紅い狂気。



「オラオラオラオラオラオラァァァアアアアッッ!」


 意識を閉ざす。奴の思考をせばめ続ける。


 銅竜最大の攻撃は言わずもがなブレス。だが口を開けば俺の紅犬召喚を口の中にぶち込まれる。


 そう認識してる銅竜は俺の前で不用意に口を開けない。


 これが他の能力だったなら話しは別だが、ことブレスに於いては具合が悪かった。


 何故なら、ブレス攻撃は俺の方を向いて口を開かないと成立しない攻撃だから。


 そうやって意識にデハフを掛けてやれば、コイツはもう肉弾戦しか方法が無い。


 もちろん銅竜程の巨体ならば肉弾戦で充分強い。だがこの場に於いてデカいのは銅竜だけじゃない。俺の紅犬だって充分にデカい。


 奴は飛び道具と言うアドバンテージを捨て、更にデカさも無二とは言え無くなってる。


 ならば何が勝負を決する? 決まってる。


「根性に決まってらぁッ……!」


 歯を食いしばって気炎を吹き出す。俺の家族が受けた苦しみはこんなもんじゃねぇ。


 過剰に力を込めた腕がメキメキと音を鳴らし、強化の結果肥大した筋肉で普段の倍は腕が太い。


 銅竜と正面から組み合う紅犬の背中を駆け抜け、ギチギチに握った拳を振り抜けば銅竜の横っ面をぶん殴れる。


 返しとばかりに振るわれる腕を、俺はあえて避けずに食らう。


 俺を殴る竜の前肢ぜんしに抱き着く形で張り付いて振り落とされないように爪を立てる。


「竜ってどんな味がするんだろうな? 娘が持ち帰った肉はまだ検閲中で食えてねぇんだよ……」


 俺の中に居る紅犬へと魔力をどんどん注ぎ込んで行く。魔力とは感情に呼応するエネルギー。俺が怒る程に、嘆く程に力が増す超常の力。


 もはや俺は、人なのか? 所謂いわゆる高ケモリティとか言われそうな姿にまで変身を果たし、肥大した吻部ふんぶで銅竜の前肢に噛み付いた。


「イギィィイァァァァァアアアイィイイイッッ!?」


 咬合力こうごうりょくだけで銅製の鱗を食い破って中身を噛み千切る。


 おらモンスター、お前らだって人間をこうやって食ってんだろ?


 だったら食われても文句言うんじゃねよッ……!


「グルルァァァァアアアアアアアッッッッッ!」


 自分の喉から人の物とは思えないたけびがほとばしり、口の周りを血で汚した俺は獣そのものにしか見えないだろう。


「あぁ悪くねぇなぁ! もっと竜肉食わせろよッ!」


 食い千切った肉を咀嚼して飲み込んだ俺の目と、銅竜の目が合った。 

 なんだよ。なんだその目は。




 なんで、お前が怯えてる?




 巫山戯ふざけんな。お前らが始めた事だろう?


 勝手に地球へ湧いて来て、好き放題振舞って、同じ事をされたら被害者ヅラか?


「ザケんじゃねぇぞクソトカゲがあッッ……!」


 巫山戯た顔しやがって。待ってろ今その肉とツラを引き裂いて中身を見てやる。


 どんな脳みそしてりゃ好き放題した後に被害者ヅラで怯えられんのか見極めてやる。


「グルゥゥアアァアァルルグゥゥウウウッッ!?」


「なにパニくってんだよ何様だテメェッ! 加害者は加害者らしくしてろよオルァッ!」


 肉を引き裂きながら前肢を渡る。俺を叩き落とそうとする銅竜の動きは全て巨大化してる紅犬が防いでくれる。


 獣の爪をひっかけ鱗を抉りながら登り、あの巫山戯た竜の顔面を目指す。


 パニックの末に俺を焼き滅ぼそうと口を開き、すかさず紅犬を放り込もうと俺が手をかざせば慌てて口を閉じるマヌケ。


 待ってろコノヤロウ。すぐにカチ割って中身見てやるからな。安心しろよその後はチタタㇷ゚にして無駄なく食ってやらぁ。


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