そんなお父さんが良い。
インベントリからペットボトルをたくさん出して、お父さんをじゃぶじゃぶ洗う。
服もボロボロで殆ど裸みたいになってて、でも何故か紅いモフモフのムキムキになってるお父さんを綺麗にする。
周囲から漂う血の匂いは仕方ないけど、お父さんから漂う体臭はリセットする。
「もしゃもしゃ〜」
「あの、優子? くすぐったいんだが……」
「もう、今はフラムなの! まぁもう意味無い気がしてきたけど」
DMの気遣いで音声は上手く修正されてると思うけど、既に地上でやらかしてしまったから気にする必要も無くなってきた気がする。
ケモレベル4くらいになってるお父さんの毛並みを濡らしたら、シャンプーでわしゃわしゃして良く洗う。
まるで生きてた頃のナイトを洗ってるようで、少し楽しい。
「ねぇお父さん。なんでこんな事をしたの? 心配したんだよ?」
配信を見てて、後半は「あ、もう勝ったわコレ」って安心したけど、でも痛そうな怪我をしてるお父さんを想う気持ちには
「…………お父さんはな、ナイトになりたかったんだよ」
「わう?」
「……今、ナイトみたいに毛並みをシャンプーしてるよ? コレじゃダメなの? 久し振りにお風呂一緒に入る?」
「いやそうじゃなくてだな……」
もっこもこに泡立てたら、お水で泡を流してから蒼炎を焚く。しっかり乾かしてモフモフにしなければ。
気が付いたら私の中で待機するようになったナイトが、私の体から耳と尻尾を生やしながらも「呼んだ?」と返事をする中、お父さんがスキルを解除したのか引いていく毛並みを見守った。
ほぼ裸なので、完全に人に戻ると逆にセンシティブだと思ったのか、お父さんはケモレベル2〜3にもふもふを留めてイケメン獣耳お兄さんになった。
お父さん、若返ったなぁ……。レベルアップの若返り効果がシャレにならないぞ。
「お父さんはな、優子が……、フラムがどれだけ大変な思いをしたのか、それを理解もせずに『大変だったな』なんて軽い言葉を言いたくなかったんだ」
地面に座って、地面を見ながらそう呟くお父さんの背中は、やけに小さく見えて、でもそんなお父さんを愛しく思う私が居る。
「ナイトが命を削りながら守ってくれた娘の体験を、軽い言葉で労っちゃいけないと思ったんだよ」
鼻をすすりながら喋るお父さんに、釣られて私も鼻がツーンとする。
「もう、お父さんは馬鹿だなぁ」
「……馬鹿な親でごめんなぁ。頼りなくて、情けなくてっ」
震えて湿る声で吐き出すお父さんの背中を、私はバチンと叩いて静止する。
「違うよお父さん。もう、お父さんは何も分かってないなぁ」
「…………あぁ、だからこそ、少しでも知りたくてっ」
「違うってば。もうもう、しょうがないお父さんだなぁ」
私はお父さんの正面に回って、わからず屋のお父さんに抱き着いて教えてあげる。
「良いんだよ、お父さん。お父さんは、お家のソファーでおへそ出して寝てるお父さんで良いの」
私は日常に帰りたかった。私が望んだ日常は、血を流して戦うお父さんが居る日々じゃない。そうじゃなくて、
「私は、おへそ出して寝てるお父さん
お父さんが泣いてるから、釣られて私も泣いてしまう。もう、娘を泣かせるなんてダメなお父さんである。
「ナイトだって、そんなお父さんが大好きだから帰ってきたんだよ」
震える鼻声で苦笑しながら、ダメなお父さんのほっぺをぷにぷに叩く。ちゃんと分かってくれたかな。
「……ゆうこっ」
「もう、フラムだってば〜」
泣きながら、震えながら、笑いあったらきっと元通りだから。
「でも、お父さん頑張ったね。カッコよかったよ」
「……怖くなかったか? 結構酷い絵面だった自覚はあるんだが」
お父さんは面白い事を言うなぁ。
「変なお父さん。家族のために頑張るお父さんの、どこが怖いって言うの?」
そう言って笑えば、お父さんは痛いくらい抱き締めてくれた。
お父さんの跳ね上がったステータスで抱き締められて、本当に少し痛いし、息が苦しい。けど、少しも嫌じゃなかった。
だって、ナイトが繋いでくれた日常こそがこれなんだから。
「おへそ出して寝てるお父さんと一緒で、いつものかっこいいお父さんだったよ」
お父さんは歯を食いしばって泣いた。それから、少しずつ何が大変だったのか、苦しかったのかを教えてくれる。
ゴキブリやミミズの味が酷かったとか、血混じりの肉を齧る不快感とか、獲物から皮が上手く剥げなくて辛かったことや、眠ることすら簡単に出来なくて削れてく精神に震えた事とか、色々、色々教えてくれる。
私はその全部に共感出来て、お父さんが欲しかったものを少しだけ理解出来た。
けど、こんな物の為に命を掛けないで欲しい。なんのために私とナイトが帰ってきたのか分からないじゃないか。
そんな馬鹿なお父さんに罰として、レベル11の膂力を使ってギューって抱きしめる。お返しだ。
「お父さんは馬鹿だなぁ。知りたかったら、知れるまで何回だってお話ししたもん」
「それじゃぁ、足りなかったんだよ」
「足りなくて良いの。足りないところを支え合うのが家族でしょ」
お父さんが足りない言うなら、足りるまで私が語ろう。それで、私がダンジョンで落として来たものを、捨てて来た物をお父さんに支えて欲しい。
なのに、お父さんもダンジョンで捨てて来ちゃダメじゃないか。二人して獣になってどうするのか。
もう、本当に仕方ないお父さんだ。
だけど、
「えへへ、でもそんなお父さんも大好きだよ」
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