父の五層。
「るぅぁぁぁああああ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛!」
「ガラァァァアアアアアアアッ!」
白い毛並みと赤い目を持つ巨大な獣がバチバチと帯電し、その巨大な前脚を振るう。紙一重で避けては電気にやられると判断した俺はすぐにバックステップで大きく下がった。
ここは銅級ダンジョン五層。目の前に居るのはサンダーレオと呼ばれる中ボスだ。
コイツを超えなければ、娘が味わった地獄の本質にすら触れられない。
「紅犬ぅぅぅううっ!」
憑依に一体。召喚で一体。残りの魔力は召喚した紅犬の巨大化と、俺と紅犬の強化に使う。娘達から散々教わった事ではあるが、スキルとは『軸』と『色』が別判定なので扱いに注意する。
レオ程とはいかないが、それでも半分程度には巨大化出来た紅犬へ、『紅』の強化を積んでレオと殴り合わせる。
そこに憑依を強めて強化する度合いを上げた俺が遊撃する。このパターンでコイツを削り切る。
強化と憑依を強めると、耳と尻尾に留まっていた犬的要素が他にも顔を出し始める。まず指から肘にかけて真っ赤な毛並みに覆われ、獣の様な爪が生える。そして足も同じような変化を迎え、頬にも毛が生え、更に犬歯が肥大して牙になる。
ファンタジーに於ける『獣人』だろう。人と獣の割合が七対三程か。
そうなった今の俺は、恐らくレベル一つか二つは上の力が出せる。端末を捨てて正確に確認出来ないが、明らかに身体能力が上がった回数を
五層のサンダーレオを相手にして良いレベルじゃないが、それを紅で強化する事でレベル5相当になっているはずだ。これなら戦える。
紅犬のスキルは、犬を召喚するには大量の魔力を消費するが強化能力は燃費が良いらしい。今はレベル2分のブーストが限界だが、ステータスを上げていけばもっと強くなれるかもしれない。
強くなりたい。…………切実に、誰よりも強く。
オレが娘より強ければ、娘が頼られることも無い。自分の人生を自分の好きに出来る。銀級のヒートゲージがどうとか、そんなのは大人の役目だ。なんで八歳の子供が頼られないといけないのか。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛ッ゛ッ゛!」
一瞬だけ紅犬を操り、レオの背後へ。
正面に俺、背後へ紅犬が回ったレオは一瞬だけ挙動が止まる。
そこに付け入るように俺は殴りかかる。武器なんて持ってないから、帯電するレオに対して獣の爪で襲いかかるしかない。
威勢の良い
巨体をしならせて帯電する獣と打ち合うには、俺の場合だと紅犬の憑依が必要だった。電気をどうにかするには、身に纏う魔力を強めて干渉力で勝たないとどうにもならない。
俺の獣腕がレオの前脚と打ち合うたびにビリッと感電して思考が飛びかけるが、紅犬に込めた魔力の抵抗で弱める事が出来ている。
正直、触ったらアウトって何だこのクソモンスターって思ってたが、今考えるとこうやって魔力に対抗する
そうして、巨大な獣と殴り合う今、紅犬にレオを襲わせる。背後から
「コレでトドメだオラァァァアアッ!」
紅犬に噛まれて一瞬動きが止まるレオに、俺はチャンスを逃さず爪をレオの眼球へと突き立てる。サンダーレオもモンスターとは言え生物であるならば、目の奥には脳があり、脳が壊れれば生物は死ぬ。
生き物によっては脳の大きさに違いがある。クマなどは体の割には脳が小さく銃で頭を狙っても殺せない事が多いそうだ。頭蓋が固くて貫通出来ない事も多いのに、頭蓋を超えても脳が小さくて銃撃で潰せるか分からないから。
しかし、いま俺が突き入れたのは自分の腕であり、
「紅犬ぅうあああああッ!」
なんなら、頭の中に追加の紅犬を呼び出しても良い。これで終わりだ。
--ズンッ………………!
頭の中を紅犬に食い破られ絶命した巨体が崩れ落ち、同時に長時間戦ってた俺も気が抜けて
「す、すげぇぇええええええええ!?」
「本当にレオ仕留めちゃったよあの人!」
「アレだろ!? あの人噂のパッパさんだろ!?」
「やべぇぇえ! あの一家全員やべぇぇええええええ!」
しかし、休憩もしてられないらしい。
五層はレオのせいで人が詰まる階層であり、つまり人が居るのだ。俺のソロ討伐も見物されていて、戦いが終わった今は俺に殺到しそうな気配も感じる。
しかし、俺は捕まりたくないし、話す事も特に無い。
「レオは…………」
考えて、色々と面倒になった俺はこのまま六層へ向かう事にした。
俺のインベントリにはドロップ品しか入ってない。端末が無い今は何が入ってるのか分からないが、とにかく利用量が少ない。
そこで、次の階層へ行くのに仕留めたレオを邪魔だから、丸ごとインベントリにしまう事にした。驚くほど純白の毛皮なので、娘と妻に何かプレゼントしてやれるかもしれない。
インベントリはスキルを経由する。優子の場合は炎が、真緒の場合は霧のような雪が、彩の場合は雷がバチバチと音を立ててアイテムをその場に呼び出す。
なら、俺は? 紅犬だとどんな挙動になる?
インベントリ機能を使う気が無かった俺は今まで知らなかったが、たった今知る事になった。
「………………そう言う仕様なのか」
俺がインベントリへの収納を願うと、レオを仕留める手伝いをしてくれた一匹目の紅犬が大口をあけてレオに食い付き、そのまま「ギャグ漫画か?」と言いたくなる様な挙動でソレを丸呑みにした。
ちなみにレオの頭の中に召喚した紅犬はとっくに送還してある。あんな場所に置きっぱなしは可哀想だから。
「犬の口……、か。まぁソレ固定では無いんだろうが」
とにかく、レオは退かした。今にも俺を囲みそうな野次馬を待つ事も無いので、俺はレオの亡骸に隠されていた階段を紅犬と共に降りた。
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