幻想金属。
「おおチビちゃん、良い時に来たじゃねぇか。
コプトを大量に狩ってインベントリを埋めた私達は、そのまま何事も無く五層までやって来た。
久し振りに来たサナの町は相変わらず雰囲気で、長閑で牧歌的なのに規模はそこそこって言う丁度良さ。端的に言って居心地が良い。
真っ先に宿を取ったら、お母さんは道場に、真緒は魔法屋さんに、私とお父さんは鍛冶屋へと来ていた。
するとそこで、私の顔を見た鍛冶師のお姉さんが眩しい笑顔で迎えてくれた。
「えと、いまじらいと?」
「そう、
このお姉さんは自分の事を何故かジジイと言う。そう言えば宿の女将さんに教えて貰う時も、何故だか「鍛冶師の爺さん」って紹介されたんだよな。なんでだろうか?
「ごめんなさい、私そのいまじらいとって物を知らないんで教えて欲しいです」
「あいよぉ、任せておくんなぁ!」
聞くと、つまり創作にありがちなミスリルやアダマンタイト、オリハルコンなんて言う不思議なファンタジー金属の事を
正確に言うと
つまり
「その合金って、お姉さんが作るんですか?」
「バカいっちゃいけねぇよ! こんなジジイにそんな技術はありゃしねぇ!」
「四人分、あります?」
「作る物によらぁ! だがまぁ、お前さんに作ったエッゼ換算から七本まで行けるぜ!」
「お値段は」
「そうだな、エッゼくらいの得物なら…………」
うーんと考え込んだお姉さんが提示したお値段は、なんと一本四十万DD。
日本円に換算すると、四億と八千万だね。武器一つで約五億か。
「ちょっと良いか? それはやっぱり小さい武器なら値段も下がると考えて良いのか?」
「そりゃもちろん、
お父さんが質問して、お姉さんが答える。お父さんは希望武器が
「他の二人にも聞いて来るから、少し待って貰って良いですか? あ、すぐに聞いてくるんで
「心配しなくても売れねぇよ! こんな町で
ガッハッハと笑うお姉さんの前から辞して、お父さんと一緒に道場へと向かう。お母さんを優先したのは、私が何故か魔女さんに好かれて無いからだ。
気に入ってる真緒との時間を早々に邪魔すると、期限を損ねるかも知れない。ほんと何で私はあの人に嫌われてるんだろう?
「ここがサナの町なんだな。いい所だ」
「でしょー? 特にお父さんは実態付きのケモミミだから、町に馴染んでるね!」
「あぁ、優……、じゃなくてフラムの耳は少し透明だもんな。ナイトは外に出て来ないのか?」
「なんか最近、ナーくんってばずっと私の中に居るんだよね。なんでだろ?」
道場までの道すがら、お父さんと少し観光をする。コプトの串焼きなんかも買って二人でもぐもぐ。美味しい。
お父さんも私も、ずっと憑依しっぱなしで家ですらケモミミがデフォルトになりつつある。けどお父さんは自分のスキルが原因だけど、私の場合はナイトの気分次第なはずなのにこうなってる。
「ナーくん、ナーくん? たまには一緒にお散歩しよ?」
「わぅ?」
「ほらナイト、この串焼き食べないか? さっきは運んでくれてありがとな」
「わーぅ!」
すぽんっと私から出て来るナイトに、お父さんはコプトの串焼きを食べさせつつ紅犬を私に使って犬耳化する。
それを見たナイトは「なんで!? パパが裏切った!?」と表情で気持ちを語るが、すかさずナイトを抱っこしたお父さんが私とナイトを並べて「ほら、お揃いだ!」と笑う。
「…………………………ゎう」
「あ、ナイトが折れた」
お揃いって所でナイトが「仕方ないなぁ」ってツンデレした。
「…て言うかお父さん、ナイトには紅犬憑依出来ないの?」
「────そ、その発想は無かった!」
早速実験してみると、結果から言うと大成功した。
「な、ナーくんのもふもふが帰ってきたぁぁぁぁぁぁあ!」
蒼炎と紅犬が混ざった結果、紫色になってしまったナイト。だけど紅犬が憑依した事で一時的に肉体を取り戻したナイトの姿に、思わず私の涙腺が崩壊する。
「ナ゛ー゛く゛ん゛……!」
ぎゅって抱き締めると、蒼炎とは違う暖かさが感じられる。ふわふわでもふもふの毛並みに私の体が沈み込む。
これだ。これだよ。私があの日に失った温もりが、いま此処にある。
「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………!」
平和な町のただ中で、私は我慢出来ずにひたすら涙を流し続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます