携行食。
武器も防具も決まった。買うべきものは大体買った。
あとは、ダンジョンアタックに向けて必要な小物をちょいちょいと買えば大丈夫だ。
「銀級用の物資は笹木さんが用意してくれるから、それが届くまで銅級に必要な物は自分達で買わないとね」
「こう言う道具選びも、しっかり覚えないと優ちゃんに迷惑かけちゃうわね」
「迷惑だなんて少しも思わないけど、でも覚えて自分で用意出来る方が良いとは思うよ。今回の事が終わったら、お母さんだって一人でアタックするかも知れないし」
「まおは? ねぇまおは?」
「マーちゃんは、もっと大きくなるまでは私と一緒に潜ろうねぇ〜。そもそも、私達の年齢でライセンスが持ててるのって特例だからね。その特例の骨子たる私と一緒に居なきゃダメだよマーちゃん」
「あーい! まお、おねーちゃんといっしょ!」
妹をむぎゅっと抱き締めてなでなでする。
私と真緒のライセンスは、ひとえに私が持ってる武力に対する特例だ。だから真緒を単独でダンジョンに行かせるのは宜しくない。
この特例ライセンスは、銀級のヒートゲージを抑えられる人材に対する補償でもあるのだ。なら余計な事はするべきじゃない。
「と言うわけで、ひとまず食料だね。当面は日帰りで予定を組むけど、二人が慣れてきたらダンジョン泊は当たり前にやるから」
それまではブロック栄養食で構わない。日帰りの内は家に帰って美味しい食事を摂れるんだから。
「ダンジョン泊が始まったら、もう少し凝った食べ物が良いね。少しでもストレスを抑えられる物を取り入れた方が良いと思う。じゃないと私の三ヶ月間みたいになっちゃうし」
明らかに命の危険がある場所で、ひっきりなしにモンスターが襲って来て、例え「空が見える階層」だったとしてもダンジョン独特の閉鎖感を感じる閉鎖空間で、大した食事も無くただ戦い続ける。
うん、凄まじいストレスだよ。人間性を喪失しても仕方ないくらいの。
「ダンジョンでは継戦能力が求められるってずっっっっと言ってるけど、それはつまり精神性もなんだよ。正常な判断も出来ないくらいにメンタルが疲弊したら戦えないもん」
「…………そのために、美味しい食べ物なの?」
「そうそう。ダンジョン経験者の私から言うと、匂いとかはほとんど気にしなくて大丈夫。だってダンジョンのモンスターって、食事の匂いなんて関係なく人間を見つけて襲って来るからね」
奴らの索敵力は異常だ。
ダンジョンそのものから人間の居場所を聞いてるんじゃ無いかってくらいに的確に集まって来る。
「もちろん、だからって匂いの強い食べ物をあえて持ち込む意味も無いんだけどさ。カレーとか豚骨ラーメンとか、そんなの持ち込んだら流石に遭遇数が倍化するかも知れない。でも、そこまでじゃ無いならあんまり気にしなくて大丈夫。無臭にしてたって奴らは嗅ぎ付けてくるから、神経質になるだけ無駄なんだよ」
チラッと見れば、未だについて来てる人達がメモとったりしてた。
もしかして、私が講習会とか開いたら需要あるかな?
とは言え、食べ物を選ぶ基準は匂いとかを気にするよりも満足度で選ぶ方が良い。
私は当時、ダンジョンの中でマトモな食べ物なんて口に出来て無かったけど、休む時に遭遇率を減らそうと色々した経験くらいはある。
その経験を元に考えた結果、人間が人間として生きている最低限の匂いで既にアウトだから、気にするだけ無駄って言うのが結論だ。
「対策は無意味なのかしら?」
「無意味とまでは言わないよ。確実に効果はあると思う。でも正直誤差かな? 休憩中にモンスターが10匹来るところ、対策アイテムで8匹になったら確かに助かるけど、そのせいでストレス抱えたら意味無いじゃん? って言う感じかな」
私も
流石に私一人の経験談なんて、当てにし過ぎると後悔するもん。
そんな情報の中で、ダンジョンアタッカーさんがアタッカー向けの商品をプレゼンしたりする動画もあった。
この手の動画はダンジョンアタッカーも本気でダメ出しをするので、信憑性は結構高いのが特徴。
何故なら案件が来るようなアタッカーは、つまり企業が宣伝力を当てにするくらいには強くて、自分で稼げるアタッカーだ。だから企業に媚びる必要が無い。
その上で、アタッカー向けアイテムは当たり前だけどダンジョンで使うアイテムだ。そしてダンジョン内で不良品なんて掴まされてたら命に直結する。
不良品とまで言わずとも、誇大広告品でも似た様な物だ。
それが分かってるから、ダンジョンアタッカーは案件を受けてギャラが発生してても、ダメなものはハッキリ駄目という。
だってダメな物を良いと言って、それを信じた誰かがダンジョンで死ねば、その映像はダンジョンムービーで地上に流れてるのだ。
そんな命の責任なんて取れないし、
ちなみに、企業の言うことに逆らえない程度のアタッカーだと、今度は逆に宣伝力が無いのでそっちも意味が無い感じだ。
だからダンジョンアタッカーがダンジョン内でレビューするアイテムは、その評価の信憑性が高い。
さて、そんな動画で集めた『匂い消し』や『消音アイテム』など、モンスターに見つかる危険性を減らすタイプのアイテムの実績は、実際ちゃんと効果があった。
一割から二割も効果が見込めたなら、それは『誤差』と切って捨てるには無理がある。
けど、その上で私はそれを『誤差』だと切って捨てる。だって実際に誤差だから。
「まぁ、でも、美味しい食べ物よりも遭遇数一割減の方が助かるし嬉しいって言うならやるべきだと思う。要はよりストレスが無い方を選ぶべきって話だね。そも、匂いそこそこだけど美味しいレトルトとかを持ち込んで、消臭系のアイテムを使っても良いんだし」
「…………なるほどねぇ。自分のダンジョンアタックを、自分に相応しいバランスにメイクするのは自分って事ね?」
「そういう事。深く潜るならダンジョン泊は必須だしさ、やっぱりストレスとかメンタル面での継戦能力も大事なんだよ。突然パーティメンバーが
「確かに、あの時の優ちゃんは…………」
結果としてはアレで攻略出来た訳だけどさ、安全性は皆無だった。実際にナイトの見えない補助が無かったら三桁単位で死んでたんだし。
「とは言っても、さっきも言った通りに
棚からブロック栄養食のカロリーメイクと、登山家が愛用してる携行食スティッカーズ。これをどっちも箱買いすべくダンボールごと取る。
「カロリーメイクは言うまでも無いけど、こっちのスティッカーズも良い物だからオススメだよ」
「そうなの? 良く見るけど、食べたこと無いわねぇ」
「まおはあるよっ! なかにピーナッツはいってるんだよね!」
「そうそう。これはピーナッツヌガーってお菓子をチョコレートコーティングしてるカロリーバーの一種で、栄養価が凄い高いの」
この辺もちゃんと調べた。
スティッカーズはピーナッツを主原料にしてるカロリーバーだ。
ピーナッツは100g辺り500カロリーオーバーと、かなり高カロリーな食べ物であり、栄養価もかなり高い。
それを更に砂糖とチョコでコーティングしてるのがスティッカーズなので、その一本に詰め込まれたカロリーと栄養素はもはやちょっとしたディナーだ。
「移動しながら食べれる高カロリー栄養食って点では多分、他の追随を許さないんじゃないかな?」
他にも様々な商品が並ぶ一角で、私はそう口にした。多分今日買うの食料はこの二種だろうと。
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