対象をロスト。



 森の捜索。と言っても大した事はしない。いや、大した事はするけど私にとっては片手間と言うか。


 まぁ要するに蒼炎である。困ったら蒼炎使っとけば良いのだ。私はダンジョンに落ちてから今日まで、コレで詰まった事なんて一度もない。蒼炎は正義なのである。


 山とも森とも呼べるか呼べないか微妙な感じに生い茂る緑に、私は蒼炎の絨毯を薄く伸ばして行く。


 私の蒼炎は私が燃やしたい物だけを燃やしてくれる。その火力さえも自由自在の汎用スキルである。


 本来なら汎用なんてとても呼べないだろう『炎』を生み出すスキルなのに、魔力吸収と精密操作が可能になっただけで汎用性が爆上がりしちゃう神スキル。


「どうだ?」


「ん〜、まだ見付からない」


 お父さんも紅犬を探索用に森へ放ってるけど、お互いにまだ反応は無し。


 私の蒼炎は魔力持ちに対して反応する様にしてるし、お父さんの紅犬はもっと直接的に探索している。もう十分程も作業してるが、まだ相手は見付からない。


「ふむぅ、イノシシとかは結構居るんだけどねぇ」


「こっちも似たような感じだな。…………優子に少しバフを足したら効率上がるか?」


「分かんない。やってみる?」


 お父さんが強化用の紅犬を私に使う。干渉してしまうのか、ナイトが一度私の中から出て青白い犬耳が消え、それから紅犬が私の中に入って来て赤い犬耳が生える。わんわん。


「おおぉ、これがお父さんのバフ……!」


「おぉ優子、なんだか赤い犬耳も可愛いぞ。写真撮って良いか? SNSにアップしちゃおうコレ」


「ごめんお父さん真面目にやって」


 家に帰ったらいくらでも良いから。あとペイッターに呟くより先にお母さん達へ送らないと怒られると思うよ。


「……………………あっ、それっぽいの見付けた。魔力持ちの四足獣!」


 お父さんから貰ったバフによって魔力関係の能力が限界突破した私は、そのステータスの暴力を使って蒼炎の絨毯を更に押し広げた。


 すると、今までは「無いから吸えない」物しか無かったのに、蒼炎が「コイツから吸えるけど吸って良い?」とリアクションが帰って来る。


 魔力はダンジョンに潜った者か、ダンジョン由来の物にしか宿らない。そしてこの場にはダンジョンアタッカーなんて私達以外には居ないだろう。


 それと反応が四足歩行だったので恐らくは当確。くだんのライオンさんだろう。


「蒼炎に驚いて逃げようとしてる」


「援護する。俺の紅犬を現場まで導けるか?」


「任せて〜!」


 鬱蒼とした木々の中を蒼炎が走り回る。目標を見付けたから薄く広い絨毯は止めて、最高率を探す木の根っこみたいに蒼炎を伸ばして行く。


 その一部をお父さんの紅犬ちゃん達に回して道案内も同時に処理。ステータスアップして無い脳みそでコレをやろうとしたら多分パンクするくらいには大変な作業だけど、こちとら世界最高のダンジョンアタッカーですから。


「よっし捕捉した。もう逃がさんぞ」


「追跡任せて良い? 私達も中に入って追い掛けよ?」


「ああ任せ────」


 ふと、お父さんの言葉が途切れる。


 どうしたのか問おうとするも、私の方にも恐らくは同じ物だろうって反応が返ってきた。


「…………消えた?」


「消えた、よな?」


 そう、反応が消えたのだ。


 さっきまで反応があった場所にもう一度、蒼炎の絨毯を広げて確認してみる。お父さんも多分、紅犬ちゃん達が周辺をぐるぐると探してるはず。


「こっちは完全に魔力の反応ロストしたけど、そっちは?」


「…………ん〜、魔力反応は同じくロストだな。紅犬達の反応を読むと、対象は洞窟のような場所に入ったらしい?」


 …………どう言う事だろう? ただの洞窟なら、私の蒼炎でも探れるはず。と言うか洞窟っぽい地形なんて私の方じゃ確認出来ない。


「蒼炎を擬似的な触覚として探ってる優子には分からなくて、視覚と嗅覚、聴覚で探ってる紅犬でだけ確認出来る洞窟……?」


 多分、お父さんと私は同じ想像をしてるはず。


「確かめに行こう」


「そうだな。遠隔で悩んでも仕方無い」


 私はナイトに、お父さんは紅犬ちゃんに乗って森の中に入る。対象をロストした場所に向かって。


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