怖くても怖くない。
「邪魔すんなオラァァアアッ!」
世界最速、史上最高速度で銅級ダンジョンを走り抜ける私達は、五層のレオに斬り掛かる。
全身の駆動を『不動』で完璧に制御、そしてエッゼに浸透させた魔力を肥大化させながら『衝撃』と『刃化』を最高率で施す。
空を翔けるナイトから飛び降りながらエッゼを大上段に構え、そして石突きに仕込まれたクロウを展開して、落下の速度も乗せて刃を振り下ろす。
クロウは魔法陣を切断した斬撃を読み取ってそのまま飛ばす魔法である。
その飛ばす斬撃を武技で強化すれば、もちろんクロウの威力も上がる。
武技に蒼炎を込めれば当然威力も上がり、クロウで飛ばされる斬撃にも蒼炎が乗る。
そしてクロウの魔法陣にも蒼炎を込めれば、
同じ効果を付与しても意味が無い? まさかまさか。魔力は感情に呼応する。私の想いを吸った蒼炎と、私の殺意で燃える蒼炎が同じ物な訳が無い。
結果は加算ではなく乗算で現れ、私の目の前から赤い色をしたレオが消し飛んだ。
レオを殺した後にも落下し続ける私を、ナイトが背中に拾ってくれる。
そのままレオが死んだらしい場所の地面に生まれた階段目掛けて、ノンストップで突っ込んだ。
六層、七層、八層、九層。今までも少なくない時間を掛けて登ってきた階層を今、私は合計で二時間もかけずに降り切った。
武技を覚えた事実がデカいと言うよりは、ナイトが空を走れるようになったのが一番大きい。
森も荒野も、空を行けば面倒事を全部ショートカット出来たから。
そして。
「お父さんッ!」
銅級最後の扉を蹴破って侵入した。挑めるのはワンパーティだけとか制限が無くて良かった。
「グルガアァァァァアアアァアァアァアッ!」
そして、蹴破った扉の先で、血塗れのお父さんが居た。
「…………お父、さん」
-ブチッ、ブチブチブチッ……!
倒れ伏した銅竜の首を引き裂いて、ブチブチ音を立てながら引き千切ってるお父さんが、そこに居た。
血を浴びて、口角を上げた顔で高笑いするように咆哮する、赤い獣。
どれだけ、いったいお父さんは、どれだけ……………………--
「待ってお父さんめっちゃ臭い。どれだけお風呂入ってないの? 血の匂いも混ざって地獄みたいな香りなんだけど…………」
私はうぇってなった。ボス部屋の中が地獄のような臭いに満ちてる。
「いやそりゃ無いだろ優子。いや、来てくれたのは嬉しいけどな、本当に父へかける第一声それで良いのか?」
え、私いま「お父、さん」って言ってるから第一声それでしょ。
「その、やりすぎた自覚はあるしな? 今のお父さんがちょっと怖かったりとか……」
「ふぇ? お父さんを、怖がるの? 私が? どうして?」
ぶっちゃけお父さんの銅竜戦は全部配信で見てたし。なんなら今も視界の端に浮かべてるお父さんの配信画面に自分が映ってるし。
「途中までは心配だったけど、配信確認しながら駆け付けたから全部見てたよ。銅竜だけなんだけど」
「そうか、見てたか」
「あのねお父さん、怖くないよ。全然怖くない」
だって私は知ってるから。
「お父さんがお家のソファーでおへそ出して寝ちゃうお父さんだって、私は知ってるもん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます