ダンジョンでお昼。



 朝からダンジョンアタックして、現在お昼。


 アレから三頭ほどのサンダーレオを頭カチ割って殺し、ナイトと二人がかりで毛皮を剥いで家族を待つこと四時間くらい。


「あ、先に来たのはお母さんなんだね。ニクスもそろそろっぽいし、じゃぁお昼にしよっか?」


「わぅん!」


「…………お母さん、ちょっと休んで良いかしら?」


 レベル的に危険は少なかったといっても、まだレベル4に成り立ての新人さんである。一気に最短を駆け抜けて五層までって言うのは、なかなかハードだったらしい。


「うん、良いよ。ニクスが到着するまでお母さんは休んでて。お昼の準備も私がやるから」


「フラムちゃん、ありがとうね」


「ううん、二人はこの後も引き続き地獄を見るから、お昼の準備くらいは私がやるよ。だから気にしないで」


「………………………………うん、そうね。うん」


 お母さんの目から光が消えた気がするけど、気にしない。


 銀級で本当に命に関わる危険を経験するくらいなら、今のうちに命に関わらない危険を山ほど経験しておくべきだ。それで死なずに済むならば、肩までどっぷり地獄に浸かれよホトトギス。それが私流。


 お母さんと合流した私は、五層の入口階段付近まで戻ってお昼の準備だ。


 インベントリからキャンプガジェットを取り出す。ペットボトルからクッカーにお水を注ぎ、このままガストーチやコンロに掛けて良いのだけど、私の蒼炎の方が早いから蒼炎で熱する。


 両手に鍋型のクッカーを一つずつもって、その鍋の底を蒼炎で炙る。


「…………面白い料理風景よねぇ」


「ホントにね。蒼い炎でお料理なんて、ファンタジーだよね」


「お母さんの紫電でも似たようなこと出来るのかしら?」


「出来るんじゃない? クッカーに通電すれば電気抵抗で熱くらい出るでしょ」


 その場合、普通にコンロを使うのとどっちが効率的かは分からないけど。


 お湯が沸いたので、片方のクッカーにレトルトパックを投入し、もう一つのクッカーで沸いたお湯は別のパックに注ぐ。


 お湯を注いだパックにはアルファ米って言う乾燥したお米が入ってて、お湯を注ぐとホカホカのご飯になるアイテムだ。非常食にも登山食にも使える便利な機能お米である。


「…………随分、慣れてるわね?」


「んふふ〜。…………実はね、練習したんだぁ。二人にカッコイイとこ見せたくてさ」


 さらっとキャンプ出来ちゃう人ってカッコイイよね。なので、実はこっそり家で練習してた。


「……そんな事しなくても、フラムちゃんはもう最高にカッコイイ愛娘よ?」


「足りないもんっ。私の家族は世界一だから、私も世界一の娘になるのっ」


「おねーちゃんはもう、せかいでいちばんすてきで、かっこいいよ?」


「あ、クーちゃん」


 そろそろ食事の準備が終わるって所で、上階から真緒が、ニクスが現れた。


 上から降りて来てる筈なのにが無い箱の中からひょこっと現れ、だしぬけに私を褒める。うふふ、ニクスも世界一素敵で可愛い妹だぞっ!!!


「おひる?」


「そうお昼。カレーライス…………、と見せかけてプレミアムビーフシチューですっ! ハンバーグつき!」


「わぁーい!」


「フラムちゃん、匂いに釣られてレオが来たら--……」


「来たら殺すから大丈夫。て言うか殺したばっかだし、あと30分はリポップしないから安全だよ」


「わぅん」


 レオの襲来を心配してるお母さんに安全を伝える。ダンジョンには安全な場所なんて一つも無い。無いけど、無かったら作りゃええねん。


 ボスをぶっ殺して無理やり一時間のセーフティエリアを確保すれば、お昼くらいはゆっくり食べれる。


「ほい、クーちゃんとお母さんの分。一人で四人前くらい用意したから、いっぱい食べてね」


 ナイトと私の分も用意しつつ、二人に山盛りのご飯とシチューとハンバーグを盛り付けて渡す。


「……そうね。お母さんもクーちゃんも、レベルアップして沢山食べれる様になったものね」


「たくさんたべるよっ!」


 今のところ世界で唯一、五層のレオが消えるダンジョン、代々木。


 たった一時間だけ観光に最適なエリアになるこのエリアは今、ボスがちょいちょい消される為に採取して稼ごうとするアタッカーには人気のスポットと化している。


 なんでも、わざわざ県外のアタッカーさんまで来てるそうだ。なんか近くで休憩してるアタッカーさん達が教えてくれた。


 このエリアで採取出来るのは、ダンジョン由来の不思議なキノコや、薬草や、意味不明な性質を持った木材やら、色々だ。


 大多数はごく普通の品なんだけど、頑張って探すと「見るからに普通じゃない」物が落ちてたりして、それを持ち帰るとまぁ売れる。


 特にキノコは人気らしい。「ひたすら美味い」って言う、ダンジョンでだけ取れる奇跡のキノコとして高額で売れるそうだ。


 この手の、「採取しないと手に入らない」タイプのアイテムは私のインベントリには入ってない。モンスターばっかり倒してたから、モンスター素材かモンスタードロップしか、インベントリに入ってないのだ。


「…………銀級が落ち着いたら、もっとちゃんとダンジョンで採取とか探検とかしても良いかもね」


「いっしょにいっていーい?」


「もちろん! いっしょに探検しようね?」


「うんっ♪︎」


 ビーフシチュー・オン・ザ・ライスのハンバーグ乗せをぱくぱく楽しむニクスをなでなでしながら和む。妹可愛い。


 ダンジョンは復讐対象だけど、それはそれとして遊べるなら遊ぶのだ。現代人はダブルスタンダードなのである。


「さて、食べ終わったらレベリングだからね」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る