復活のナイト。



「わぉぉぉおおおん!」


 ナイトに顔をぺろぺろされる。蒼炎が薄く張り付くだけじゃなくて、ちゃんとナイトのヨダレで顔がベッタベタになる。


 普通は嫌がるところだけど、私はそんなベッタベタにされた事実が何より嬉しくて、涙がずっと止まらない。


 ナイトが帰ってきた。もふもふのナイトが帰ってきた。


「ご、ごめんなフラム。もっと早く試せば良かった…………」


 それはそう。バツの悪そうな顔をするお父さんだけど、それは本当にそう。


 もっと早く試すべきだった。ナイトが幽霊だから、何となく憑依する側であって憑依される側じゃないって意識があったせいで思い付かなかった。


 でも良い。もうなんでも良い。目の前にもふもふのナイトが居るから全部許す。なんでも許す。今なら手足の一本くらいならモンスターに潰されても許せる気がする。


「ナーくん、ナーくん……!」


「わんっ!」


 顔も首も手も、見えてるところ全部ぺろぺろされてベタベタになる。でもそれでいい。特に顔なんて、ナイトに舐められなくても涙でぐっしゃぐしゃだから今更なのだ。


「ほらナイト、俺にも撫でさせてくれ」


「ぉん! わんわんわん!」


 前からナイトを抱きしめる私の対面、ナイトの背後からわしゃわしゃと紫色の体を撫でるお父さん。昔はよくこうやってナイトと遊んでいた。


 私は上手く喋れないくらいにギャン泣きしてて横隔膜も痙攣してるけど、お父さんだって目尻に涙が溢れてる。


 今日は良い日だ。ナイト再誕祭って事で祝日にしよう。笹木さん経由で総理大臣に掛け合ってナイト再誕祭の祝日化を交渉しよう。逆らうとダンジョン系のトラブル、二度と協力しねぇぞって脅せば通らないかな?


「あっ、そうだ今って配信中だった! 皆さん、ナーくんが復活しましたぁ!」


 アイズギアを操作して視界に画面を表示して、閉じてたコメントタブを開く。


 そこにはズラっとおめでとうのコメントやナイトの可愛さを称えるコメントで埋まってた。何が凄いって同接が億を超えてること。


 冷静に考えて億超えの同接って意味不明だよね。世界規模の配信だから有り得ないとは言いきれないけどさ。


 そのコメントの中に、チラッと見た物が私をハッとさせる。


「おぉ、確かにこれって実質的な死者蘇生だよね、お父さん」


 少し落ち着いて、まともに喋れるようになった私は一つのコメントを拾った。それは「これって実質的な蘇生だよね? 凄くね?」ってコメント。


 ナイトはダンジョンで死に、スキルに覚醒して守護霊になった。そんなナイトが蒼炎で存在を強調し、そこに紅犬の憑依を加える事で肉体も手に入れた。


 確かに、これは死者蘇生である。


「いや、今更じゃないか? 死んだはずのナイトが霊体として存在を維持してるのもそうだし、薬を飲むだけで無くなったフラムの指が生えてきたりする世の中だぞ? 条件さえ整ったら蘇生くらい出来ても不思議じゃない」


 それもそうか。…………いや、そうか? なんか私たち、毒されてない?


「と言うか、俺の最終目標はそれだぞ? ダンジョンからナイトを蘇生させるアイテムなり魔法なりを手に入れて、スキルが無くてもナイトの日常を取り戻す為に色々と準備してるんだから」


 私は思わず、お父さんを見た。


 冒険者ギルドとか色々手を出すなって思ってたけど、まさかそんな事を考えてたなんて。


 …………思えば、私は復讐とかばっかり考えて、ナイトの身体を取り戻そうなんて考えがほとんど無かった。


 そう思うと、浅はか過ぎる自分が嫌になってきた。私はダメな奴だ。


「うぅぅ、復讐鬼みたいな奴でごめんね、ナーくん……」


「ゎう?」


 悲しくなった私は、ナイトの胸毛に埋もれて深呼吸をする。すーはーすーはー、あぁキマるぅ……。


 ネガティブになり過ぎない内に、こうやって幸せ成分を摂取しておかないとね。


 手軽に幸せを感じられる合法成分。効き目は抜群だ。


「にゃいとにほぃ…………」


「すぅー、はぁー……」


 気が付けばお父さんもナイトの背中で犬吸いをしてる。二人して何してるんだろうね? サナの人たちも不振な目で私達を見てるよ。往来のただ中だもんね。


「はぁ、堪能した。よし、じゃぁお母さんとクーちゃんにも知らせに行こうね!」


「そうだな。早く行かないと俺がぶっ飛ばされる」


 スキルありきとは言え、ナイトの復活である。可及的速やかに家族へ教えないと何が起こるか分からない。私だって真緒に「お姉ちゃん嫌い!」って言われるかもしれない。


 もし言われたらエッゼで自分の首、サクッと落とすかも。


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