事情を聞きに行く。



 翌日、結局依頼を受ける事にした私は学校を休んで依頼主の元まで駆け付けた。


 メンバーは私とお父さん。真緒は学校で、お母さんはお家で家事をしてるはず。


 ナイトに跨った私と紅犬に跨ったお父さんが国道を爆走して県外へ。福島にあるサファリパークの近くが現場である。


「ホワイトライオンだっけ?」


 もうすぐ目的地に着くだろうって時に、私は道路を爆走するナイトの背中で口を開いた。


「あぁ、目撃情報ではな」


 ナイトに併走する紅犬に乗ったお父さんは、私の唐突な質問にもタイムラグ無しで答えをくれる。


 寄せられた依頼は、スキルを使う白いライオンの撃退。その方法に問わず、現場から対象が居なくなれば依頼達成である。


 対象のライオンはスキルやダンジョンに関係した何かしらの事象で白くなったのか、元々白い種類なのかは分からない。だけど福島のサファリパーク付近と言うなら恐らくは後者なのだと予想している。


 日本で白いライオンが見れる動物園の内の一つがちょうどそのサファリパークなのだ。だから偶々たまたま白くなったライオンがその付近に出没したと考えるよりは、そのサファリパークから逃げ出したライオンがダンジョンでスキルを得て戻って来たと考える方が自然である。


 まぁ、携帯端末が使えないライオンがダンジョンでスキルを得て帰ってくるのがと言えるのかは別途で議論の余地があるのだろうけど。


「対象が使うスキルについては不明なんだっけ?」


「恐らくはスキルだろうって力は確認されたらしいんだが、その詳細が知れない類の物だったらしい」


 貰った情報では、まだライオンの使うスキルが確定してない。


 目撃者の話では周囲の石や木の枝なんかが勝手に浮いたりしたと証言してるらしいのだけど、それだけだといくらでも能力を推測出来てしまう。


 例えば念動力サイコキネシスみたいなスキルとか、石を浮かせる程に強い風を産むスキルとか、木の枝が浮いた証言とは合わないが磁力を操るスキルも一応は候補に入る。


 他にも、ナイトの守護霊みたいなスキルも有り得る。ナイトのスキルは守護対象である私の為に奇跡を起こすなんて曖昧な効果であり、その為なら物を浮かせたりも可能と言えば可能だ。


 実際、ダンジョンではミミック系のモンスターに私がバックリ食べられそうな時に、服を引っ張ったり霊体のまま私の体を押したりして危険から遠ざけてた。ならば石や木の枝を浮かす程度の事も可能なんだろう。


「で、優子? 本当に捕獲で良いのか?」


「うん。マーちゃんが気にしてたから」


 お父さんが言うように、私たちは今回の依頼を『ライオンの捕獲』で解決するつもりだ。理由は、真緒が私に「白いライオンさん!? 見てみたーい!」と言ったから。絶対捕まえちゃる。


 もっと言うと捕まえたライオンは飼う予定だ。と言うのも、この依頼はサファリパークから来たものであり、サファリパークから逃げたと思われるライオンに対してサファリパークが所有権を放棄してる形である。


 なので、捕まえたライオンの処遇は私たちが好きにして良い形で先方とは合意してある。


 現実問題として、日本でライオンを飼育するのは法的に許されるのかと言えば、許されてしまうのが現在の法律だ。


 そも、ホワイトライオンとはそう言った種類のライオンがいる訳じゃなくて、単純にライオンの白変種である。なので飼育するに至って特殊な条約などに引っかかりもしなければ、法律に反するものでも無い。


 ライオンを飼育したければ、所属する自治体に申請して許可が降りれば一般人でも飼育出来てしまう。


 ただ普通の家だと、『大型の肉食獣が脱走出来ない施設』が用意出来ないから許可が降りないのが現実であり、つまり実質的には一般家庭では飼えない。


 まぁ、逆に言えば許可が降りるだけの施設が用意出来るのなら、本当に問題なく飼えてしまうし、そして今の浅田家はライオンの飼育施設を用意できるだけの財力がある。


「私にはナーくんが居て、お父さんには紅犬ちゃんが居るもんね。だからせっかくだし、マーちゃんとお母さんにも素敵な仲間をプレゼントしたいじゃん?」


「お誂え向きに、今回の獲物は白いしな」


 そう。私とお父さんの相棒はスキルに由来する色がある。だからせっかくだし、真緒には白い相棒をプレゼントしたい。お母さんにプレゼントする時は紫になるんだろうけど、それは機会が来るまで待とうか。


「そろそろ着くぞ」


 下手な乗用車よりも高性能なナイトと紅犬ちゃんによってあっという間に辿り着いた福島のサファリパーク。


 私はドッグライドがあるから問題無く乗れたけど、鞍も使わずに紅犬ちゃんに直乗りしてたお父さんはお尻大丈夫なのかな……?


 そんな事を気にしながら、サファリパークのゲート前でナイトから降りた。


 シマウマ柄にデカデカと赤字で『サファリパーク!』と書いてある看板は、テレビでも時折見るアレだ。真ん中にライオンの顔がデデーンと主張してる。


 サファリパークは車でそのまま受付して乗り込むタイプなので、ゲート前は人が歩いて移動する様な作りにはなってないが、ゲート横の事務所みたいな場所に機乗したまま乗り込む訳にも行かないのでやっぱり歩く。


「こんにちわ〜」


「ご依頼を受けて来ました、冒険者ギルドの者です」


 ナイトは私の中に消え、お父さんま紅犬のスキルを解除して一緒に事務所っぽい場所の扉を叩く。


 冒険者ギルド自体はまだ立ち上がってないけど、お父さんを窓口に受ける依頼は冒険者ギルド名義になるので、こう言う文言になる。


 と言うか、じゃないと「ご依頼を受けたフラムでーす」とか有名人ムーヴする事になるのでこうなった。痛い勘違いちゃんみたいな言動はちょっと嫌だ。


「……あら、蒼乃フラムさん達ですか?」


 しかし、やっぱり知名度的にはやっぱり『蒼乃フラム』が断トツなので向こうの対応はこうなる。ままならんなぁ。


 さて、取り敢えずサクッと終わらせますか。


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