隠し要素。



「これ、ダンジョンじゃないの……?」


 問題のエリアまでやって来た私達。そこは確かに洞窟であり、だけど森の中に自然と出来た物だとは思えないが滲み出る岩山の洞穴。


 穴の中は不自然に暗く、陽の光が確実に届いてるだろう距離でも真っ暗になってる。


 蒼炎を飛ばしてみても、途中で炎が消されてスキルをキャンセルされた。洞窟の外側を蒼炎で囲って見ても同じで、どうやらスキルを接触させられない作りらしい。


 既存の鳥籠型ダンジョンでも同じなのか、私は知らない。だからその場でサクッとネット検索すると、海外で試した覚醒者が居て情報を得られた。


 地上に露出しているダンジョンの構造物はどうやら、スキルによる破壊を受け付けない様になってるらしい。スキルキャンセルはその一環だろう。


 私達は試した事ないけど、たぶん魔法も同じ判定なんだと思う。


 なぜ私がこの不思議な洞窟をダンジョンだと判断したかと言えば、それは『勘』としか言えない。


 アタッカー特有の感覚か、それとも覚醒者だからなのか、踏破者だからか、理由はやっぱり分からないけど、私はこの洞窟を目にした時点で「あ、これダンジョンだ」と感じた。


 その感覚はスキルに目覚めた時と似てる。知りもしないスキルを覚醒した時点である程度は使えてしまうあの感覚。


 お父さんも同じ感覚を得たらしく、私達の間には「ダンジョンじゃ無いかも」なんて考えは無かった。その確信がある。


「鳥籠型じゃない、ダンジョン?」


「ゲーム的に言うなら、シークレットダンジョンって事かな?」


「…………ダンジョンを作ったのが誰かは知らないが、どこもまでも遊んでやがるな。気に食わん」


 まぁ、うん。隠し要素とか作る側はウッキウキなんだろうけど、命を賭け皿に乗せる私達からするとフザケルナって話である。


「それで、どうする? 対象がダンジョンの中に逃げ込んだって言うなら、依頼達成のためには最悪ダンジョンの踏破が必要になるよね?」


「流石に、このまま突撃する訳にはいかんよな。既存のダンジョンと同じ様に『帰還』が使えるのかも分からないし、難易度も不明。今ここで突撃する選択肢は絶対に無い」


 隠し要素だかなんだか知らないけど、仮にこのダンジョンが一階層でもう銀級の最奥レベルの難易度だったりしたら、私達は逃げる間もなく死ぬ危険すらある。


 お父さんが言う通り、DMの帰還システムが使える確信も無いし、今からダンジョンアタックするなんて考えは無自覚な自殺と変わらない。本当に死ぬ期限がある。


「警察とか、関係者に連絡して回った方が良さそうだね」


「その辺は俺がやっておこう。難易度が分からないダンジョンに潜るなんて俺は反対だが、もし潜るとしたら家族全員で最大戦力をちゃんと用意してからだ」


 そう言うお父さんの顔には、「死ぬ時は全員で」と書いてある。やっぱり私の事がトラウマになってるんだと思う。


 それでも、『死なないで欲しい』と同じくらい『一緒に死んでくれるのが嬉しい』と思う私も、やっぱりあの日に壊れてるんだ。


 ちょっとアンニュイな気持ちになると、それを察したナイトに顔をぺろぺろされる。全員で幽霊になって、ナイトと一緒に過ごすのも悪く無さそうだね。


「さて、一応は周辺の捜索も続けるぞ。例のライオンが他にも居ないとは限らん」


「それもそうだね。…………と言うか、そもそもの話あの子って本当にパークから逃げた子なの? このダンジョンから出て来たモンスターって事は無い?」


「…………確かに、隠しダンジョンって時点で既存ダンジョンのルールを適用して良いのか分からんな。ブレイクしなくてもモンスターが出てくる例外である可能性は否定出来ない」


 だが、とお父さんは続けた。


「そんなもんは国の専門家が調べれば良いんだよ。俺達の仕事じゃない」


「それもそっか」


 私達は公務員でも無ければ正義の味方でも無い。家族のために武器を握る、一般的な家庭である。ただ保有してる戦力が一般的じゃないだけなのだ。


「と言う訳で、探索しつつ帰るぞ。もう主要な所には画像付きのメールで連絡してある。あとは偉いヤツらに任せよう」


「私達はパークの人達に事情を説明しなきゃね。…………いや、言っちゃって良いのかな? シークレットダンジョンだなんて世間に知れ回ったら問題? 秘匿しといた方が良いのかな?」


「それも国が考えれば良いんだよ。口止めも後手対応も全部国がやれ。俺達は知らん」


 その後、かなり広範囲を探ったけど何も見つからなかった。


 ライオンが居た形跡なら多々見付けたのだけど、それはダンジョンに逃げ込んだ個体の痕跡なのか、別個体の物なのか、私達にそんな判断は無理である。本職の猟師じゃないんだもん。


 結局は探るだけ探ってライオン本体は見付からず、暗くなる前にパークへと事情を説明してから家に帰った。


「隠しダンジョンか…………」


 今日まで、ネットではそんな情報を見た覚えがない。


 ならば誰か隠してるのか、それとも単純に見付かってないのか、それを判断する材料も無いまま家に帰れば、最愛の妹である真緒がお出迎えしてくれた。


「おねーちゃん、おかえりなさいっ♡」


 はぁぁあん私の妹は世界一可愛い!


 あのライオンがパークからの脱走者だろうとモンスターだろうと、どっちにしろ捕まえて真緒のペットにしてあげるからね!


 そうして私は、例のダンジョンへのアタックを決意するのだった。


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