オブジェクトの使い方。



 結論から言うと、ニクス大正解だった。


けむッ!? 臭っ……!?」


「…………草だけに?」


「……………………えッ!? 今のクソつまらないダジャレ言ったの誰!? まさかお母さん!?」


「……しょぼん」


 ニクスの疑問を受けた私は、速攻で壁の外に行って群がるアイビールを吹っ飛ばし、その辺に生えてる草を適当に毟ってインベントリに突っ飲んだ。


 結果、

 


 モクログサ:いぶすと大量の煙を出す魔草。その特徴的な魔力を含んだ煙は、特定のモンスターを遠ざける効果が有る。



 泣きたかった。


 私が初手で、煙も出させずに蒸発させたあの行動が失敗の始まりだったんだ。


 その後も、魔力を奪う為だけに軽く炙る程度の蒼炎をばら蒔いてたのも、もう少し火力が高かったらそれで問題解決してたんだと思うとひたすら泣きたい。


 はい。戦犯は私でした。


 インベントリの説明を見た私は速攻で周囲の草を集めて戻り、とりあえずどんなモンかと防壁の内側でモクログサを燻してみた。


 八歳児の手で握れるだけの束を燻しただけでビックリするくらい煙出た。マジでビックリした。


 それでめちゃくちゃ臭かった。煙いし臭いし最悪だ。盛大に腐らせたカレーをわざわざ加熱したようなバッドスメルが周囲に立ち上って死にそうになった。


 そして、モクログサを燻した結果は--……


「ンギィェェエエエエエッッ!?」


「ゴブォッ!? ブギィ、ィィギィィイイイエエエイイイイイッ!?」


「ボギィィアアグンギィィェェエエエエエエッッッッ!?」


 めっちゃ辛そうな叫び声を上げながら、アイビール達はさぁ〜っと消えてった。


 もう、波が引くようにって形容詞すら生ぬるい感じで消えてった。まさに脱兎だっとの如く。シュバッと消えた。


「………………わ、私達の二日間はなんだったと」


「おねーちゃん……」


 哀愁漂う私の背中を、ニクスがポンポンして慰めてくれた。


 階層ギミック。銀級からはそんな要素が発生するのだと理解出来たのは大きいけど、この徒労感はシャレにならない。


 レベリング出来たことを良しとするしか無いけど、正直レベリングなんて後でも出来たしなぁ…………。


「コレからは、どんな物でも一度はインベントリに入れるべきね」


「そだね。……て言うか、これも覚醒者じゃないと気付けなくない? 他にも攻略ルート有るのかな」


「探してみる?」


 どちらにせよ、二層へ行くための階段は探さないと進めない。その道中に謎解きの続きをするくらいなら寄り道とさえ言えないだろう。


「うん、そだね。今は私達しか来れないけど、後々の事を考えれば攻略ルートの開拓は必要だよね」


 後続が楽になれば、巡り巡って私達も楽になる。


 この先も私達が銀級攻略の専任者扱いなんてゴメンだ。後続が銀級のヒートゲージを減らせる環境作りは、私達自身を助けるのと同じ。


「とりあえず、後片付けしちゃおうか。このまま進む訳にもいかないでしょ」


「壁も?」


「壁は……、別に良いかなぁ」


 今の初期地点は私達が寝泊まりする為に、キャンプグッズ等が設置されてる。二日も此処で粘ったからね。


 テントやコットはもちろん、キャンプ用のトイレやシャワーなども片付けていく。冷凍防壁はそのままで、放置してたらダンジョンが勝手に吸収なり分解なりしてくれるだろう。


 素材が勿体無いけど、仕留めて血抜きもせずに凍らせた状態劣悪な素材なんて集めても仕方ない。欲しかったらその辺にウジャウジャ居た生きてるアイビールを仕留め直せば良いんだし。


 片付け終わると、燻してた草の後始末をする。まかり間違って草原大炎上とかなったら私達も困るし。何より臭いし。


 ただ、ハッキリと効果があったので、この先の攻略も考えるとバトルドレスを燻蒸くんじょうしとくべきだろうか。


「おねーちゃん。背に腹は、変えられないんだよ」


「ニクスが賢いこと言ってて辛い……」


 もう少し、ふわふわでぷにぷにだった妹を堪能したかったな……。急速に大人びていくニクスも可愛いけど…………。


 ニクスにたしなめられた私は、火の始末ついでに煙を浴びて臭いを服にたっぷりと付けた。お母さんとニクスも同じようにする。


 これで、無限に湧いて無限に襲って来るアイビールギミックは無効化できる。


 ……………………めっちゃ臭いけどね。なんか鼻が痛くなって来た。


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