サナの町。
「…………ここに来て、まだファンタジー感を上げる余地が残ってた、だと?」
「おねーちゃん、それ誰の真似なの……?」
森を歩き、拓かれた空間に辿り着いた私達。
そこは、誰がどう見ても『町』であり、つまり人里だった。
森の中に拓かれた空間に立つ木造の壁で囲まれた町は、もう、なんと言うか、いやコレ言葉に困るな。
なんて言うの? まず一つだけ特徴をあげるとするなら、『人外が居る』かな。
「あれ、獣人……? リアルけもみみ?」
木造の壁の一部には門があり、その奥から見える町並みを歩く人々は、人間じゃなかった。
ファンタジー作品でありがちな犬耳やら猫耳ってタイプでは無いものの、それでも獣人と言えるだけの外見をした人外さん達だった。
「モンスターでは、無いのよね?」
ああそうか、町の住人がモンスターって可能性があるのか。圧力は感じないけど、だからって襲わる可能性がゼロって事にはならない。
ひとつ共通してるのは、獣の種類が犬や猫じゃなく、二層と三層に出没したカーバンクルがモデルだと分かることか。
断言出来るのは何故かって? おでこに赤い宝石が付いてるから。
「どうする? 入る?」
「…………入らない訳には、行かないわよねぇ」
「ねぇおねーちゃん、町の中に屋台があるよっ! なに売ってるのかなぁ〜?」
戦慄してる私とお母さん。町の中に屋台を見つけてはしゃぐニクスとナイト。
あまりにも子供らしいニクスの反応にちょっとビックリするが、聞いたら「え? ダンジョンの中にこんな町があったら、ギミックかも知れないから入らなきゃダメでしょ? 悩む必要あるの?」って言われた。
全くもってその通りでした。
確かに、五層から六層へ抜ける為の階段が町に有るかもだし、ギミックもあるかも知れない。なんならボスキャラも町に居るかも。可能性だけは沢山なのに、入らない理由が無い。ニクスの言う通りだ。
「というかおねーちゃん、もしかして魔法ってここで教わるんじゃないの?」
「ッッ!? そ、それだ!」
なんと言う事でしょう。ステータス的には私の方が知性も上なのに、今はニクスの方が頭良く見える。
「それに、レベルが上がらない謎も分かるのかしら?」
「ああ、それね」
現在、私達のレベルは横並びである。私もお母さんもニクスも、全員がレベル10になってる。私は追い付かれた形になるね。ナイトのレベルは今確認出来ないけど、多分同じだと思われる。
私達はここに来るまで、相応の戦いを乗り越えて来た。にも関わらず、10より上にレベルアップ出来ない問題が発生していた。
その答えも、ここに有るのだろうか?
「いや、と言うか、多分銀級の一層からここまでに、レベルキャップ解放の階層が無かっただけだと思うけどね」
銀級一層のモンスターが銅級五層のレオ程度って言うなら、その階層を超えてレベル11のキャップが解放されるのはおかしいと思うし。銅竜を超えてやっとレベル10を解放出来たのに、なんで銅竜の足元にも及ばない雑魚を超えてレベル11解放なのか。
そう考えれば、銅級五層レベルだった一層から換算して五層進み、銅級十層に相当するかも知れない銀級五層。ここならレベルキャップの解放があっても良いのかもと考える。
「まぁ、全部入ってみれば分かるか」
意を決して、足を進める。
まだ襲われる可能性が無くなってないので、武器を肩に担いで警戒も密に。
流石に、眼前に居る知的生命体と思わしき人々が、しかもカーバンクル系の獣人って事は魔法も得意そうな種族が一斉に襲って来た場合、いくら私でも苦戦は
最悪は普通に殺される可能性もある。相手の実力が未知なのだから。
「二人とも、帰還の用意はしといてね」
「わかった」
「了解よ」
ナイトは私の守護霊なので、私が帰還すればハッピーセット扱いで一緒に帰れる。
門番さえ居ない町並みに向かって歩きながら、アイズギアのコンタクトレンズが視界に写す画面を操作する。DMの帰還システムをいつでも使用出来る状態にして、やっと町に踏み入れた。
町の中に入ると、門から見えて居た通りに活気のある場所で、そして
……分類は木造建築だと思うけど、一部にレンガや石材、漆喰なんかを使ってるので正直自信はない。レンガ造りですとか言われても私はソレを否定出来る知識もないし。
ダンジョンの外なら速攻でアイズギア検索するんだけどね。最近は本当にちょっと疑問を感じたらアイズギアでサイレント検索してたから、癖になってる。
町に居る人の密度と活気を見れば、ここを『町』じゃなく『街』か『都市』とでも呼びたくなるけど、生憎と外から見た規模なら町でいいはず。
「…………ハーフティンバー建築と、コロンバージュ建築かしら? 随分とオシャレな町ね」
「ふぇ、何か知ってるの?」
建築について口にしたお母さんに聞くと、
この町だと素材そのままで使ってるけど、地上で本場の建築物だと綺麗に着色がなされて凄く綺麗な町並みなんだとか。
確かに色味は寂しいけど、他の要素については「オシャレな町」と言って良いくらいにまとまってる町だ。
まだ町の入口だけど、獣人さん達は皆が良い笑顔で、建築物も綺麗で道も整い、匂いも悪くない。
ファンタジーに登場するような時代背景だと、馬車に使われるお馬さんがところ構わず糞をしたり、アパートメントの上階から糞尿が投棄されたり、まぁ酷い衛生環境だったりするらしい。
けどこの町はそんな事も無く、この過酷なダンジョンの中では異質なくらいに穏やかな空気が漂ってる。
「おや、旅人かな? サナの町へようこそ」
この町をそうやって観察していると、私達の存在に気が付いた獣人さんが声を掛けて来た。ここは、サナの町と言うらしい。
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