娘も五層。



 結局、魔法については何も分からなかった。カーバンクルの扱う魔法をパクる事も叶わず、私達はすごすごと先に進むしか無かった。


 ギミックがあったのは一層だけで、その後は特にギミックらしいギミックもなく四層まで進み、そして次が五層だ。


「き、きんちょう、するねっ」


「まぁ、うん。どんなボスなのか……」


「まだ居るとは確定してないわよ?」


 ダンジョンはやはり、エリアが三層ずつ決められている形らしく、銀級は四層から森林エリアになった。


 銅級も四層からは森林エリアで、その五層にはサンダーレオが居る。銀級も五層に何かボスを置いてるだろうと予想出来るので、ニクスはそれで緊張している訳だ。


「大丈夫かな、とは私も思ってる。あんなこれ見よがしに魔法なんて物を見せ付けてからの中ボスだからね。もしかしたら魔法が使えないと詰むギミックボスとかかもしれないし」


 心配事は無限にある。でも、進まざるを得ない。


 なぜなら、もう少しで当初のリミットだった一ヶ月が過ぎようとしてるから。ヒートゲージの増減が今、ちょっと微妙な感じなのだ。


 アイズギアのコンタクトレンズが視界に浮かべてくれる政府の配信チャンネル。そこには、残り5ミリ程で耐えてるヒートゲージが見えて居た。


 かなり危うい。正直なところ、もう帰還してダンジョンブレイクに備えた方が良いのかも知れない。


 けど、アイビールの強さはもう見たし、私達四人と自衛隊が頑張れば何とか出来ると思ってる。だから今は、ギリギリまでダンジョンでヒートゲージを減らしたい。


 何より、一回ブレイクしてしまえば、次回ここがブレイクするとカーバンクルが外に出る訳でしょ? アレはちょっとシャレにならない。


 だからヒートゲージを減らせるなら減らした方が良い。二回目はなるべく遠ざけた方が良い。その為には私たちが頑張るしかない。


 けど、今のままだと私達は一生ダンジョンから出られなくなるので、ヒートゲージの減少率がもっと高いモンスターを探して、階層を進まないとダメなのだ。だって今のままだと私達が外に出たらヒートゲージ溜まっちゃうもん。


 私達だってお家に帰りたいし、お父さんにも会いたい。めっちゃ会いたい。ああ考えてたら寂しくなって来た。


「さぁ、気合を入れて行こう!」


「だから、まだボスが居るとは決まって無いのよ?」


「いや、でもお母さん。居るつもりで行こうよ。居なかったら居なかったで良かったねーってなるけど、気を抜いててボス居たら危ないもん」


「……それもそうね。はい、お母さんが間違ってました」


「えへへ、おかーさんあやまってる〜」


「こらニクスちゃん。ちゃんと謝ってる人を笑っちゃダメでしょ。お姉ちゃん怒りますよ?」


「ごめんなさ〜いっ」


 そうやって、みんなできゃっきゃしながら階段を降りる。


 後ろで見てるナイトは幸せそうに尻尾を降って着いてくる。


 誇って欲しい。私達がこうやってきゃっきゃと笑えるのは、また手を取り合って言葉を交わせるのは、ナイトのお陰だから。


 私も誇るよ。そんな素敵な騎士様が共に居てくれる幸運と、共に歩ける運命を。


「……階段の先は、また森林。これはもう三層三回にボス部屋って構成で間違いなさそうかな?」


「………………ねぇフラムちゃん、この階層、何かおかしくないかしら?」


 辿り着いた五層は、銅級のそれよりも開放感のある森だった。


 野生感が無く、なんと言うか、『管理された森』ってイメージを強く感じる。しかし、何かおかしいことが有るだろうか?


「何が--」


 言いかけて、私も気が付いた。


「--…………え? モンスターの気配、無くない?」


 一ヶ月近く使って辿り着いた銀級ダンジョンの五層。


 そこは、モンスターの気配が一切感じられない不気味な場所だった。


「今までなら、場所が分からなくても、『居る』ことは感じられたのに……」


 モンスターには独特の圧力がある。


 同じ階層に居れば何となくでも感じられる、モンスターがモンスターである圧力。


 ソレをこの階層からは一切感じない。


 序盤は一切モンスターの姿が見えなかった一層でさえ、私達は「モンスターが居ないかも」なんて考えなかった。ポップしてなくても、どこか遠くには居るかもなって探し歩いた。居ない可能性は微塵も考えてない。


 だってあの階層でも、モンスターが存在する圧力は感じられたから。


 銅級五層でレオを殺すとよく分かる。五層にはレオしかモンスターが居ないから、レオを殺すと圧力が消える。あれを経験したならば、この圧力を近く出来るようになる。


「…………これは、モンスターが居ない?」


「いや、そう・・言う・・モンスターなのかも」


 ああ、隠密と言うかステルスと言うか、その手の能力を持ったモンスターが居る可能性は確かに否定出来ない。


「……いいや、悩んでても仕方ない。警戒は解かずにこのまま進もう。先に進めばどっちにしろ分かるよきっと」


「それも、そうね」


「わかった」


 気配が無さ過ぎて不気味に思えて来た森を、生唾を飲み込みながら進む。




 そうして、見えて来た物は--




「……………………は? なん、え? …………町?」




 ダンジョンの中に栄えた、一つの町だった。


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