いくらなんでも。



「いくらなんでも、おかしくない?」


 そう思い始めたのは、ダンジョンアタックを初めて二日目の昼。


 周囲の草を燃やして刈って、どうにか追加で100メートルほど活動領域を増やす事に成功してる私達だけど、しかしそれは、未だに初期地点の防壁を拠点にせざるを得ないって事でもある。


 交代で狩り、交代で休み、交代で守りながらも二日、少しずつ進んでは居る。


 けど、流石におかしいと思う。


「こんな無理ゲー、私達の他に誰がクリア出来ると?」


 まる二日も戦ってる。スキルを利用した堅牢な防壁を築き上げてまで戦ってる。インベントリから大量の物資を吐き出しながら過ごしてる。


 こんなの、最低でも覚醒者じゃなきゃ無理だろう。あまりにも高い能力と豊富な物資を要求し過ぎてる。攻略不能と言っても過言じゃない。


「私達は、何か間違えてる? 此処は大規模戦闘レイドバトルが前提の階層だった? それとも攻略法が存在する?」


 今までのダンジョンは、まるで「攻略してくれ」と言わんばかりの作りだった。順当に努力をすれば攻略が出来て当たり前。


 今も人類が詰まってるのは、種族単位でレベリングを失敗した結果でしか無く、私が私なりの「正しいレベリング」を世間に発表した今ならば、時間さえあれば五層は超えて先に進めるはずだ。


 なのな、銀級は一層からコレ? 無限に等しいモンスターが二日も絶えず襲って来る魔境なのか?


 いくら銅から銀にランクが上がったからって、限度ってものがある。


 私達は、きっと何か凄く重要な事を見逃してる。


「今こそ唸れ、私の知性…………!」


 ……………………。


 …………………………。


 ………………………………なんも分からーん!


「ダメだ全然分かんない。ちょっと皆しゅーごー!」


 流石にこれ以上は不毛だと、私は大声で招集をかける。


 食料などは大量に持ち込んでるから大丈夫だし、ポーションもアイビールからドロップしてくれるので問題無い。気力が続く限り戦える。


 けど、不毛だ。不毛だよ。アイツらあんなにもっふもふの癖に不毛極まりないね! まったく、なんてハゲ散らかった奴らなんだ。ウサギの風上にも置けないモンスターだ。


「おねーちゃん、どーしたの?」


「何かあったのかしら?」


 攻略ローテーションで防壁周辺の警戒をしてたニクスも、狩りに出てたお母さんも、私の大声を聞いて戻って来た。


「いや、あのさ、多分私達なにかすっごい勘違いしてると思う。攻略法見落としてる」


 思えばもっと早く気が付けよって話だけど、レベリング自体も必要だったのは間違い無いのでモンスター無限湧きそのものは歓迎してるんだよ。ソロで突っ込む状況なら程よく過酷で良質な経験値が手に入るし。


 私もニクスも、防壁の維持がある関係で魔力の伸びも期待出来るし、お母さんは長巻の扱いがどんどんキレて・・・るから技量が良く伸びてるはず。


 まぁ私はもう魔力評価Sなんだけど、だからって魔力を疎かにしてレベルアップしたら評価下がるかもだし。


 そんな訳で最初はレベリングに熱中しちゃったんだ。今は私がレベル10、二人がレベル9まで上がったので熱から覚めた感じ。「冷めた」じゃない。「覚めた」だ。


「二人とも、何か気が付いた事とか無い?」


「そうねぇ……。アイビールが無限湧きしてるけど、この階層にはアイビールしか居ないのかしら?」


「ふむ……」


 なるほど。他のモンスターを探してアイビールと対立させるのか? いや、ダンジョン内でモンスター同士が争うのか? 分からないな。可能性は有るけど確証は無い。可能性としては考えておこうってくらい。


「確かに、ネットの噂では『ウサギ』が居たって情報もあったし、なら他のも正解だった情報が有るのかもね」


「例えば、亀が居たって情報が真実だったなら、亀を探して甲羅の上から探索なんてどうかしら?」


 アイビールは高く跳べない。亀のモンスターも自分の甲羅の上を攻撃出来ない可能性は充分に有る。なら、そこを安全地帯として亀の歩みに任せて探索も、割りと現実的なのだろうか?


 もしくは、亀の甲羅に下層への階段が有るとか。ダンジョンの意味不明な階段なら、甲羅にあってもおかしくない。だって上階から降りてきたのに、降りきった階段には「上」が無かったりするし。


「………………うん、他のモンスターを探すのは有りかも。私達、速攻で防壁作って引きこもったから、コレがまず間違ってたかも」


 本当ならアイビールの大群から逃げて、そこで新しいモンスターに遭遇するってパターンだったのかも知れないな。私達はなまじ能力があったから防衛戦に成功しちゃってるだけで、普通はこうならないもんね。


「……ねぇ、おねーちゃん」


「ん? ニクスも何か思い付いたの?」


 他のモンスター探索をメインに切り替えようか、そう舵切りをする寸前にニクスが控え目に手を上げる。


 こう言うのは、意見が多ければ多いほど良い物だ。たとえ正解じゃ無かったとしても、それで見えてくるものが有るから。


「ニクスね、思ったんだけど……」


「うんうん、どしたの?」


 ニクスは、本当にこんな事を気にして良いのか、そんな不安がチラつく表情だった。


 私はどんな意見でも大丈夫だと、正解なんて今は誰も分からないんだからと、ニクスの可愛い背中をぽふぽふ叩いて言葉を促す。


 すると、




「なんで、この階層はただの草があんなに魔力たくさんなの………?」




 --そう言えば、何でだ?


 え、いや、まさか、…………それは、どうなんだ?


 言われて気付くが、確かに普通の草が、なんの効果も持たない草むらのオブジェクト的な植物が、なんであんなに魔力たっぷりなんだ?


 半径100メートルを焼き払っただけで、レベル9で魔力S評価の私が総魔力量の三割損? いや冷静に考えてオカシイじゃん。


 銅級でだって、普通のオブジェクトには大した魔力は宿らない。それが深部に近い階層であってもだ。


 モンスター素材じゃなくて、そういった簡単に手に入るオブジェクトを利用してダンジョン周囲の防壁を強化する計画があったらしく、その辺はとっくに調査済みだったんだ。


「……え、じゃぁ何? この草ってもしかして、採取出来るアイテムなの?」


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