被害の聞き取り。
ジャパリなパークでカバンのあの子が着てた様な制服の事務員さんが対応してくれて、私たちは事務所っぽい建物の中に入った。
事務員さんはパーマの効いた髪が特徴の明るいオバチャンで、私たちは勧められるままにソファーへ座って出されたお茶を飲む。
「こんなに早く来て頂けるなんて、ありがとうございますねぇ〜!」
「いえいえ、私もスキル持ちのライオンさんがとても気になったので」
明るく対応してもらってるが、依頼自体は既に被害者も出てるくらいには重い物だ。
本来なら警察が動く案件なんだろうけど、この手の猛獣被害は警察が直接動く形よりも猟友会などを動かすのがベターであり、しかし猟友会と警察の関係性は土地ごとに差がある。
要請してから直ぐに動いてくれる場所もあれば、警察との関係が悪くて重い腰がタングステン並みの比重だったりする猟友会もある。猟友会は土地ごとに指揮系統が違ったりするので動き方がマチマチだ。
しかも今回は対象のライオンがスキル持ちなので、必然的にステータスないし魔力を持った生物である事が確定してる。だから銃を所有する資格を持ってるだけの一般人である猟友会員は戦力にならない。
と言うか戦力になれる弾薬を所有してない。魔力を含有した弾頭が無いと魔力持ちには通用しない。
そうした色々が関係した結果、私たちの所に依頼が舞い込んだって言う経緯だ。
「では、お話をお聞きしても?」
「はいはい、もちろんですよぉ」
オバチャンはイケメンなお父さんに促されると頬を染めながら話してくれた。やっぱり顔が良いとやり取りがスムーズだなぁ。
「最初は、ただ周辺で起きた事故なんだと思ったんですけどねぇ」
福島のサファリパークは立地的に自然が豊かな場所にある。福島市から大きな道路で山の方へと進むとある。
オバチャンが言うには、そう言った緑が深い場所で起きた不幸な事故だと思われてたのが今回の事件である。
まぁ犠牲者と言うが、まだギリギリ
個人的には、人死が出るとライオンの殺処分指示とか出るかも知れないから困る。被害者には頑張って生きて欲しい。
普通なら現段階でも充分に殺処分が決まりそうなものだけど、今回はライオンがスキル持ちかも知れないって情報が大きな意味を持ち過ぎてまだ殺処分は間逃れてる。
今のところ、人間以外がスキルを獲得した例はナイトの一件だけであり、そのナイトは肉体すら残ってない死霊である。貴重なサンプルではあるけど、何かしらを調べようにも霊体にメスを入れる訳にもいかない。
まぁナイトに肉体があったとしても、ナイトにメスを入れると豪語する研究者は蒼炎で焼き殺すけども。
さて、そんな中で現れた白いライオンは、生きたままって但し書きを付けるならば現状唯一の人間以外に現れた覚醒者だ。そう簡単には殺せないだけの希少性がある。
本当なら国が買い取りたいたいくらいなんだろうけど、どんなスキルを持ってるかも分からない危険物を安全にやり込めるには今の国では準備が足りない。
単純に、ライオンが念動力を持ってるだけで管理が困難を極めるのは明らかだ。だって檻に鍵をかけても念動力で解錠が出来ちゃうから。そんなライオンをサンプルとして置いておける研究所なんて、この国のどこにあるのか。
そんな訳で、ライオンの所有権については問題無く浅田家が確保出来る事になってる。
お父さんがイケメンフェイスでオバチャンから聞き出してくれた事件の全容は、まずサファリパーク付近にある山の方で重篤な怪我人が出た事に始まり、その後も三人ほどが被害にあってる。
いずれも殺されては無いけど、かなり重い怪我を負ってる。その中の最後に襲われた被害者が意識を残してて、事の全容を語った事でライオンの存在が発覚した。
それまではデカいイノシシにでも襲われたのかって推測だったのだけど、肉食性の猛獣が犯人だったと発覚してからは大騒ぎになった。私は全然知らなかったけども。
「ふむ……、ライオンの方も殺しは避けてる感じなのか?」
「どうだろうね。見付かってる被害者達が生きてるだけで、殺された人も居るのかもしれないし。その場合は遺体が見つかってないってだけかも?」
「…………あぁ、そうか。食われて見付からないって事も有り得るのか」
まぁ、その辺は警察が行方不明者の照会とかしてくれるんだろうし、私たちの仕事では無い。骨まで食い尽くす訳でも無いだろうし、もし遺体の欠片でも見付かったら誰かが特定してくれるでしょ。
普通の子供が遺体とか見たら泣き喚くんだろうけど、私はもうダンジョンで精神をぐしゃぐしゃにされてるし、なんなら自分でも殺してる。マスゴミの事ね。
直接死に目は見てないけど、火傷が原因で死んでる奴は何人か居るから、ほぼ直接の殺人だ。
…………今更だけど、私ってこの法治国家で良く裁かれずに生活してるよね。権力が味方ってえげつないなぁ。
「さて、じゃぁとりあえず現場を見に行くか」
「そうだね。百聞は一見にしかずだし」
というわけで、私たちは事務所っぽい場所での聞き取りを終えて外に出る。この案件に何日も使う予定無いし、早いところ解決したい。
学校休んでも問題無いくらいの知能は得てるけど、知能と知識は別物だし、経験も同じだ。私が学校で学べる事はまだまだ有る。優先度は高くないけど、好んで休みたい訳でも無い。
「来い、紅犬」
「ナーくん、おいで」
二人とも相棒を呼んで、その背に跨る。お父さんは騎乗用だけじゃなくもう一匹呼び出し、その子にライオンの匂いを追わせる気らしい。
「匂いの元とか無くても追える?」
「人間と獣の匂いは明確に違うし、人を襲ってるなら血の匂いもするだろうさ。現場に近付けば否応にも分かるはずだ」
「なるほどね」
さぁ、獅子狩りの始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます