もえもえきゅん♡



「…………おねーちゃん、まお、このおむらいすが良いな」


 真緒が必死に悩み抜き、そして選ばれた料理はオムライスだった。しかし、それには重大な問題がある。


「マーちゃん、それ食べたら、お家で夜ご飯食べられなくなるよ?」


 そう、メイド喫茶にお子様ランチなんてものは無い。大きいお兄さんが通う為の店だもん。


 つまり注文して出て来る料理は普通にフルサイズ。大人向けだ。そして七歳児にはコレを食べた後に、夜ご飯を食べれる程の胃袋なんて備わってない。


「あっ、えーと………。えぇ………、でも、たべたぃ」


 しかし、それでも真緒は食べたいと言う。涙目可愛い。


 ならば、一生真緒を可愛がる刑に処されてる私が、こんなに可愛く悩む妹の苦悩は音速で解決しなければならない。


 すぐにアイズギアを起動して視界にLIKEアプリをポップさせ、私はお母さんに連絡を取る。


 蒼乃フラム:お母さんお母さん

 蒼乃フラム:真緒と一緒に秋葉原に行くって連絡したじゃん?

 蒼乃フラム:それで今、メイド喫茶に来てるんだけどね

 蒼乃フラム:飲み物か軽食で済ませるつもりだったけど

 蒼乃フラム:真緒が普通の食事食べたがってるから、夜ご飯ここで済ませちゃっていい?


 魔力で文字打つの、誤字無いし早いしとても便利。楽でいいな。


 少し待つと、お母さんから返信が届く。


 お母さん:今日は鍋のつもりだったから、明日に回せるわ

 お母さん:食べて来て良いわよ

 お母さん:お父さんには言っておくわね

 蒼乃フラム:お母さんありがとう! 愛してる!


 そんなわけで、許可が出たので真緒に教えると、とても可愛い笑顔がキラキラに輝いてオムライスを注文した。


 私もメイドさんにオムライスとハヤシライスを注文して、ドリンクは二人ともメロンソーダで良いかな。


「あの、お嬢様? 二人前もお食べになられるのですか?」


「あ、はい。ご存知かも知れませんが、私はレベルがちょっと高いんですよ。レベルアップすると代謝とか消化にも影響があって、要するに見た目より沢山食べれるんです」


 大人用のメニューを二人前頼んだ私に再確認するメイドさん。今伝えた通りに、今の私はこの店の中の誰よりも多く食べれる体質になっているのだ。


 と言うか、多分このお店の在庫全部食べ尽くすくらいは出来ちゃうかも知れない。


 今のところ、私を除いた世界最高レベルの保持者はアメリカのダンジョンアタッカーでレベル4。対して私は今、レベル8なのだ。誰よりも食える。


 単純計算で世界最高峰のダンジョンアタッカーと比べて倍の速度で消化出来るし、倍のカロリーを体に溜められる。


 ちょっと汚い話だが、進化した消化器官は食べた物から限界まで栄養を搾り取るので、沢山食べても排泄が少ない。沢山食べたからって何回もトイレに駆け込むなんて事にはならないのだ。


「結構食べるので、都度お代わりしますけど驚かないで下さいね」


「う、承りました、お嬢様……♪︎」


 少し引き攣った顔で注文を受けたメイドさんは、ホールからキッチンにそそくさと去っていった。


「おねーちゃん、まおもひらひら、きたい」


「マーちゃんならメイド服も絶対似合うと思うけど、多分合うサイズが無いよ」


 料理を待つ間、多数の視線に晒されながらも逆に辺りを観察する真緒は、周りのメイドさんが着ている服がお気に召したようだ。


 場所によってはメイドさんを体験出来るようなサービスも有るみたいだけど…………。


 仮に、このメイド喫茶ぱっとまーく♡にもそんなサービスがあったとして、どちらにせよ七歳児用のメイド服とかある訳が無い。


 と言うか、あったらマズイよね。七歳児にメイド服を着せる予定があるお店とか、ちょっとお巡りさんを呼ばざるを得ない。


「んー、ドゥンキにもメイド服とか売ってるし、買って帰ってお母さんに直してもらう?」


「うん!」


 とは言え、私は真緒ちゃんのお願いは可能な限り叶えたいお姉ちゃんである。メイド服に憧れる妹へ一応の提案をすると、真緒は喜んで頷いた。


 …………でも、ドゥンキに売ってるメイド服って、大人・・の夜用・・・なんだよねぇ。


 と言うか、この秋葉原って場所で手に入るその手の衣装は、偏見かも知れないけど、質が上がれば上がるほど夜用・・になると思う。


 それ以外の物となると、オーダーメイドじゃないかなぁ?


 そんなもの買って帰って、お母さんに何を言われるのか…………。


 うーん、いっそ特注しようか?


 そんな事を考えるけど、仕立て終わるまでの日数を真緒が我慢出来るのかと考えれば、既製品を買うしかない。


「むむむ、地味に難題だぞ」


 私は今、煩悩にまみれている。メイド服を来た真緒、絶対可愛いもん。私も真緒にメイド服着せたい。


「お待たせ致しましたお嬢様♪︎」


「オムライス二つとハヤシライスになりまぁす♡」


 メイド服の入手方法を勘案してると、案内してくれたメイドさんとは別のメイドさんが二人、料理を持って来てくれた。


 色を抜いたのかウィッグなのか、白い髪の毛でツインテールにしたお姉さんと、黒髪ショートの前髪パッツンのお姉さんだ。


 そこまで大きくないテーブルにそれぞれ料理が置かれ、そしてメイド喫茶のメインイベントとも言えるアレが始まる。


「では、お料理がもっともぉ〜っと美味しくなるように、魔法をかけますね♡」


「失礼しますっ♪︎」


 何が何だか分かってない真緒はキョトンとして、しかしプロたる二人のメイドさんは幼女からの視線なんか気にせず、ケチャップのボトルを持って慣れた手つきでオムライスにハートを描いた。


 そして胸の前で両手をハートマークにしてから、とびっきりの笑顔で呪文を唱える。


「「美味しくなぁ〜れ♡ 萌え萌えきゅん☆」」


 ……す、凄い! 本物の萌え萌えきゅんだ!


 私は感動した。レベルを手に入れる前、迷宮事変前の頃にテレビで見たことがある、本物のアキバメイドさんがやる、本物の萌え萌えきゅんが、今目の前で行われたのである。


 私的にはジョニーズの大正さんとお話しするより嬉しい。


 そんな思いの私はもちろんとして、真緒も可愛い服を着たお姉さん達の萌え萌えきゅんを見て喜んでいる。


 妹はまだプリティでキュアキュアなアニメを楽しみにしてる女の子なので、基本的にこの手の可愛いポーズやセリフは大好きなのだ。


「まおもやるー! おねーちゃんのおむらいすに、やっていーい?」


「もちろん! さぁマーちゃん、お姉ちゃんのオムライスをもっともっと美味しくしてくれる?」


「わかったぁー! えっと……」


 テーブルを挟んで対面に座ってる私と真緒。このままでは真緒の萌え萌えきゅんが、真緒自身のオムライスにヒットする事だろう。私のオムライスまで届かない。


 悩む真緒に、白い髪のメイドさんが「お嬢様、失礼しますね♡」と断ってから両脇に手を入れて、私の料理の前に抱っこしたまま連れて来た。


「メイドのおねーさん、ありがとぉ!」


「いえいえ♡ メイドはお嬢様のお役に立てて嬉しいです♡」


 床に降ろすとテーブルに届かないので、白い髪のメイドさんが真緒を抱えたまま準備して、お礼を言った真緒は満を持して呪文を唱えた。




「おいしくなぁれ、もえもえきゅん……♡」




 ………………がはッ!?


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