ないどォッッ……!」
「わん!」
蒼が形を作る。
収束した炎は私の最愛を象り、彩り、そこに顕現する。
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