魔法の新装備。



 宿を出た私はサナの町並みを歩き、そのまま町の外へ出た。さぁ、コプト狩りだ。


 コプトの見た目は草食恐竜のソレであり、詳しくないので類似する恐竜をちょっと思い付かないが、前脚の太いパラサウロロフス辺りを思い浮かべたら多分合ってる。


 それでも分からない場合はアレだ、モンスターをハントするゲームに出て来るアプノなんとかって草食竜が似てるかも。


 緑と暗褐色のシマシマ模様で、温厚な性格をしてる。足は意外と早く、群れで暮らすけど一匹狩ると残りは素早く逃げる。上手く狩らないと数を取れない。


「よっと……」


 森へ入った私は鍛冶師に依頼してた武器をインベントリから取り出す。もう一週間経ってるので、とっくに完成して試運転も終わってるメインウェポンだ。今頃、地上ではゴスドラを作った皆さんはキレ散らかしてるかも知れない。ぽっと出の武器にメインウェポンの座を奪われたからなぁ…………。


 私の新しい大戦斧。銘は『エッゼ』と言う。サナ族の言葉で「戦う女」って意味らしい。


 ヘッドはゴスドラと同じく片刃で、先端からボルトの魔法を撃てる様に魔法陣が仕込まれてる。そして石突きにクロウの魔法が仕込まれてる形だ。


 普通、逆じゃね? って思ったけど、仕様を聞いたらこれで良かったと理解した。


 クロウの魔法は使用した後に魔法陣を叩き割る必要があるんだけど、ヘッドに魔法陣を付けると使いにくいんだ。だから石突きに魔法陣を仕込んで、発動する時は石突きの位置で魔法陣を展開する場所を決め、展開したら斧を振って魔法陣を斬り裂く。そうすると魔法陣の斬られた場所からクロウの魔法が飛び出すのだ。


 クロウの魔法はボルトと違って、魔法陣を叩き斬った時の威力がそのまま飛んで行く魔法なので、この形にならざるを得ないのだ。


 ニクスとは色違いで作って貰って、お母さんの長巻も似た様な作りになってる。


 他にも色々と魔導具は作って貰ったし、なんならエッゼとは別にボルト専用の魔導具もある。魔法銃だね。


「コプト狩るだけなら魔法銃で良いんだけど、メインウェポンの重さにも慣れたいしね」


 新調した大戦斧エッゼは素材から見直されてて、ゴスドラよりも重く、硬く、柔軟に作られてる。地上の人が開発した仮ミスリルも、サナ族の鍛冶師にかかればもっと品質を上げられたらしい。まぁ素材全部私の持ち出しって訳でも無いし、鍛冶師が出した未知の金属とかもあったんだと思う。


 一応、金属の配合は聞いてみたけど「あっはっはっは! 鍛冶師に鍛冶の技法を面と向かって聞くバカが居るか! 答えるわけなかろうよ!」と爆笑された。ダメでした。


「…………足跡発見。こっちか」


 五層の森をサクサク進む。コプトの足跡を見付けて、エッゼを担ぎながらゆっくりと向かう。


「採取も出来るし、資源は豊富…………」


 豊かな森を歩く。サナの町には薬師も居て、この森で取れる薬草等からポーションを作れる。望むならそのすべも学べるが、私達はまずヒートゲージをどうにかしなきゃなのでそんな暇は無い。


 しかし、そのまま生薬しょうやくとして使っても効果のある薬草なども存在し、そういった物はすぐ学べた。と言う図鑑を買った。


「このヤプ草とかね」


 齧ると魔力由来の麻痺を中和してくれる薬草を見付け、根元から毟ってインベントリにしまう。私達がパラライズボールとか使うんだから、この先の階層でモンスターが同じ事をして来ない保証なんてない。この手の問題は地上の技術ではどうにもならないので、生薬とかは積極的に集めて行きたい。


「……おっと、居たね」


 そんなこんな、森を進むとコプトを見付けた。百メートル程先に七頭程の群れだ。


「んー、まずスニークで一発。その直後に姿を表してもう一発。回頭して逃げるまでにもう一発…………」


 撃つ順番を決め、エッゼを構える。意識して魔力を走らせると、ヘッドに仕込まれた魔法陣を魔力が駆け抜けて自動で一筆書きを達成する。


 そうして魔法が成立し、展開された魔法陣から一発の弾丸ボルトが発射される。その速度は銃器並とは行かずとも、強弓ごうきゅうの矢弾よりは早かった。威力は言わずもがな。


「ほっ! 1キル!」


「ギゥ!?」


「イギィ!」


「そんで2キル! ほら逃げろ逃げろ回頭遅い君でフィニッシュ3キル!」


 撃った瞬間に茂みから出てアピールすると、その存在を確認してしまう習性を持つコプト。そこに付け込み二匹目も仕留め、そうしてやっと逃げ出そうと方向転換するコプト達から、もっとも行動が遅かった個体の頭を吹き飛ばす。


「ふぃ〜、やっぱ魔法って燃費良いねぇ」


 魔力を効率よく現象へと変換する魔法は、その矛先が破壊であるなら相応のチカラを見せてくれる。コプトも食用とは言え銀級五層のモンスターだ。下手な攻撃なら一撃で即死とかさせられない。


 私が三匹を仕留めた時点で、残ったコプトは方向転換を終わらせていて、そのままシュバッと猛ダッシュで逃げ出した。ああなったコプトにボルトを当てるのは無理なので、そのまま見逃す。一度走り出したコプトは森の最速スプリンターだ。多分ナイトが私から離れられても追い付けない可能性がある。


「さて、解体しますか」


 インベントリから解体用の大きなナイフを出す。これは注文せずとも普通に鍛冶屋で売ってたので13DDで購入。


「私も、獲物の解体上手くなったよね〜」


「ゎぅんっ」


 獲物を並べて解体を始めると、ナイトがそっと実態化して手伝ってくれる。


 絶命したコプトの首を斬ってから尻尾を上にして吊るす形にする。巨大化したナイトが三頭とも尻尾を咥えて吊るしてくれてるのだ。こうやって血抜きをする。


 その間に地面を掘り、解体で出る要らない物を捨てるのと、今も流れ出てる血を溜めておく場所を作る。


 解体方法って言うのは、結構生き物によって千差万別だったりする。けど、それは隅から隅まで利用しようって場合であり、ただ良い感じにお肉が欲しいってだけならそこまで気を使わなくて良い。


 血を抜いたらお腹へ慎重にナイフを入れて、肛門の近くから首に向かって裂いていく。この時に内蔵を傷付けない事だけは徹底する。尿や糞が中で漏れると、お肉が全部台無しだ。


 どんな雑菌が居るかも分からないから、汚れた場所だけ除去するって訳にも行かないのだ。汚物が漏れた時点でお肉全部が汚染されたと考えるべき。


 なので慎重に、慎重にお腹を裂いて、膀胱も腸も傷付けない様に腹を開けて、中身を取り出す。


 腸や膀胱は、お尻周りのお肉周辺ごと斬って外しす。本当は美味しいかも知れない内蔵も、冒険する必要が無いので全部穴に捨てる。


 心臓も胃袋も肺も腸も、全部捨てる。肝臓やら腎臓がコプトに有るのか知らないし、どれがそうかも分からないのでやっぱり全部捨てる。


「よし、洗浄」


 全部捨てたら、今度はお肉を洗う。と言うか冷やす。肉の鮮度を保つ為には必要なのだ。


 水を生み出す魔法陣と冷気を生み出す魔法陣が仕込まれた大きな水筒をインベントリから出したら、たっぷり魔力を込めてじゃぶじゃぶと冷水を生み出してコプトを洗って行く。


 食肉はしっかりと血を抜いて、そして冷やす。じゃないと匂いがキツくなる。もう私は臭いお肉とか食べたくないし、出来るなら血液とか飲みたくないんじゃ。だからこの処理はキッチリやる。


「さて、別に皮は要らないし、このまま持って帰ろうか」


 そこまで作業をしたら、インベントリから大き目のコンテナを出してコプトをしまう。キンッキンに冷えた水もセットで入れたら、そのままインベントリへ。


「目標達成。これ女将さんに持って帰って、今日の夕飯作ってもらおうね」


「ゎうっ!」


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