塒。



「……なんかさ、もう、ホントごめんって感じ」


「私達はアレね、ダンジョンが出て来るゲームをやってお勉強するべきね」


「ゲーム買うの? ニクス、お友達に聞いてくる?」


「私もゆし……、じゃなくて、友達に聞いとこうかな。流行りのRPGとか」


 アイビールを悪臭によって退けた私達は、本格的に階層攻略に乗り出した。


 今回の目的はヒートゲージを下げることなので、あれだけ無限湧きするモンスターを延々と潰すのも悪くは無いんだけど、ヒートゲージは強いモンスターを倒す方が減少率が高いので、この先に似たようなギミックの階層が無いとも言えない今のところは先に進む方が良い。


 そして、私達以外のアタッカーでもこの階層を攻略する為に必要な情報を探していたんだけど、これまたあっさり見つかった。



 アイビールの巣穴である。



 そう、あれだけ巨大な生物の巣穴なら、私達も余裕で潜れる訳だ。


 最初は一応中も確認しようかってくらいの気持ちで確認したんだけど、すると中に答え・・があった。


 これも結論から言うと、銀級一層はもうそこから、中ボスを配置する形式のエリアだった。


 巣穴に潜って先へと進んだ私達は、学校の体育館程の広さを持つ広間に辿り着く。


 そのエリアには私達が通って来た巣穴の通路以外にも何本かの道があり、恐らくアイビールの巣穴が十本前後が此処に繋がってるんだろう。


 単純に当たりを引いたのか、此処に繋がってない巣穴は別の当たり広間へ繋がってるのかは分からないが、とにかく私達は大きな空間に辿り着き、そこには中ボスが居た。


 見た目はそのままアイビール。しかし大きさが違う。


「仮称、デカビールで」


「…………ジョッキについだ生ビールみたいね」


「おっし分かったお前は今日からトリアエズナマな! 今から仕留めて居酒屋に並べてやるから覚悟しろコノヤロウ!」


 もしくは中ジョッキで。


「多分、これ倒せばレオみたいに階段出て来るんじゃない? 覚醒してない人の最適解は、遭遇した最初のアイビールをぶっ殺してソイツの巣穴に潜り込む事だったんだ」


「ニクスたち、すごい遠回りしたねぇ〜」


「本当にねぇ〜」


「よーし、遠回りした分速攻で仕留めてやるから覚悟しろよ鈍色毛玉!」


 予備ドラを構え、ホームラン宣言するメジャーリーガーの如く勝利宣言。


 私達が入って来た時にはもういきり立ってブチ切れ状態で、今も鼻からフスフスと荒い息を吐いてる。


 多分、モクログサを燻したデメリットじゃないかと思う。あれ使うと小さいノーマルアイビールは追い払えるけど、ここから移動出来なさそうな中ジョッキはただキレるしかない。


「モクログサをくと、雑魚の戦闘は避けられるけどボスがバーサークするデメリットが有るんだろうね」


「何事も善し悪しなのね」


 多分これが正規ルートなんだ。遭遇したアイビールだけをぶっ殺して巣穴へダイブ。それで、数を狩りたい時はあの乱戦を経験して、モクログサは乱戦が起きた時用の救済措置なんだ。


「まったく、良く出来た遊び・・だよ」


 お母さんが長巻を構えて、ニクスもアマドラを下段に持つ。ナイトはずっとお気に入りのグレートソード『メルシオン』をブンブンしながら巨大化する。


 もうコイツ一匹なら燃費を気にする必要も無い。


「行くぞオラァァアアッッ!」


「ん゛キ゛ィ゛ィ゛い゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ゛!」


 叫びながら吶喊とっかん


 重苦しい重低音な鳴き声を上げて向かい打つ中ジョッキは早速と立ち上がり私達を威嚇するが、その行動はあまりにも遅きに失している。


 懐に潜り込んだ私を推し潰そうと体を下ろす中ジョッキのふわふわストマックに蒼炎一閃。


「ンギィイッッ!?」


「遅っせぇんだよデカブツがァ!」


「フラムちゃん、お口が悪いわよっ?」


 蒼炎噴射もプレスして全身全霊全力全開のフルスイングで中ジョッキを浮かせた私に注意するお母さんは、私が裂いた腹に捩じ込むように長巻を突き入れて帯電。毛皮に絶縁性が有るなら内側から焼き殺すって事なんだろう。


「止まっちゃえぇえええッッ!」


「ワ゛ル゛ゥ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!」


 ついで追い付いたニクスが真下から全力の白雪で中ジョッキを噴き上げ、そうやって浮きに浮いた中ジョッキを巨大化したナイトが跳び、真上からグレートソードで叩き落とした。


「時間なんて掛けない! これで終わらせるッ…………!」


 お母さんの紫電がどんなデバフを積んだのか分からないが、ニクスの白雪をモロに食らって停滞する中ジョッキは地面に叩き付けられた状態からろくに動けない。


 そこを狙い、私は予備ドラにありったけの蒼炎を掻き集めて収斂する。


「死--……」


 蒼く輝く大戦斧を左手で携え、高く跳ぶ。


「ルゥァアアッ!」


 そんな私を補助するように真下から蒼炎を吹かせるナイトにアイコンタクトでお礼を一つ。私を決して焼かないそのジェット噴流の様な蒼に乗って、更に高く--


「--ねぇぇえええええええええええええッッ!」


 降下。全身から蒼炎を噴いて、タングステンがふんだんに使われた予備ドラの重さに加速を与えて全力突撃。


 動けない中ジョッキの脳天目掛け、自重と加速に耐えられずしなる予備ドラを全力で振り下ろし、武器に秘めた蒼炎も全て解放する。



 --轟ッッッ……!



 そして、大爆発。


 二日も無駄にされた憤りがこれでもかと詰め込まれた蒼い炎が炸裂し、大きなウサギの広々としたねぐらを埋め尽くす。




 正直、自分でもやり過ぎたなって思ったよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る