蒼乃式ブートキャンプ。



「さて、じゃぁお母さん達は何をすればいいのかしら?」


「お母さんちょっと開き直って来たよね」


「フラムちゃん、これは吹っ切れたって言うのよ」


 みんなで仲良くご飯を食べて、ナイトをモフモフしたりで休憩した私達。


 しかし、穏やかな時間はいつしか終わるもの。お母さんはそんな世界の真理にいち早く気付き、そして対抗するためのメンタルを手に入れてた。


「まぁこっからは、そんなに難しい事ないよ。ただずっと修羅場に居てもらうだけ」


「………………そうなのね」


 お母さんはもう何も言うまいって感じだ。ニクスも良い感じに諦めて、ナイトをモフってる。


「具体的に言うとね、次リポップしたレオを二人に倒してもらって、そのまま六層に行くよ」


「あら、六層に入って良いの?」


「うん。二人でレオ倒せるなら大丈夫でしょ。て言うか、楽勝になってもらっちゃ困るんだ」


 楽に勝てるって事は、経験値が薄く少ないって事だから。そのレベルまでここでレベリングしちゃうと、この先の階層でレベリング効率が著しく悪くなる。


「あとね、これはあくまで予想なんだけど……」


 私を除く、世の中の最高レベルについて疑問を持った事がある。


 なんでレベル4で横並びなんだろう。誰か一人くらい突出しても不思議は無いのに。


「もしかしたら、階層クリアでレベルキャップが発生してるんじゃ無いかな」


 私がそう言えば、近くで聞いてたアタッカーが変な声を出す。


「普通のアタッカーさん達は五層をクリア出来てない。だからレベル5になる資格を得てない…………。って考えるとシックリくるなって」


「……なるほどね。先に行かないとどっちにしろ、これ以上のレベリングは出来ないと」


「そゆこと」


 逆に言うと、今世間でレベリングをミスった人も、五層のレベルキャップを利用して濃い経験値を溜めまくってリカバリーも出来ると思う。そんな事を配信に向けて喋る。


「もちろん自己責任ですけど、重り背負ったり、武器縛りとか、色々な方法で自分を追い込んでモンスターと戦ってみると良いかもですね。五層超えないとレベル5になれないなら、それを利用して今まで楽して上げてたレベルの調整が出来るかもです」


 その結果ミスって死んでも責任は取れないけどね。


「さて、そんな訳でレオ狩りに行くよ。その後は六層から先に進んで、二人にはずっと紙一重の戦闘を続けてもらう。銅竜までずっとそう。楽な戦いなんて一個もさせない」


 こっから先は、お母さんとニクスが強くなる度に、更に強い敵を用意して戦わせる。二人がギリギリ勝てないくらいの奴を用意して、ボコボコにされて倒れるまで戦わせて、その後私が敵を倒す。


 そうやって強くなって勝てそうになったら、またもっと強い奴を用意する。階層を進んで強いやつの所に行く。


 それを、銅竜の元までひたすら続ける。


「この先はどこかでポーションもドロップするはずだから、とことん無茶出来るよ」


 銀級で無茶をしなくて良いように、今のうちに安全な無茶をする。


「じゃぁ、れっつごー☆」


 ◇


 あの時の記憶をなぞるように、獣だった頃の私が殺したモンスターが次々と現れる。


 五層を超えて早、三日。


 お母さんもニクスもとっくに限界を迎えてるけど、まだまだ無茶をして貰う。


 今行ってるレベリングの内容は、取り敢えず私が私のペースでダンジョンを進み、ナイトがお母さんとニクスを無理やり私のペースでキャリーして、私がモンスターに突っ込んで程々に暴れて、お母さんとニクスをモンスターにボコらせる。


 もちろんお母さんもニクスも必死に、全力で敵を倒そうとする。惰性でやられたら経験値にならない。


 全てを絞り尽くして、あらゆる戦略を駆使し、その上でボロ雑巾の様にされる戦闘。


 現在八層の中間くらい。二人ともレベル6後半くらいまで上がってる。もう少しでレベル7に到達出来るはず。私が銅竜に挑んだ時よりはマシな条件だ。


 そして、九層到着。


「お、宝箱だ」


 ぼろっっっっっぼろになってる二人を引き連れ、九層の階段付近にぽつんと有る大きな宝箱を見付けて近寄る。


 取り敢えず蹴飛ばした。


「ミミックじゃないみたいだね。お母さんかニクス、どっちかこれ開ける?」


「……………………」


「………………ん」


 精魂尽き果ててる二人の内、ニクスが辛うじて返事をした。意識も朦朧としてるかもしれない。


「はいどうぞ」


 見付けた宝箱の前をニクスに譲った。ニクスは簡単な動きで宝箱を開けて、そして中には縮尺がバグってる大きな剣があった。


「大剣……?」


 それは所謂いわゆる、グレートソードと呼ばれる刀剣だった。


 グレートソード。ヨーロッパ系の刀剣に於いて特に大型の物をそう呼び、しかし実際にはグレートソードなる分類は存在せず、要するにヨーロッパ系のデッケェ剣はなんとなくグレートソードと呼ぶ風潮があるってだけなのだ。


「…………ニクス、使う?」


「………………おそろ、い」


 ああ、うん。お揃いの武器が良いから要らないって事かな。


「……お母さんは?」


 聞くと、お母さんは声を出さずに首を横に振った。ふむ、九層ドロップの武器なんだけども、二人とも要らないらしい。


「…………じゃぁ、ナイト要る?」


「わぅん!? わんわんわんわんっ!」


「えっ、あ、要るの!?」


 要らないだろうと思ってナイトに聞いて見ると、「いいの!? じゃぁ欲しい!」って感じに凄い乗り気だった。え、どうやって使うの…………。


 試しにお口へ咥えさせてみると、嬉しそうに首を振ってブンブンとグレートソードを振り回し始めた。凄い楽しそうである。


「ああ、うん。使えるならなんでも良いや」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る