獅子周回。



 サンダーレオ周回。


 それが私の出した答えだった。


 色々と実験と検証を重ねて、私も世界も知らなかった情報をつまびらかにしていき、周回のルーチンを決めてとにかく回す・・


 銅級五層を守るボスであるサンダーレオ。コイツを倒すと出現する階段は、このサンダーレオがポップしてから死ぬまでに攻撃を加えた事がある者だけが通れる仕様らしく、それ以外の者には階段を見る事すら叶わない事が分かった。


 私達のレオ周回を知ったアタッカー達が見物に来たりして、その人達に手伝って貰ってその辺の仕様が判明した。


 そして、階段は発生から一時間ほど残り、階段が消えると同時に五層のどこかで新しいサンダーレオが生まれる。


 私が初めて見たレオは緑、二回目は黒で、三回目はワインレッド、四回目は白だった。


 お母さんと真緒に各種ポーションを使って回復させたら、またすぐにレオに挑ませる。休んで良いのはレオがリポップするまでの一時間だけ。


 精神的疲労なども最低限しか取り除かない。その苦労も、辛さも、経験値として二人の糧になるから。


 用意してた武器はとっくに壊れて、二人とも素手とスキルで戦うしか無い状況のまま周回する。防具も当然ボロボロだ。それで良い。そうだからこそ耐久が伸びるし、武器が無い分必死に攻撃を通そうとする工夫で技量が伸びるし、力いっぱい振るう拳で膂力も上がる。


 全部だ。全部上げる。


 二人のステータスを限界まで上げる。一回のレベルアップでギッチギチに詰め込んだ経験値を使わせる。一般アタッカーの経験値がふわふわのわたあめだとしたら、お母さんと真緒の経験値はタングステンよりも重くする。


「…………あ、倒したね」


 今回のレオで何周目だったかな。お母さんと真緒は今、たしかレベル3だっけ? もしかしたら4かもしれない。


 そのくらいまでレベルアップしてるけど、とうとう私の補助無しで、二人がかりでサンダーレオを討伐して見せた。


「二人ともおめでとー!」


「…………優ちゃん」


「おねーちゃ…………」


 気が抜けて、私をフラムじゃなくて優ちゃんと呼んじゃうお母さんと、フラフラしてる真緒をギュッと抱き締める。


 これで二人はギリギリ、ギリッギリで銀級に行く準備が出来たことになる。銀級の一層目はサンダーレオくらいの強さらしいからね。コレが倒せるならギリギリ及第点だ。


 まぁもっとレベリングはするんですけど。サンダーレオ周回は序の口だよ?


「…………ねぇ、おねーちゃん」


「ん、どうしたのクーちゃん」


 最近私は、真緒が白乃ニクスの時はクーちゃんと呼んでる。ニクスだからニーちゃんかなって思ったけど、それだとなんか「おい兄ちゃん」みたいなニュアンスになるからクーちゃんになった。


「………………えっと、ね? びょういんで、ばかっていって、ごめんね」


 こんなに大変なの、知らなかった。真緒がそう言って俯く様子が愛おしくて、私は力いっぱい真緒を抱きしめた。


「おねーちゃん痛い痛いいたいいたいチカラつよいってイタイイタイ……!」


「だってクーちゃんがっ、私のクーちゃんが可愛ぃぃぃいいッッ」


「痛いってばッッ!」


 バギンッ……! 白雪で凍らされた。めっちゃ寒い。


 ボウッと蒼炎を噴いて白雪製の氷を溶かすけど、いや全然解けないなこの氷。あー、そっか、残存魔力で…………。


 よし、蒼炎で氷の魔力を抜きながら燃やしたら溶かせた。


「おねーちゃんのバカッ! やっぱりバカ! レベル8なのじかくしてっ! まおまだレベル4なの!」


「てへへ、ごめんごめん。クーちゃんがあまりにも可愛かったから……」


 興奮のあまり自分を「まお」って呼んじゃってる真緒の頭をくしゃくしゃ撫でる。DMよ、上手いこと編集しておけよ。


「あ、せっかく綺麗に倒せてるし、解体でもする? サンダーレオの毛皮って高く売れそうだし」


「あら、それは良いわね。綺麗なコートになりそうだもの」


「ドロップもインベントリに有るんだけどね」


 ダンジョンはドロップもするし剥ぎ取りも出来る。討伐報酬の二重取りが可能なのだ。まぁポーションとかのアイテム類はドロップでしか出ないけども。


「ところでゆ……、じゃないわね。フラムちゃん? 銅竜のことは良いのかしら?」


「ん? ああ、依頼のこと? 大丈夫だよ、計画してる予定通りだから」


 せっかくだし、銅竜の周回依頼も二人のレベリングに使うつもりだ。


 最短で二人を私と同じ所までキャリーする。銅竜すら周回出来る強さが有るなら、とりあえず銀級でも死なずに済むと思いたい。と言うか、それでダメなら私も危ない訳だし。


「さて、今日はもう帰ろうか。明日から本格的にレベリングするから、覚悟してね」


「…………えっ? 今日のこれは、本格的なレベリングじゃ無いの?」


「………………おねーちゃん?」


 うん、本番は明日です。


「今日のレベリングはね、明日以降の本番を耐える為の準備期間です」


 多少なりとも強くなったと思った二人は、そんなものまだ準備の準備だよって言われて遠い目をしていた。


「……あの、フラムちゃん? せめて休日が欲しいわ」


「おにゃがーしまっ」


 可愛い妹と大好きなお母さんにお願いされたら、仕方ないか。まぁ正直なところ、今日だけでレベル4まで上がったのは嬉しい誤算だしね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る